第283話 王との対面

「お久しぶりですわね、叔父様」


 コメットが玉座に座るウィルダー王へと挨拶する。

 レイヴェルとアイアルは膝をついたまま頭を上げ、ウィルダー王のことをこっそりと伺う。

 コメットの叔父であるというウィルダー王。しかし、コメットとはそこまで似ているわけではなかった。というよりも、あまりにも人相が悪かったのだ。

 実年齢以上に老けているその様相にレイヴェルは思わず面食らう。王と言うほどだから良い生活をしていると思っていたのだ。しかし今のウィルダー王を見てそうは思えなかった。疲れ切ったかのようなその表情はどうにもならない世を儚んでいるようにも、諦めきっているようにも見えた。


「コメット。確かに久しいな。こうして直接顔を合わせるのはいつ以来だったか」

「お母様が亡くなった時以来ですわ。もっとも、その時も叔父様はわたくしのことなど見てはいませんでしたけれど」

「そうか。あいつが死んだ時以来か」


 空を仰ぎ、遠くを見つめるようなウィルダー王。何を思っているのか、何を考えているのかその表情からは読み取れなかった。


(あれがウィルダー王……こんなこと言うと失礼かもしれないけど、生気がないというか。以前あった獣王とは真逆って感じだな)


 陰鬱とした雰囲気を纏っている。レイヴェルにはとても一国の王には見えなかった。


「それで、一体何の用だ? まさかただ世間話に来たというわけでもないだろう」

「えぇ、違いますわ。ですがその前に……彼らを外に出していただくことは可能ですか?」

「近衛達を?」

「彼らがいると落ち着いて話ができませんもの」


 コメット自身も無茶なことを言っている自覚はあった。

 この部屋にいる近衛達。それはウィルダー王を守るためにいる存在だ。いくらコメットが姪であるとはいえ、この状況で彼らがウィルダー王の傍から離れる理由が無かった。

 しかしそれでも、クロエが安全に話せる状況を作るためにはなんとかしてこの部屋から近衛達を引き離す必要があった。一か八かの賭け。もし上手くいかなければ多少無茶をする必要があるかもしれないとコメットは考えていた。

 しかし、ウィルダー王の答えはコメットが予想していたものとは違った。


「わかった。お前たち、部屋を出ろ」

「っ!? し、しかしそれは!」

「我らの責務は王の身を守ること! いくらコメット様がいるとはいえ、余所からやってきたエルフがいる状況で退室するわけにはいきません!」

「私が出ろと言っているのだ」

「「っっ!」」


 ウィルダー王の圧に気圧されたのか近衛達が一礼してから部屋を出て行く。

 コメットは部屋を扉が閉まるのを確認してからウィルダー王の方へと向き直る。


「わたくしがお願いしておいておかしな話ですけど、良かったのですか?」

「ふん、所詮はその程度の忠義ということだ。私の意に反しても残ろうとするものなどいない。有事の際に私のために動いてくれる者がどれだけいるか」

「叔父様……」

「つまらない感傷だな。さて、お前の望む通りに人払いをしたわけだ。そろそろ本題に入ってもらおうか。とはいえ、おおかたの予想はついているがな」


 そう言うウィルダー王の視線はレイヴェル――ではなく、その腰に提げていた剣へと向いていた。


「その特徴的な装飾。いくら時が経とうとも忘れることは無い。いるんだろう、ハルカゼ」

『なんだ。てっきりもう私のことなんて忘れたいかと思ってたのに』


 剣から人へと姿を変えるクロエ。その姿を見てウィルダー王は懐かしむような目をする。


「お前を忘れられるはずがないだろう。ふふっ、あの時の長老達の顔。今でも思い出して笑うくらいだ。あの時ほど痛快だったことはない。しかしお前は変わらないな。あの時の姿のままだ」

「そういうそっちはずいぶん老けたみたいだけど」

「そうだろうな」

「というかあんまり驚かないんだね。もっと驚くかなとか思ってたんだけど」

「コメットがこの国を出た時点である程度は予測していた。あの子が外で頼れる場所があるとすれば、それはサテラの友人であったお前しかいないだろうと。まさか想い人まで連れ帰るとは思わなかったがな」

「うぐっ、それに関しては色々と言いたいこともあるけど……今は置いておくとして。本題に入ってもいいかな」

「あぁ。時間が無いだろうからな」

「それじゃあ単刀直入に。今まさにこの国で起きようとしてる内戦。長老達とレジスタンスの争いを止めて欲しい」


 クロエは直球でウィルダー王に要求を伝える。

 その要求をウィルダー王は半ば予想していたのだろう。難しい顔をして、小さくため息を吐いてから言った。


「残念だがそれはできない」

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