第269話 超広範囲探索
レイヴェル達が動き始めたのは夜になってからだった。
目的の人物――クレイムを探してレイヴェルとクロエが外へ出る。もちろんクロエは剣の姿でだ。
エルフという種族は元来自然と共にある生活をしている。それゆえに夜まで活動しているエルフというのは少ない。日が落ちれば眠り、日が昇れば起きる。そういった生活を現代まで続けているのが
この時間に活動しているとすればそれは何か訳があるということになるだろう。
「どうだクロエ」
『うーん、今のところ目立った気配は無いかな。巡回の兵士達がちらほらいるくらい』
「クレイムはさっきの家には居なかったしな……さて、どう探したもんか」
宿を出たレイヴェル達はまず一番最初のクレイムと話した宿を訪ねていた。そこにクレイムが居てくれれば話は早かったのだが、残念なことにクレイムは家にはいなかった。
レジスタンスの作戦開始も近いということもあって拠点にいるのかもしれないとレイヴェル達は考えていた。
「問題はその拠点ってのがどこにあるかわからないことだよな。もしこのグリモアの外、森の方にあるとしたらさすがに探しようがないしな」
このエルフの森はエルフ達が過ごすためにある程度切り開かれているとはいえ、まだまだ開拓は進んでいない。というよりも必要以上の開拓をしていないというのが正しい。
国という体裁を保つのに必要な最低限の広さだけを開拓し、生活の拠点としているのだ。
もしそこに拠点を作られていたとしたならば、今からではとてもではないが探しようが無かった。
さっそく手詰まりになってしまったかと思っていたレイヴェルだったが、どうやらクロエは違うようで、何か考えがあるようだった。
『ねぇ、レイヴェル。試したいことがあるから私の言う地点に連れて行ってくれない?』
「? あぁ、わかった」
警邏の兵に見つからないようにレイヴェルは周囲を警戒しながらクロエの指定した地点へと向かう。
そうしてたどり着いたのはグリモアの王城にほど近い場所、レイヴェルがグリモアに入った時に一番に目にした大樹の近くだった。
王城の近くということもあって兵士達の監視の目も厳しかったが、なんとか掻い潜り目的地に到達することができた。
『うん、ここで大丈夫かな。レイヴェル、ここに私を突き刺してくれる?』
「突き刺すのか?」
『それだけで大丈夫。後は私がやるから』
疑問を抱きながらもレイヴェルは言われた通りにクロエを地面に突き刺す。
『やっぱり当たりだね。実はここっていくつかの霊脈が重なってる地点みたいなんだよね。ここなら私の探知もより広範囲で使えるはず。いちおうクレイムの魔力の癖みたいなのだけは覚えといたからそれで見つけれるはず。あわよくばレジスタンスの拠点も見つけられるかもとか思ってたりして。まぁそこまで上手くいくとは思ってないけど』
クロエはそれだけ言うと気配を探るのに集中するために押し黙った。
霊脈を活用しての超広範囲探知。魔剣であるクロエだからこそできる芸当だ。その範囲は広大な森を全て探知の範囲内に収めることができるほどだった。
だがそれは同時に凄まじい労力を要することだった。目当ての一人を見つけるために数多の情報が流れ込んでいる状況。普通の人間であればとっく気が狂っていてもおかしくは無かった。
『この人じゃない。この人でもない。うーん、上手く見つからないなぁ。思ったよりもずっと人が多いというか。もしかしてすごく効率悪いことしてるかな? ネット検索みたいなことできればいいんだけど。あー、ダメだ。やり方わかんない。地道にしらみつぶししかないかなぁ』
「うまく行ってないのか?」
『うまく行ってないわけじゃないんだけど。ちょっと時間がかかりそうっていうか。って、あれ?』
「見つけたのか?」
『ううん、違う。これは……誰かが、こっちに近づいて来てる? この気配は……っ! レイヴェル、私も持ってすぐにこの場から離れてっ!』
クロエの言葉に鬼気迫るものを感じたレイヴェルは疑問を挟まずにすぐに言われたとおりにクロエを地面から引き抜いて離れる。
『来るよ!』
そんなクロエの言葉と同時、クロエを突き刺していた場所に剣が突き刺さった。
異様な雰囲気を纏う剣。レイヴェルは一目見ただけでそれが魔剣であるということに気づいた。
『やっほー♪ 久しぶりだねぇ』
「…………」
「お前達は……」
『あの時の気配、もしかしてとは思ったけど。やっぱりあなた達だったんだ』
クロエとレイヴェルの前に現れたのは、飛行船で出会った二人――クランとワンダーランドだった。
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