第16話 魔剣契約
レイヴェルがオレを逃がそうとしてる姿を見てわかった。わかってしまった。
レイヴェルは、己の命を賭してオレのことを逃がそうとしてるんだって。
さっきロロちゃんを逃がそうとした時のオレと同じだ。
確かにこのままレイヴェルが戦って時間を稼いでくれればオレは逃げれるかもしれない。でもその先は? きっとレイヴェルはやられる。
そんな想像をしただけで心が締め付けられる。呼吸が乱れそうになる。
ダメ。そんなのダメだ。絶対に認められない。っていうか、認めるわけない!
「ダメ……」
こんなところで終わりなんてありえない。オレはまだ話してないことも、話したいこともいっぱいあるんだ!
「クロエ、何言って——」
「そんなのダメ。認めない。そんな結末なんて認めない! 守るの、生きて帰るの! こんなところで終わらせたりなんかするもんか!」
本当ならもっと段階を踏むべきなんだと思う。でも、ここで何もせずに後悔なんてしたくない!
レイヴェルがオレのことを助けてくれるっていうなら、オレだってレイヴェルのことを助ける!
全ては一か八かの賭け。上手くいかなかったらそれこそレイヴェルの行動は無意味になるし、オレの命も再び危険に晒されることになる。
でも、なんとなくだけど上手くいく気がしてた。むしろ今じゃないと成功しないんじゃないんじゃないかって、なんとなくそう感じた。
『魔剣契約』。やり方はわかる。ううん、体がその方法を覚えてる。
後はレイヴェルの気持ちだけ。
「『魔剣契約』!」
ふわりと体から精神が引きはがされるような感覚。
気付けば、オレとレイヴェルは何もない真っ白な空間に飛ばされていた。
「な、なんだこれ。どこだよここ」
「えーと……」
レイヴェルからしたらオーガと戦ってたら急にこんなわけわからん空間に飛ばされたわけだから、戸惑うのも無理はない。
ここは当たり前だけど現実空間じゃない。言っちゃえば精神空間みたいなもんだ。
現実では今もレイヴェルはオーガの目の前にいる。まぁこの空間の時間の流れは現実とは比べ物にならないくらい早いんだけど。
「もしかしてこれ、クロエがやったのか?」
「……うん。そうなる……かな」
「お前、いったい」
「ちゃんと説明するから。ちょっと、心の準備だけさせて」
「あ、あぁ。わかった」
こうなってしまった以上隠すことなんてできない。というか、隠したって意味ないし。
落ちちゅ、じゃなくて、落ち着いて。深呼吸して。あるがままの真実を伝えよう。
「レイヴェルは……魔剣って知ってる?」
「ん? あぁ。知ってるもなにも冒険者じゃなくたって誰でも知ってることだろ。それが?」
「あのね。私……魔剣、なんだ」
「……は?」
キョトンとした顔をするレイヴェル。
いや、ダメだろ今のは! 言葉足りなさ過ぎるだろオレ! どんだけ端折って伝えてんだよ!
魔剣知ってる? からその魔剣なんですオレ。みたいなこと言われたってそりゃポカンってなるよ! 意味わからんもん!
