第127話 朝食は味が大事です

 テンションの上げ下げが激しい朝。

 昨夜のこともあって完全に寝不足だけど、そうも言ってられない。

 朝食を食べたらすぐに次の村へ向けて出発しないといけないんだから。

 まぁ今日も剣の姿になって馬車の中で寝てればいいか。いや、流石に怒られるか?

 昨日は魔物の群れを相手にしたっていう大義名分があったからのんびり休めたけど、今日はそんなこともしてないしなぁ。

 というかそもそも今のこの精神状態でレイヴェルの横でぐっすり寝れるかどうか……ま、いいか。そのあたりのことは後で考えるとしよう。

 魔力を貰えばご飯食べなくてもいいんだけど、それはそれでなんか寂しいし。

 宿の食堂へ向かうと、先に下に降りてたファーラとフェティがオレの分の席と朝食の準備をしてくれてた。

 向かいの席に座るのはレイヴェルとヴァルガだ。

 ライア達と狐族の人たちはそれぞれ別の机に座ってご飯を食べてる。

 というか、昨日の夜も思ったけどこの村ほとんど観光客はいないって言う割にこんだけの人数が泊まれる宿はあるんだよなぁ。その辺りはちょっと不思議だけど。


「おーいクロエ、こっちだよ」

「ずいぶんゆっくりでしたね」

「ごめんごめん。ちょっと目覚ましに顔洗ってたら時間かかっちゃって。レイヴェルとヴァルガもおはよう」

「おはよう。ずいぶん遅かったな」

「そういうレイヴェルはちゃんと起きれたんだね」

「ん? あぁ、まぁな。おかげでというべきか、あの後はゆっくり寝れたからな」

「む……」


 こっちは昨日の夜のこともあってなかなか寝付けなかったっていうのに。レイヴェルはぐっすり眠れたとか、それはそれでなんかムカつく。こっちばっかり意識してるみたいで。

 いやまぁ、そりゃ別に何かあれ異常の特別なことがあったってわけでもないし、意識してなくて当たり前なんだけど……でもなんていうかなぁ。もっとこう……って、オレは何を変なことでイラついてるんだ。

 こんなんじゃダメだ。昨日のことはもう忘れる……のは難しいかもしれないけど、とりあえず意識はしない。


「クロエ、どうかしたのか?」

「……ううん、別に。ヴァルガの方は…‥聞くまでもなくばっちりみたいだね」

「あぁ、当たり前だ。戦士にとって体調の管理も重要な責務だからな。ましてや今は任務中。寝不足で思考を鈍らせるなどもってのほかだ」

「それ、私に皮肉言ってる?」

「そう聞こえたか?」

「そうとしか聞こえないんだけど。あぁもう昔は固い中にも可愛げがあったのに、それすらなくなっちゃって」

「俺ももう大人だからな。それよりも早く座れ。そこに立ってると宿に人にも迷惑だろう」

「あ、そっか」


 ちょうどオレの立っていた位置は人の行き交う通路にあたる部分。確かにここに立ってたら邪魔かもしれない。

 机の上に並んでたのはごく一般的な朝食。パンにスクランブルエッグにベーコンにスープにサラダ。うん、美味しそうだ。


「いただきまーす」


 お、かなりおいしい!

 パンはふわふわだし、ベーコンはカリカリしてる。スクランブルエッグも甘すぎない感じだし。このスープはオニオンスープかな。なんかこう……贅沢な味ってわけじゃないけど、落ち着くような感じだ。

 正直虫料理とか出てきてもおかしくないと思ってたからこれはかなり嬉しい誤算だ。

 虫料理がダメってわけじゃないけど……さすがにまだ抵抗はあるし。こっちは人族が多いから配慮してくれた感じかな。


「美味しいねこれ」

「そうだね。アタシもついついお代わりしちまったくらいさ」

「私もです。朝食はそんなに食べるタイプではないのですが、これはちゃんと食べきることができました」


 食事が娯楽以上になりえないオレにとって味はかなり重要な要素だ。その意味ではこの宿の朝食はかなり当たりだろう。

 上機嫌でご飯を食べながらチラッと他のテーブルに目を移す。

 ライア達はもう食べ終わってるみたいだな。なんか話合ってるのはこの後のことについてだろう、たぶん。

後は狐族の……コルヴァだっけ? 結局最初に会った時以来ほとんど喋ってないな。まぁ別々の移動だししょうがないけど。

 あれ、でもそういえば昨日の夜に宿でご飯食べてた時も見かけなかったような……あの時はそんなに気にしてなかったけど。一体何してたんだ?

 露骨に怪しい感じだ。って、頭から疑ってもしょうがないか。それはいくらなんでも偏見が過ぎる。視野を狭めるのは良くないしな。


「ん?」

「どうしたんだいクロエ」

「……ううん、なんでも。気のせいだったみたい」


 一瞬あのコルヴァって人がオレのこと見てた気がしたけど……今はこっちのこと見てないし、たぶん気のせいだよな。オレが魔剣だって知ってるならまだしも、そうじゃないならオレのこと見る理由もないしな。

 っと、ジロジロ他の人の所見てる場合じゃないか。早く食べ終わらないと。

 

「ぷはぁ……もうお腹いっぱい。美味しかったぁ」

「ははっ、言い食いっぷりだったね。そんなにお腹が空いてたのかい?」

「朝だしねぇ。それにこんなに美味しい朝食ならついつい食べちゃうっていうか」

「その気持ちはわかるけどねぇ。さて、それじゃあこの後のことについて話合うとしようか。目的地の村は決まってるけど。どのルートを通っていくか、改めて確認しておかないとしようか」

「うん、そうだね」


 そして、オレ達もこの後のことについての話し合いを始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る