第59話 クロエvsドヴェイル
あぁくそっ!
リューエルさんのもとに早く行かないといけないのに、この魔人族共が邪魔してくるから! あぁもう鬱陶しい!
殴り倒しても次から次へと虫のように湧いて来る。
これにはさながら天使のように優しいと王都で言われてたこのオレでも苛立たずにはいられない。
もうがむしゃらに全部壊していいなら話は早いんだけど、ここは里だからそういうわけにもいかない。
まぁこんだけ色んな場所が燃えてて、どこもかしこも戦場になってる今ならちょっとくらい壊してもバレない気がするけど……。
さすがに止めとこう。それだけの破壊の力を使うのは燃費が悪すぎる。レイヴェルから貰っておいた魔力はまだ残ってるけど、これを使い切ったらオレはただの的に成り下がるわけだし。
「魔力無くなったらほとんど素人だしなぁ。今も力でごり押ししてるだけだし。斬るとかじゃなくて殴るとか蹴るしかしてないし、全然魔剣らしくない……いやいや、そんなことで落ち込んでる場合じゃないから! 先を急ごう!」
近寄って来た魔人を殴り飛ばして気絶させながら、オレはリューエルさん家の方へと走る。
この時、正直かなり余裕が無くて、急いでたから気付かなかった。
オレの倒したグ・ペペガとかいう男がかなり危険視されていた賞金首の男であり、その男を一撃であっさりと倒しさらに十人以上の魔人を圧倒する戦いを見せたことで周りの冒険者達から畏怖するような目で見られていたということに。
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んー、えーと。これはどういう状況なんだ?
ドヴェイルとかいうおっさんを目の前に、後ろにリューエルさんを庇いながらオレは頭を働かせる。
里に戻って来て、魔人達を蹴散らしつつリューエルさんを探してたらこのおっさんがリューエルさんを殺そうとしてるのが目に入って、だから焦って止めに入ったわけなんだけど。
「大丈夫ですか?!」
「ク、クロエちゃん?」
「なんだかよくわからないですけど、なんかマズそうだったんで助けに来ました!」
うん、ホントに何がなんだかよくわかってない。
いや状況を察するにたぶんこの男が裏切り者なんだろうけど。
いや、だとしても。だとしてもだ。あんまりにも展開が急すぎる!
もっとこう、こっちも心構えとかしたいのに。
レイヴェルとラミィのこととか、あのムカつく魔剣使いのこととか。リューエルさんとこのおっさんのこととか……。
あんまりにも急すぎると頭の処理がついていかない。
多処理は苦手なんだよぉ。一つずつ確実に処理していきたいタイプなんだよぉ。
あー、もうっ! このイライラどうしてくれようか!!
「貴様……何者だっ!」
何者だって、昨日会っただろうが脳細胞死んでんのかクソ爺。
おっと、つい苛立ち過ぎて……。
ダメだダメだ。クロエはそういうタイプじゃないんだから。落ち着けオレー。
だいじょーぶ。大丈夫だぞー。
オレならできる! やってやれないことはない!
オレはレイヴェルの相棒で、世界で一番の最強の魔剣なんだからな。
「私はクロエ、イージアからやって来た冒険者レイヴェルの相棒のまけ——じゃなくて、冒険者!! えぇと……あなたのことをぶっ壊しに来た!」
あぶね。思わず魔剣って言いかけた。
とりあえずこいつの話を聞いてる時間はないし。サクッとぶっ飛ばしてリューエルさんに話を聞く。
あと単純に、リューエルさんを傷つけたこいつが許せないからぶっ飛ばす。
何考えてこんなことしたかなんて興味もないけど、その落とし前はつけてもらう。
「冒険者? 冒険者だと。たかが人族の冒険者如きが……この俺に勝てると思うなよっ!」
「人族だとか冒険者だからとかは勝負に関係ないでしょ。勝負において求められるのは純粋な強さだけ。種族とか、そんなのは些事でしかない」
魔剣であるオレだからこそ言えることなのかもしれないけど。
人族も竜人族も、オレ達魔剣から見たら一緒だ。どんぐりの背比べみたいなもの。
種族間での強さなんて、あっという間に覆る。
強い人族も居れば、弱い竜人族だっている。当たり前のことだ。
まぁ、中には例外もいたりするけど……イグニドさんみたいな。
「ほう。貴様はこの俺より強いと? そう言っているのか?」
「そうだね。少なくともあなたよりは強いと思うよ。今の私でもね」
レイヴェルから貰った魔力はまだ十分余ってる。
このおっさんを倒すくらいの余裕はある。
徒手空拳で戦うのは得意じゃないのに……っていうか、そもそも魔剣って剣だから! こんな風に直接戦うものじゃないから!
