第6話 意外な再会 

〈レイヴェル視点〉


 その店を知ったのは冒険者の先輩に教えてもらったからだった。

 長らく王都で冒険者稼業をしているというその先輩に教えてもらった店の名は『黒剣亭』。最近話題の店らしい。

 料理の美味さは言わずもがな、何よりも特筆すべきはその店で働いてる娘なのだと先輩冒険者は言っていた。

 曰く、傾国級の美少女がいる。その少女を一目見るために通い詰める常連も多くいるのだと。

 その言葉を鵜呑みにしたわけでもその美少女に興味があったわけでもないけど、他に知ってる場所が無いからそこに行くことにした。

 いつもは泊ってる宿で食べてたけど、今日は依頼が長引いて宿の昼食時間を過ぎちまったんだよな。

 っていうわけで、教えてもらった店に来たんだが。

 店に入った俺は思わず驚きに目を見開いた。


「……………」


 俺の目の前で笑顔のまま固まっている少女。

 その少女は確かに傾国級と言われてもおかしくないくらいに美しい少女だった。

 でも俺が驚いたのはその少女が伝聞通りの美少女だったからじゃない。昨日会ったことがる少女だったからだ。

 市場をぶらぶらしてる時にぶつかってしまった少女。なんか俺の顔を見るなり急に走り去って行ったからなんとなく覚えてた。

 自分で言うことじゃないが、俺は若干、少し人相が悪い。

 初めて会う子供には泣かれてしまうこともあるくらいだ。だからこの少女のことも怖がらせてしまったんじゃないかとちょっと落ち込んでたんだ。

 っていうかマズい。沈黙が重い。俺は人と話すのがそんなに得意じゃないんだ。

 でもこいつ固まったまま動く気配ないし……仕方ない。俺から切り出すか。


「おい。何固まってんだよ」


 あ、まずった。畜生またやっちまった。

 なんでこう俺はいつもぶっきらぼうな言い方になるんだ。

 まぁ、だからってすぐに直せるようなもんでもないんだけどさ。


「聞こえてんのか?」

「はっ! え、あの、その、いら、いらっしゃいます?」


 二度目の問いかけでようやく固まってた少女が動き出す。

 っていうかこいつも相当慌ててるのか?

 それとも……もしかしてまた怖がられてるのか俺。


「なんで疑問形なんだよ」

「あ、違った! いらっしゃいませ! そう。いらっしゃいませです! すみません。ちょっと考え事しちゃってて。すぐに席に案内しますから」

「お、おう」


 急に動き出した少女に若干戸惑いながら、俺は後をついて行く。

 っていうか、繫忙時間は過ぎてるだろうに結構客いるんだな。

 さっきからチラチラ見られてるのが気になるけど……もしかして俺がこいつ怖がらせたとか思われてるのか?

 だったら心外だ。この顔が生まれつきだし、話し方は……まぁ悪いかもしれないけど。


「ど、どうぞ。あの壁にかかってるのがメニューなので、決まったらまた呼んでください」

「あ、あぁ。わかった」

「そ、それじゃあまた」


 そそくさと俺から離れていく少女。

 やっぱり怖がられてんのか俺。

 若干落ち込みそうになったけど、子供とか女の人に怖がられるのはいつものことだからな。酷い奴なんか人殺してそうとか言いやがるしな。

 怖がらなかった人なんて数えるくらいしかいない。


「まぁいいか。とりあえず食べるもん決めるか」


 壁にかけられたメニューは思った以上に豊富だった。

 俺の泊ってる宿なんか二種類から選べって感じだしなぁ。それにしても、見た感じ作ってるの一人だけっぽいのに、全部捌けるのか。普通にすごいな。

 キッチンに立ってるのは強面のおっさんが一人だけ。

 その目つきの悪さは俺に通じるもんがあって、勝手ながらシンパシーを感じてたりする。


「ジーーーーーーーーー」

「…………」


 見てる……よな、あれ。え、めっちゃ見てるよな。

 顔を動かさず、視線だけ動かして視線の方を確認する。

 すると案の定というか、さっきの少女が俺のことをジッと見てた。それはもう凝視してた。

 嬉しそうな顔したかと思ったら頭ブンブン振ってしかめっ面したり、なんか百面相してんだけど。

 俺なんかしたか?

 うぅん。こんなに見られてたら流石にメニュー選びに集中できない。

 そういえば隣にいる男……あいつも昨日見た気がする。確か一緒に居たよな。

 男の俺から見てもイケメンって感じの奴だな。彼氏とかか?

 美男美女のカップルって感じだな。

 その男と何か話してたと思ったら、少女の方が水を持って俺の席に戻って来た。


「み、水持ってきました~」


 平静装ってるけどなんか声が上擦ってるし。

 明らかに動揺っていうか、緊張してるよな。


「あ、どうも」


 なんか俺まで緊張してきた。

 いや、特に俺が緊張する必要はないんだけどさ。


「お悩みですか?」

「え、あぁ。そうだな。まだ悩んでるんだけど……おススメとかあるのか?」


 まだ悩んでるっつうか、お前のせいでメニューほとんど見れてないだけなんだけどな!


「そうですねー。サイジさんの作る料理はなんでも美味しいので、全部おススメですけど。強いて挙げるなら日替わり定食でしょうか。毎日店主のサイジさんが直接市場に行って目利きしてますから。今日はオークカツ定食ですね」


 サイジ……ってあの強面の人か。

 確か料理もめっちゃ美味いって話だったしな。

 なんか今からメニュー見て決めるのもめんどくさいし、おススメだって言うならそれでいいか。


「オークカツ……じゃあそれで」

「はいかしこまりましたー!」


 少しだけ得意気な顔をしながら離れていく少女。

 なんで得意気なんだ?

 わけがわからん。

 まぁいいか。後は食って帰るだけだし。

 食べ終わったらまたギルドに行かないとな。王都のギルドって人が多いから完了報告にも時間がかかるし。

 そんでついでにいい依頼が残ってたら受けるとして。

 でもあんまり残ってなさそうだよな。確かに聞いてた通り、王都の依頼はゴブリン討伐でも地方より報酬高いけどその分冒険者の数も多いしな。

 そもそもD級の俺じゃ受けれる依頼なんてたかがしれてるけど。

 王都での祭りがあるからって俺みたいに出稼ぎに来てる人はいっぱいいるしな。


「そういえば、変な依頼とかもあったよな。魔物を捕まえてほしいだなんて。確か王宮からの依頼だったよな。報酬はずいぶん破格だったけど……」


 一体魔物を生け捕りにしてどうしようって言うのか。

 俺にはまるでわからないけど……ま、変な依頼は受けないに限るってな。


「とりあえず今日は宿に延長分の金だけ払わないとな」


 そんな風に今日この後の予定を頭の中で立ててたら、料理が運ばれてきた。

 でも、俺は料理を運ぶトレーの上を見て思わず目を丸くした。

 なぜなら、そのトレーの上には明らかに二人分の料理が乗っていたからだ。


「お、お待たせしましたー」


 どうやら、ただ食って帰るだけってわけにはいかなさそうだな。

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