第205話 コメットの探し人

〈レイヴェル視点〉


「えっと……なんで俺まで別室に呼ばれたんですか?」


 コメットをロミナさんのところまで案内した後、俺は食堂の方へ戻った。だが、少ししてからロミナさんが俺のところまでやってきた。

 なんかちょっと困惑した様子で。最初は査定が終わったのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしく。結局わけもわからないままに俺は別室へと連れてこられたわけだ。


「彼女は依頼しに来たんですよね?」

「えぇそうなんだけど。話を聞く限りあなたとも無関係とは言えなさそうだったから」

「? どういうことですかそれ」


 コメットの依頼が俺と無関係じゃない?

 でも確かさっきちらっと聞く限りじゃコメットは母親の友人を探しに来たみたいだけど、俺にはエルフの知り合いなんていない。


「……本当にこの冴えない男が知ってますの?」

「冴えない男……」


 こうも真っ正面から言われるとショックよりもいっそ清々しさすら感じる。


「コメットちゃん、あんまり失礼なこと言っちゃダメだよ」

「ふんっ、知りませんわ」

「ごめんねレイヴェル君。それでえっと、彼女の依頼内容についてなんだけど。レイヴェル君もちらっと聞いたと思うんだけど、コメットちゃんは母親の友人を探しにきたの。それで詳しい情報を聞いてたの。どんな人を探してるのかわからないと探しようがないから」

「まぁ、そりゃそうですよね」


 どんな種族なのか、年齢はいくつくらいなのか、男なのか女なのか、人を探す時には聞くことなんていくらでもある。じゃないとどんなに優秀な冒険者が探したとしても見つかるわけがない。


「それで聞いた結果わかったことなんだけど……もしかしたらクロエちゃんかもしれないの」


「だから、彼女が探してる母親の友人。もしかしたらクロエちゃんかもしれないと思って」

「え? は? えぇ?」

「ごめん。急にこんなこと言っても戸惑うよね。コメットちゃん、さっき言ってた探し人の特徴をもう一回説明してくれる?」

「またですの? まったく、仕方ありませんわね」


 大きくため息を吐いたコメットは、探している人の特徴について話始めた。


「お母様の友人、わたくしも会ったことはありませんからお母様の手記と伝聞になりますわ。まず手記にはこう書かれていますわ。その人は非常に綺麗な黒髪をしていて、それはもうみどりの黒髪のよう。瞳は静謐な夜の如く澄み渡り、微塵の汚れもない、どんな宝石にも負けないほどに輝く黒。肌は白く、玉の肌。神が直接創造したのではないかと見まがうほどの美しさを持っていて、さらには――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「なんですの?」

「それ……まだ続くのか?」

「ほんのさわりですわよ? この後も延々のこの方がいかに美しいかについて書かれてますもの」

「えっと、できれば簡潔に頼む。もう忘れかけてる」

「わがままですわね。とにかく、その特徴をまとめて書いた絵がこれですわ」

「それがあるなら最初からそっち出してくれ!」

「あはは……」


 俺の叫びに隣にいたロミナさんも苦笑いしている。たぶんクロエさんはさっきの話を全部聞かされたんだろう。そしてその上で絵を見せられたと。そりゃ苦笑いもしたくなる。俺なら噴飯ものだ。


「で、その絵が探し人ってわけか。って、これ……」


 そこに書かれていたのはクロエだった。雰囲気こそ少し違うものの、特徴をまとめて書いたというそれは明らかにクロエそのもので。


「やっぱりクロエちゃんだよね、これ」

「だと……思います。えっと、これが特徴をまとめた結果、なんだよな?」

「そうですわ。これでも絵には自信がありますの。お母様からの手記と伝聞、それらをまとめればこのような絵になるはずですわ」

「そっか……そうなんだな」

「それでどうですの? この絵の方をあなたは知ってるので? 人族のようですし、雰囲気は変わっているかもしれませんけど。この手記が書かれたのもおおよそ二十年ほど前のことですわ」


 二十年前……だがそれもクロエなら関係ない話だ。あいつは魔剣、不老の存在だ。今も二十年前も姿は変わってないはず。

 もちろん百パーセントじゃない。だがこの絵の人物が、コメットの探し人がクロエである可能性はかなり高いはずだ。

 知っているかどうかを訪ねるコメットの目には僅かな不安があった。母親の友人を探す、どうしてそんなことをしているのかはわからないが、たぶん苦労してきたんだろう。

 年齢はわからないけど、こんな子供が一人でこの国まで来たんだから。そして、ようやく手がかりも見つけた。それがもし違ったらと不安になるのはしょうがないだろう。

 確定ってわけじゃない。それでもコメットをクロエに会わせる意味はあるはずだ。


「この絵によく似た奴を知ってる。もしかしたらお前の探し人かもしれない」

「ほんとですのっ!」

「も、もちろん確定ってわけじゃないけどな。それでも会ってみるか?」

「もちろんですわ」


 逡巡の迷いも無くコメットはそう答えた。その目に迷いは無い。


「わかった、なら連れてくよ。そいつの居る場所、『鈴蘭荘』へな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る