「あ、ごめん。言葉足りなかったよね。でも、その。これ以上の伝え方がないっていうか。でも本当のことなんだ。私が魔剣だっていうのは」
「クロエが……魔剣? いや、待てよ。だって。急にそんなこと言われても」
「混乱させちゃってごめん。レイヴェルが信じられないっていうのもわかる。こんなこと急に言われたって信じられないよね。私だって同じような状況に置かれたら信じられないし。でもお願い。私の言うことを信じて」
こうなったら後はレイヴェル次第だ。
現実でなら、実際に剣の姿を見せたりして信じてもらうことができたかもしれないけど、今はそれもできる気がしない。
精神の世界だからかな? 理由はわかんないけど。
「クロエが……魔剣? いや、だって、そんな……」
「…………」
オレの言ったことを受け止めきれてないのか、レイヴェルはずっと何かを小さく呟き続けている。
レイヴェルがどんな答えを出すのか。信じてくれるって思ってても気が気じゃ無かった。もし、信じてくれなかったら。そんな想像が頭を過ってしまって。
そんな落ち着かない時間がどれだけ経っただろうか。レイヴェルは顔を上げて言った。
「わかった。クロエの言うこと信じるよ」
「ホント!」
「あぁ。だってこんな場面でクロエが嘘言う必要ないわけだし。こんなわけわからん空間に連れてこられてるわけだからな」
「ありがとう。ありがとうレイヴェル」
「別に礼を言われるようなことじゃないだろ。ただ信じただけなんだからな」
照れくさいのか、若干赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いて頬をかくレイヴェル。
そんな仕草も可愛く見え——じゃなくて! そうじゃないって。今はそれどころじゃないから。
信じてもらえたことで安心しかけたけど。本題はこれからだ。
「えっと、それでお前が魔剣だってことはわかったけど。だから何なんだ? 今がピンチってことに変わりはないだろ」
「そうだね。レイヴェルは魔剣についてどれくらい知ってる?」
「魔剣について? いや、知ってることなんてほとんどないけど。すっげぇ力持ってるってことくらいだ」
「うん、それは間違いじゃないよ。魔剣は大きな力を持ってる。どの魔剣もね。それはもちろん私もそう。でも魔剣はあくまで剣だから。担い手がいないとどれだけ強力な力を持ってたって使えない。担い手がいて初めて私達は魔剣になれる」
「そうなのか……って、おい! お前まさか!」
話の流れでオレの言葉の続きを察したのか、レイヴェルが驚いたような顔をする。
緊張で喉が張り付きそうになる。でも、それでも言わないと。
オレの口から。ちゃんと伝えなきゃいけない。
「レイヴェル・アークナー。私の……私の担い手になってくれますか?」
目を逸らしたくなる気持ちをグッと堪えてレイヴェルに手を差し出す。
告白ってこんな感じなのかな? いや、告白するよりももっと緊張してる気がする。今まで告白なんてしたことないからわかんないけど。
レイヴェルはさっき以上に混乱した様子でオレのことを見てる。
当たり前だ。自分でいうことじゃないけど、魔剣の担い手になるっていうのはそれだけ大事なんだから。
「いや、でも……俺が? 魔剣の、お前の担い手になれって?」
「うん。あ、でも勘違いしないでね。このピンチを脱するためにレイヴェルを選んだわけじゃない。前から言おうって思ってた。本当なら今日の祭りの最後に言うつもりだったんだけど。こんな形になっちゃった」
「それで今日俺を祭りに?」
「うん」
「……本当に俺でいいのか? 自分で言うのもあれだけど、別に俺強くないぞ。こうやってオーガ一体にも苦戦……っていうか、勝てないくらいだ。もっと他に強い奴なんていくらでもいる」
「関係ないよ。言葉にはしづらいんだけどさ、魔剣が契約者を選ぶのって直感なんだって。それで私は直感でレイヴェルだって思った。他の人なんて考えられないよ」
あぁ心臓がバクバクしてる。きっとオレ、すっごい顔が赤くなってる。
でも言い切った。後はレイヴェルの決断を待つだけ。
「……わかった。俺を選んで後悔しないんだな」
「しないよ。絶対」
「なら俺も腹を括る。なってやるよ。魔剣の、クロエの契約者に」
レイヴェルがオレの手を握る。その瞬間、繋がれた手から光があふれ出す。
「契約の完了を確認」
レイヴェルの魔力がオレの中に流れ込んでくる。
まるでレイヴェルと溶けあって、一つになるような感覚。
「ん、く……はぁっ」
レイヴェルの魔力がオレの中に満ちる。体の全部がレイヴェルで満たされる。
《契約者——レイヴェル・アークナー。
貴方に魔剣の恩恵を。滅神の力を。
これより我が身は貴方の剣にして鎧。
貴方の望みを叶える絶対の力を約束しましょう。
さぁ、今ここに契約は結ばれた》
ゆっくりと目を開ける。
「さぁ行こう、レイヴェル。ここからは私達の時間だよ」
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