第136話 盗賊と戦うということ
「さすがにこの中で迎え撃つのは無理があるね。外に出るとしようか」
「そんなに無遠慮に出て大丈夫なの?」
「このまま中にいたって一方的に攻められるだけさ」
「そうだな。俺達は先にでる。二人もタイミングを見て出るといい」
「あ、ファーラ、ヴァルガも!」
即断即決って言うべきか、二人はさっさと外へと出て行ってしまう。そしてすぐに戦い始める音が聞こえてきた。
「あぁもう、あの二人は……どうするレイヴェル」
「どうするもなにも、俺達も出るしかないだろ。ファーラさん達の言う通りこの中にいても一方的に攻撃されるだけだ。この狭い中じゃ剣も振れないしな」
「確かにそっか。どうする? 魔剣化する?」
「……いや、まだ頼るような状況じゃないと思う。相手がどの程度のレベルかわからない段階だからな。本当なら最初から全力を出すべきなんだろうが」
「そうだね。でも……」
魔物相手なら遠慮なく攻撃できるし、倒せる。いや、正確に言うなら殺せる。でも今回の相手はそうじゃない。盗賊……つまり人が相手だ。そんな奴らとここで戦う必要がある。相手の強さによっては捕まえるじゃなくて、殺す必要が出てくるんだ。
ここで盗賊を逃がしても別の誰かが被害に遭うだけ。捕まえられないなら殺す。それが盗賊に対する鉄則だ。
それは頭ではわかってるけど……。
「クロエ」
「……うん、わかってる」
オレ達はあくまで冒険者。今までは魔物しか相手にしてなかったけど、盗賊の対処だって依頼の中にはもちろんある。それも含めて冒険者だ。
いつかはあるってわけってたことだし、覚悟はしてた。それがたまたま今回だったってだけだ。
「大丈夫、いけるよ」
「そうか。ならいいんだけど」
「私は迷わないし、迷っちゃいけない。最初からわかってたことだから」
今回みたいなことはきっとこれが最後じゃない。レイヴェルと一緒にいる限りずっと付きまとうものだ。それから逃げちゃいけない。
気持ちを、心を切り替えろ。ここで変に日和って盗賊を取り逃したりしたら、もっと多くの人が泣くことになる。そんなことを許しちゃいけないんだ。
「よしっ! 行こうレイヴェル!」
「あぁ!」
「ピンチになったらすぐに呼んでね。すぐに駆け付けるから」
「そっちこそな」
ファーラとヴァルガが蹴破った扉からオレとレイヴェルも飛び出す。馬の方は……ファーラ達が出た時に防壁魔法をかけていってくれたみたいだな。過信はできないけど、乱戦に巻き込まれて殺されることもなさそうだ。
というかこの状況でも慌てることなく落ち着いてる馬って、どんな胆力だ。すごい肝の据わり方だな。
って、それどころじゃないか。反対側でファーラ達が戦ってる音がする。ファーラ達のことだから負けるってことはないだろうけど。あっち側には……音からして六人くらいか。
ファーラ達は十人くらいって言ってたから、こっちには四人くらいってことか。単純計算で二人ずつ。
昔旅してた時も盗賊に襲われることはあったけど、あの時は先輩達がいたから大して気にもしてなかったけど。
「ふぅ……」
気合いを入れろ。やってやれないことはない。躊躇うな。戸惑うな。ここはもう戦場。戦場での躊躇いは死を生む。相手は盗賊なんだから。
そんなことを考えてるうちに、馬車から出てきたオレの前に二人の盗賊が現れた。
こういう言い方をするのもなんだけど小汚いというか、見るからに盗賊って感じだ。イメージ通りっていうか。
小型のナイフなんか持ってるし。へへへ、なんて言ってナイフ舐め出したらいよいよだな。さすがにそこまでテンプレな行動はしてないけど。
「お、こっちは当たりじゃねぇか! お頭の方に行かなくてよかったぜ」
「いい女だなぁ。おい嬢ちゃん、悪いことは言わねぇからあんまり抵抗しないでくれよ。こっちもあんまり手荒な真似はしたくねぇんだ」
お頭の方……もしかしてレイヴェルの方に行ったのか? いあ、心配してる場合じゃない。レイヴェルなら大丈夫だ。それよりもまずはこっちの二人をなんとかしないと。
「大人しくしてくれるってなら優しくしてやるぜ?」
「それでも存分に楽しませてもらうがな」
「っ……」
下卑た視線を向けられて思わず鳥肌が立つ。あのコルヴァとかも似たような目を向けてきたけど、その比じゃない。明らかにこっちを性欲の対象としてか見てない目。
ホントにテンプレな盗賊っていうか。いやまぁ盗賊風情に意外性なんか求めてもしょうがないんだけどさ。
言いなりになる理由なんかないし、なるつもりも毛頭ない。そんなことしたらどうなるかなんて聞かなくたってわかってることだ。
「悪いけど、そっちの言う通りにするつもりはないから」
「へへっ、気の強い女を無理やりってのも嫌いじゃねぇよ」
「あぁそうだな。せいぜいいい声で鳴いてもらうか」
ホントにどこまでもというか……。
気持ちを戦闘へ切り替える。レイヴェルから事前に魔力も貰ってるし、やれるはずだ。加減は……しなくてもいいか。
とにかく全身全霊。魔物以外にどこまで力が通用するか、確かめさせてもらおう。
「それじゃあ行くよっ!」
そしてオレは二人の盗賊と交戦を始めた。
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