今回は仕方ないのかもしれないけど、はぁ……なんか魔剣としての本懐を全然果たせてない気がする。
「リューエルさん、あの人は倒しちゃって問題ないんですよね」
「え、えぇ。大丈夫よ。でも……」
「私なら大丈夫です。レイヴェルから貰った魔力もまだありますし。リューエルさんは下がっててください」
「……わかったわ。気をつけてね」
「人族ごときがこの俺より強いなどと……調子に乗るなぁ!!」
力任せの突進。
あの爪でオレのことを切り裂いて終わらせるつもりなんだろう。
でも甘い!
「ふっ」
頭上から振り下ろされた爪を掻い潜って懐に潜りこむ。
魔力を使っての加速だ。視認できないほどの速度で潜り込んだら後は殴るだけ!
「なんだとっ!?」
「はぁっ!」
「ぐぶぅっ!」
肘打ちをおっさんの鳩尾に向けて打つ。確かに当たった。当たりはしたけど。
「浅い……」
直撃する直前、おっさんが僅かに身を引いた。このあたりの判断の速さはさすがに竜人族って感じだ。このおっさんが戦い慣れてるってのもあるかもしれないけど。
後は単純にオレが弱いから。より厳密に言うと、力はあるけど、それを使うための技術がオレにはない。
当たり前だ。オレは使われるための剣。剣に技術は必要ない。剣に必要なのは力だけだ。
技術は剣の担い手が。オレで言うならレイヴェルが技術を持ってればいいんだ。
だからオレの戦い方は基本的に滅茶苦茶だ。力を振り回すだけで、そこには技術も何もないんだから。見る人が見れば素人だって丸わかり。
でもオレはそれでいいと思ってるし、それでも勝ててしまうほどにオレの力は強い。
相手が培ってきた技術も、自信も、何もかもを破壊してしまうほどの力。
それがオレの……魔剣の力。
「ごほっ、げはっ! な、なんだ今の動きは……なんなのだ貴様はぁ!!」
「だから言ってるでしょ。私はレイヴェルの相棒の冒険者。それ以上でもそれ以下でもない」「ふざけるなっ! ただの冒険者風情が、この俺が視認できないほどの速さで動けるものか!」
「それはあなたが冒険者を舐めすぎなだけだと思うけど。少なくとも、あなたより強い冒険者を私は何人も知ってる」
「くぅ……っ!」
怒りと悔しさで顔を真っ赤にしたおっさんはオレのことを射殺さんばかりの目で睨みつける。
魔眼でもないのに睨みつけられても怖くないけど。
「降参するって言うなら、今ならまだ受け入れてあげますよ」
「誰が降伏などするかっ! そんなことするぐらいならば死を選ぶ! あぁそうだ。元より退く道などないのだ! 野望を果たすか、ここで死ぬか! 俺に残された道はその二つのみ!」
あぁ、めんどくさー。死を選ぶとか自分で言っちゃう当たり、自分に酔ってる感がすごくてさぶいぼものだ。
でもこのタイプは本気で言ってるからたちが悪い。
「まさか貴様相手にこの技を使うことになるとは思わなかったぞ……この技を使わせたことを誇り、そして後悔しながら死ぬが良い!! 『化身・竜装』!!」
おっさんの魔力が膨れ上がり、それに伴ってボコボコとその体が隆起する。そんであっという間に倍くらいの大きさになった。
腕も、足も、何もかもだ。
俺の体なんてあっさり圧し折れそうなくらい太い腕には、これまた鉄でも豆腐みたいに切れそうなほど鋭い爪が生えてる。
「やっぱりそう来るよねー」
これあれだ。自分の体の限界を超えて、命を削ってーみたいな感じで体を強化してるやつだ。反動もやばいタイプのやつ。
いや、オレまだ一発殴っただけなんだけど。まぁそれだけこのおっさんが優秀ってことなのかもしれない。
たった一撃でオレとの力の差を感じてしまう、感じることができてしまうっていう意味で。
「こうなったオレは誰にも止められんぞ。全てを破壊し尽くすだけだぁ! ぐはははははははっっ!! 俺に歯向かったこと、後悔しながら死んでゆけぇ!!」
「あぁもう、うるさいっ!!」
「ぐふぅ……っ」
一撃。
さっきと同じように、馬鹿みたいに突進してきたおっさんを殴る。遠慮なしに、全力で。
今度は避ける余裕もなかったのか、オレの拳はおっさんの鳩尾にめり込む。
「これで終わりです」
「ば……か……な……」
おっさんは地面に膝をつき、白目をむいて倒れ伏す。
「だから言ったでしょ、あなたよりは強いって」
こうして、オレとおっさん……ドヴェイルとの戦いはあっさりと幕を閉じたのだった。
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