第246話 不思議な運命

 変身薬を飲んでから二時間ほど経ち、レイヴェルの体はようやく元の体に戻っていた。


「うん、変な所はなさそうだな。それにしても本当に飲んだだけで変身できるなんて……改めてすごい薬だな」


 レイヴェルが自分の部屋に戻って鏡で自分の姿を確認していると、部屋の扉がノックされた。


「レイヴェル、居る? 入るよー」


 ノックもそこそこに部屋の中に入ってきたのはクロエだった。レイヴェルの部屋に入ったクロエは、元の姿に戻ったレイヴェルを見て少しだけ残念そうな顔をした。


「あー、もう完全に元に戻っちゃったんだ。残念」

「残念って、お前なぁ」

「だってエルフ姿のレイヴェルなんて初めてみたし。まぁそもそも変身薬飲まないと他種族に変身なんてできないんだけどさ。レイヴェル、エルフ族の姿もすごく似合ってたよ」

「それは喜んでいいのか?」

「一応褒めたつもりなんだけど。でもやっぱりレイヴェルはその姿で居てくれた方がしっくりはくるかな」

「クロエは体に合わないんだったか?」

「うん。飲んでもまったく効果無し。まぁでも考えたら当然の話ではあるんだよね。私の体って剣でできてるわけだから。普通の薬が効くわけないんだよ」

「それもそうか。あ、そういえばアイアルの方はどうなんだ?」

「アイアルもちゃんと元の姿に戻ってたよ。グリモアに入るためとはいえ、アイアルにはちょっとしんどいことお願いすることになっちゃったけど」

「でも、必要なことなんだろ」

「コメットちゃんはもちろんだけどアイアルもグリモアに行ってもらうべきだと思ったから。グリモアの情勢だけが不安材料だけど……」

「ギルドで色々調べてきてくれたんだよな」

「うん。昔から面倒な国だったけど、今の時期になってさらに不安定になってるかな」

「……クロエは昔グリモアに行ったことあるんだよな?」

「うん。かなり前のことだけどね。キアラとハルと一緒に行ったかな。あの時は大変だったなぁ。今回みたいに変身薬を飲んで行ったんだけど、途中で変身薬の効果が切れちゃったりして。もう上から下から大騒ぎ。あの時も結構大きな騒動起こしちゃったから、そのせいでエルフの長老達にかなり警戒される羽目になっちゃったんだよね」

「そうなのか……って、グリモアの内情の変化ってそれも関係してるんじゃないのか?」

「……その可能性もなきにしもあらず。そう言われると確かにあの事件の後からグリモアの規制って厳しくなったような気も」

「おいっ!」

「あははっ、まぁ過去のことはどうしようもないってことで」

「それは自分で言うことじゃないだろ。で、グリモアに行った時にコメットの母親とも会ったのか?」

「うん。サテラとはそこで会ったよ。サテラは元からグリモアを出たかったらしくて、騒動に困ってる私達を助けるついでにグリモアを出たの。その後にスミスターに行って、ドワーフのアルマに会ったの」


 レイヴェルに過去の思い出を話しながら、クロエはサテラと出会った時のことを思い返していた。

 エルフの中にあって、さらに特別な力を持っていたサテラは非常に特殊な存在だった。もしサテラと出会っていなければクロエ達の旅路はまったく違ったものになっていただろう。

 魔剣であるクロエにとっては僅か二十数年前の話。だが、その月日は物事が変わるには十分なだけの時間だった。


「今こうしてまたグリモアに向かうことになって。でもあの時一緒だった人は誰もいない。だけどレイヴェルやキュウが一緒に居てくれて。サテラやアルマの子供であるコメットちゃんやアイアルがいる。なんていうか、運命って不思議だよね」

「……そうだな。俺もまさか変身薬なんてものまで飲んでグリモアに行くことになるなんて思いもしてなかった」

「それは私もだよ。あのさ……レイヴェル、ごめんね」

「どうしたんだよ急に」

「私、色々と勝手にやっちゃったから。変身薬のことも、それ以外も。今更だけど、ちゃんとレイヴェルに相談して進めるべきだったかなって」

「確かに少しは相談して欲しかったかもな。特に変身薬を買いに行った時のこととかは詳しく聞いておきたい」

「う……」

「当たり前だけど、俺だって心配するんだからな」


 そう言われてしまえばクロエにはもう返す言葉もない。


「とりあえずこの薬を手に入れた経緯について、ちゃんと話してもらうぞ」


 そして、それからクロエはレイヴェルに問い詰められ続け、宿での夜は更けていくのだった。

 

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