第319話 姉妹の邂逅

「ハクア……」

「お久しぶりです。姉さん」


 カイナの目の前に姿を現したのは真っ白な少女ハクアだった。その顔はカイナと瓜二つ。違いがあるとすればそれは髪と目の色くらいだった。


「久しぶりに会えるのは嬉しいんだけど……っ!」


 カイナは突然ハクアに向けて手を突き出す。


「無駄です。今の姉さんにわたしの《創造》を超えられない」


 しかし、その手はハクアの前に突如出現した壁に阻まれた。カイナの《破壊》よりも早くハクアの《創造》が壁を作りだす。ハクアの《創造》の力がカイナの《破壊》を上回っていることの証左だった。


「久しぶりに会って少しは正確が落ち着いているかと思いましたが……そんなことはなかったようですね。姉さんが姉さんのままなようでなによりです」


 皮肉のこもった言い方だった。このごく短いやりとりだけでカイナとハクアの関係性が透けて見える。少なくとも、良いものではなかったのは明白だ。


「性格は昔のままですが、力はずいぶんと落ちたようですね」

「っ、誰のせいだと」

「強いて言うなら姉さんの愚かしさが原因でしょうか」

「へぇ……そっちはしばらく会わないうちにずいぶんと言うようになったじゃない。わたしに勝てないからって余所の力まで借りたくせに」

「勝てない、じゃなく不毛だっただけです。姉さんとわたしの力はどこまでいっても平行線。拮抗するだけですから。もっとも今はその限りではないですけど。望むならわからせてさせいあげますが」


 それは単なる挑発ではない。表に出てくることは成功したものの、まだ封印は残っている。しかも長年の封印で力を使う感覚も鈍っている。それに対してハクアは昔と変わらず万全の状態のままだ。こうして互いの《破壊》と《創造》を押しつけあっている今も徐々に《創造》の速度が上がっている。

 口ではなんとでも言えるが、勝てないことはカイナ自身もわかっていた。それえでもカイナのプライドがそれを認めることを許さなかった。


「ここで決着を――っ!?」


 レイヴェルの魔力を使い尽くしてでも戦おうとしたカイナだったが、その身に突然異変が起きる。


「ま、まさかもう起きた? あり得ない。そんなのあり得ない。二人は完全に切り離してたはずなのに……ぐぅっ!」


 胸を押さえて地に膝を着くカイナ。胸の鼓動は強まるばかりだった。それはカイナに残された時間があまり長くないことを示していた。


「……ふぅ、くぅ。もう少し粘れると思ったのに。ははっ、あはは。ハクア、残念だけど姉妹の交流にはここまでみたい。あの子が目を覚ます」

「……そうですか。では彼女の方にも挨拶をしておくとしましょう。さようなら姉さん、次に会うのが世界の終末でないことを祈っています」

「そうね」


 その言葉を最後にカイナは目を閉じた。






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 それは本当に短い邂逅だった。

 カイナの意識が落ち、クロエの意識が浮上する僅かな間に二人は再び向き合った。


「カイナ……」

「まさかあなたが自力であの拘束を解くなんて」

「自力なんかじゃない。レイヴェルのおかげ」


 クロエの隣にはレイヴェルが居た。二人はその手を握りあったまま離さない。

 カイナを見るクロエの目は非常に険しかった。


「私はレイヴェルを助けてって言ったのに。これはどういうことなの」

「ちゃんと助けた。どう助けるかはわたしの自由でしょ」

「あなたは……」

「言っておくけど。わたしはまだ諦めてない。この体を取り戻すことを。たとえ今は再びあの場所に戻ってしまったとしても、今度は必ず。完全に体を取り戻してみせる。もうすでに封印は綻んだんだから」


 それだけ言うと今度はレイヴェルの方へと目を向けた。


「最初はあんまり興味無かったけど。わたしもあなたのこと気に入ったわ。マスター、忘れないでね。あなたとわたしはもう契約した。あなたが望めばわたしはいつでも、どこに居たとしてもあなたの元へと駆けつける」

「レイヴェルの契約者は私! あなたがレイヴェルの契約者面しないで!」

「ふふっ、それを決めるのはわたし達じゃない。マスターなんだから。じゃあね、またいつか」


 それだけ言い残して、カイナはクロエと入れ替わるように奥底へと戻っていった。

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