第195話 再び王城へ
〈レイヴェル視点〉
「おいクロエ、ちょっと落ち着けって。急にどうしたんだ!」
「……」
『猫奪屋』を出たクロエは、呼び止める俺の言葉も聞かずにまっすぐに王城へと向かっていた。
その理由はもちろんわかる。獣王様の所に向かおうとしてるんだろう。だが、前回ならともかく、いくらクロエが獣王様の知り合いとはいえ、ただの冒険者でしかないオレ達がそんな簡単にこの国の王に会えるわけもない。
当然のことながらクロエは王城の前にいた衛兵に止められる。クロエの放つ怒りの波動に若干怯えつつも、それでも兵士としての責務を果たすためにクロエの前に立っっていた。
「どいて、私はカムイに会わなきゃいけないの」
「そ、それはできません。あなたが獣王様のご友人であることは存じておりますが、事前に謁見の予定が無ければここを通すことはできないのです」
「何がご用があるというのであれば話を通していただいてからでなければ」
「そんな余裕はないの! 私は、今すぐにカムイに用があるの、それを止めるって言うなら無理やりにでも」
「おいクロエ、それはさすがに——」
「なんの騒ぎだ」
いよいよ実力行使に移ろうとしたクロエを止めようとしたが、それよりも先に彼が現れた。
「あなたは……」
獣王様の傍にいた魔剣使い……確か、ヴァレスって名前だったはずだ。
「お前達は……なるほど、そういうことか。理解した」
ヴァレスさんは小さくため息を吐くと、衛兵達に下がるように命令した。
「ついてこい。もしお前が来たら案内するよう言われている。だからその殺気を抑えろ。でなければ俺が剣を抜くことになる」
「……わかりました」
ヴァレスさんの言葉にようやくクロエは力を抑える。
ふぅ、さすがにヤバかったな。ここでクロエの力を解放するとか、それこそ国に喧嘩を売るようなもんだ。
何言われるかわかったもんじゃない、なんてレベルじゃないか。完全に犯罪者だな。それも重犯罪者だ。今もだいぶ危うい気がするけどな。
「クロエ、ちょっとは落ち着いたか?」
「……ごめん」
「俺に謝ることはないけど、さっきのはさすがにヤバいぞ」
「そうだね。ちょっと焦り過ぎたかも。私だけならともかくレイヴェルまで巻き込むことになってただろうし」
「アホか。お前一人でもやらせるわけないだろ。危ない目にあうってわかってるのに止めない奴がいるか」
まぁ実際に俺一人で止めれるかはわからないんだが……。
「それよりもどうして獣王様の所に行こうとしてたんだ?」
「……カムイに確認したいことがあったの。もし私の想像通りなら……さすがに見過ごせないから」
クロエの表情にはある種の覚悟と決意が見て取れた。クロエが何を言おうとしてるのか、なんとなく予想はつくけど。
そんな話をしている間に獣王様の待つ部屋へとたどり着いた。
「……ついたぞ。それと一つ忠告だ。内緒話は聞こえないようにやるようにな。今回は聞こえなかったことにしておくがな」
「す、すみません」
「お前が何を言いたいかはわかっている。だが、もし獣王様に何かしようとすれば……」
腰に提げた魔剣が光を放つ。全てを言葉にしなくても、それだけで意味は十分に伝わってきた。
「開けろ」
ヴァレスさんの言葉に、部屋の前にいた兵達が重厚そうな扉をゆっくりと開く。
クロエは一度だけ深呼吸すると部屋の中へと入っていった。俺もその後に続いて部屋に入る。そして、俺達が入ると同時に再び扉は閉じられた。
てっきりヴァレスさんも一緒に入るかと思ったんだが。獣王様から何か言われてるのか?
クロエはまっすぐ前を……部屋の最奥にいる獣王様のことだけを見つめて近づいていく。
「……来たよ、カムイ」
「……来てしまったのか、クロエ」
言いようのない緊張感が部屋全体を包むなか、二人は対峙した。
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