第301話 エンドレスループ

 クランとワンダーランドが呼び出した兵隊がレイヴェルに襲いかかる。エルフは魔法で、ドワーフは作り出した武器で、その他の種族もそれぞれの得意を武器にしてレイヴェルのことを殺そうとする。

 しかし『鎧化』しているレイヴェルにはどの攻撃も通らない。ただ支配されていた先ほどの兵士達とは違い、命までもすでに奪われてしまっているその兵隊に防御の概念は無く。

 レイヴェルが剣を一振りすれば糸が切れたかのように崩れ落ち、そしてそのまま土へと還っていく。

 だがそうして消えた分はすぐに補充され、レイヴェル達の行く手を阻む。


「いくらなんでもキリがないぞ!」

『私の破壊の力をまさしく肉壁で防いでる。死をも恐れないというか、すでに死んでるからその辺りの恐怖もないのかもしれないけど……ちょっと厄介かもね』


 レイヴェル達はクラン達に近付くことができず、だからと言ってこの兵隊の攻撃はレイヴェルには通らない。膠着状態になりはじめていた。しかし、短期決戦を望むレイヴェル達にとってそれは最悪ともいえる状況だった。こうしている間にもレイヴェルの魔力は減り続け、そしてクラン達は次なる一手への準備を進めることができるのだから。


『レイヴェル、これ以上悠長にはできないよ。『鎧化』してる今なら無理矢理でも押し切れるはず。行くしかないよ!』

「それいかないか。行くぞ!」


 レイヴェルは兵隊の相手をすることを止め、最短距離でクランの場所を目指す。レイヴェルのことを止めようと伸ばされる手は鎧に触れた瞬間に弾かれ、そのまま《破壊》の力が伝播して崩壊していく。

 生きてはいない、クロエはそうわかって居ても人の姿をしたものを自身の力で崩壊させていくたびに嫌な気持ちになることは否定できなかった。


「クロエ、嫌なら見なくても」

『大丈夫。そういうのもちゃんと受け止めるって決めたから』

「……そうか。わかった」


 レイヴェルはクロエのその言葉を信じて突き進む。しかしそうして突き進む間にもクランは次なる一手を打とうとしていた。


「サーカスはまだ始まったばかり。もっと楽しまないと。楽しんで楽しんで、それから死ね」

『あははは♪ クラン、今日は良い感じにキマってるねぇ。二人のおかげかな? それじゃあどんどん行くよ!』

「回れ、回れ『終わりなき夢幻エンドレスループ』」

「っ!?」


 不意に足元が消失し、落ちるような感覚がレイヴェルを襲う。なんとか着地したレイヴェルだったが、周囲の様相は先ほどまでとは様変わりしていた。

 そこは果てなき螺旋階段。その階段はひたすら上へと伸び、その一番上は見えすらしない。


「どうなってるんだ」

『まさかまた世界に巻き込まれた? ううん、私の力は使えるし。レイヴェル、私を足元に突き刺して』

「わかった」


 レイヴェルは言われた通りに剣を地面に突き刺す。だがクロエの力で空間を破壊しようとしても、壊すことはできなかった。


「壊せないのか?」

『前みたいな作り出された空間じゃない。つまり、ここは本当にある場所で。もしかしたら私達は飛ばされたのかもしれない』

「飛ばされたって、そんなことまでできるのか」

『私が言うことじゃないけど、魔剣相手に常識を考えても無駄だよ。あぁいうワンダーランドみたいなトリッキーは魔剣は特にね。ここが同じ世界かどうかもわからないしね』

「? どういうことだ」

『……ごめん。今は気にしないで。それよりこうなったら一度上ってみるしかないかも』

「そうだな。この螺旋階段を上るのは気が引けるけど」

『そこはレイヴェルに頑張ってもらうしかないかな』

「自分は剣の姿だからって呑気なことを……まぁでも仕方無いか。のんびりしてる余裕もないしな」


 そしてレイヴェルは螺旋階段を上り始めた。その先で何が待つかも知らないままに。

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