閑話2 クロエとサイジ 中編

〈サイジ視点〉


 クロエが俺達の村にやって来た翌日の昼頃のことだった。

 俺とロドジィはクロエに会うために村長……つまりミリカの家までやって来ていた。


「ミリカの家に泊まってるって言ってたよな」

「あぁ。そう聞いてる。いるん……だよな」

「な、何緊張してんだよお前」

「き、緊張なんかしてねーよ! それはお前の方だろ!」


 こん時の俺達は……今思い出しても恥ずかしくなるくらいだが、クロエと会うことに異常なくらい緊張してて。

 いつも来てるミリカの家の扉をノックすることを躊躇するくらいだった。


「お前ノックしろよ」

「やだよ、前は俺がしたんだから今日はお前が——」

「あ、サイジ君とロドジィ君だよね」

「「っっ!!」」

「ど、どうしたの急に後ろに後退って……」


 急に現れたクロエの姿に俺達はビビッて後退って、クロエを困惑させてたな。


「な、な……」

「えっと、その……」

「あ、もしかしてミリカちゃんに会いに来たのかな? ちょっと待っててね」

「お、俺達は……」


 本当の所はもちろんクロエに会いに来てたわけだけど、そんなことわかるはずもないクロエは勘違いして家の中にいたミリカを連れて来た。

 もちろんミリカは俺達がクロエに会いに来たことなんて丸わかりなわけで、だからこそ今まで見たことがないくらい不機嫌な顔で俺達の前に現れた。


「……何?」

「何っていうか……その……」

「ミリカちゃんと遊びに来たんじゃないの? ほら、昨日も一緒にいたし。今日はいい天気だし、どこかに遊びに行ったら——」

「っ、私今日はやることあるから!」

「あ!」


 クロエの見当違いの言葉に怒ったミリカはその場を飛び出して、どっかに行っちまったんだ。


「行っちゃった……うーん、やっぱり私嫌われてる? なーんか邪険にされてる感が否めないっていうか」

「クロエさん?」

「あぁごめんね。どうしよっか……代わりってわけじゃないけど、私と一緒に遊ぶ? なーんてね。急に遊ぼうって言われても嫌だよね。冗談だから——」

「「遊ぶ!!」」

「えぇ!? 予想外の喰いつき! でも……まぁいっか。皆が来るまですることもないし。よしわかった。今日はお姉ちゃんがミリカちゃんの代わりに一緒に遊んであげる」

「「やった!」」


 俺とロドジィは思いがけずクロエと遊べることになって無邪気に喜んでたな。

 それから鬼ごっこだのかくれんぼだのと、とにかく思いつく限りの遊びをクロエと一緒にした。

 時間も忘れて遊ぶってのはこのことだったな。いつもしてる遊びでも、クロエと一緒にしてるってだけで驚くほど楽しかった。

 今にして思えばクロエも妙に子供と遊ぶのが上手かった。手抜きと悟らせない絶妙な手加減。いくら女とはいえ、子供と大人だ。クロエがもし本気なら俺達なんて相手にもならなかったはずだしな。

 気付けば時間は夕方近くなってて、俺もロドジィもヘトヘトになってた。


「はぁはぁ……」

「も、もう疲れた」

「あはは、いっぱい遊んだもんね」


 ヘトヘトになってた俺達と違ってクロエはまだまだ平気って顔してたな。

 原っぱに横になる俺達の隣に座るクロエの姿は、それだけで絵画のように美しかった。座る姿も絵になるってのはこのことなんだって子供心に思ったもんだ。


「ねぇお姉ちゃん」

「ん、何?」

「お姉ちゃんは……冒険者じゃないんだよね?」

「そうだね。私は冒険者じゃないよ。冒険者のお友達と一緒に旅をしてるだけ。今もそのお友達が来るのも待ってるんだけどね。遅いなぁ」

「心配なの?」

「ちょっとだけね。みんな強いから大丈夫だってわかってるんだけど、それでも心配なものは心配だから」


 そう言ってここではないどこかを見つめる目が印象的だった。


「お、俺は……」

「おーいみんな!」


 その時だった。やけに慌ただしい様子でミリカの両親が俺達の所にやって来た。

 

「どうしたんですか?」

「ミリカ? ミリカを知らないか? ずっと家に帰ってないんだ」

「え、ミリカちゃんが?」

「お昼に出て行ったきり……」

「お昼って、サイジ君達が来た時から? もしかしてあの時から……」

「サイジ君達とも一緒じゃないとなると一体どこに……何か知らないか?」

「……あ。おいロドジィ、もしかして」

「あぁ、そうかもしれない」

「二人とも何か知ってるの?」

「あの……俺達がいつも使ってる場所があって」

「使ってる場所?」

「山の中なんだけど……」

「山? 山は危険な魔物がいるから子供だけで入るのは禁止だとあれほど」

「落ち着いてください。今はそんなことを言ってる場合じゃないはずです。二人とも、そこにミリカちゃんがいるかもしれないの?」

「わからないけど……たぶん」


 山に入るのが悪いことだって自覚はあった。だからこそ言いづらかった。でもクロエはそんな俺達の心を解きほぐすように優しい目で手をとってくれた。


「その場所、私に教えてくれるかな?」

「でも……」

「大丈夫。探しに行くだけだから。もしかしたら迷子になってるかもしれないし、夜までに帰ってこないと危ないから……ね?」

「うん」

「わかった」

「ありがとう。ダニエルさん、私はこの子達と一緒にミリカちゃんを探しに行きます」

「それなら私も」

「いえ、もしかしたら他の場所に居て戻って来るかもしれませんから。もし私の仲間が来たら山に行ったって伝えてください。夜になるまでには戻ります。行こう、サイジ君、ロドジィ君」


 このあたりの判断の速さはたぶん冒険者と一緒に旅をしてたからなんだろうな。

 それから俺達は走って山へと向かった。

 時間はすでに夕方で、日も落ちかけている。もし日が落ちたりしたら明かりもない山の中じゃ満足に動けない。それに夜になったら魔物も活発に動き始める。

 そうなったらいよいよミリカの身も危ないからだ。


「急ぐよ!」

「「うん!」」


 そして、俺達は山の中へと踏み入ったんだ。


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