第270話 その方が面白いでしょ?
突如としてやってきたクランとワンダーランドにクロエとレイヴェルは警戒心を最大限にまで高める。
クロエはここに至ってようやく自分がクランに対して感じていた違和感。その理由に気づいていた。
それはクランがクロエと同じ魔剣だったからだ。今の今まで、こうして直接相対するまで気づけなかったことを悔いていた。
(兆候はいくらでもあったはずなのに、こうして直接確認するまでクランの正体に気づけなかったなんて)
己の迂闊さを呪いながらクロエは周囲を警戒する。この状況で二人が姿を現したということは何かあるからだと思ったからだ。
しかし周囲にあるのはエルフの兵士達の気配だけ。他に誰かがいるような気配は無かった。
『そんなに怖い顔しないでよー』
パッとクランが剣から人の姿へと戻る。飛行船の中であった時と同じように楽しそうな笑顔を浮かべながら。隣にいるクランも飛行船の中であった時と同じ無表情のまま。道化のような仮面をつけてはいるものの、その下にある表情は容易に想像できた。
「パンパカパーンッ♪ というわけで、実は飛行船の中で会った美少女は魔剣なのでしたー! どう? 驚いた? びっくりした? これでもバレないように結構頑張ったんだけど。気配を誤魔化すのけっこう大変だったんだよー」
ケラケラと楽しそうに笑うワンダーランド。確かに魔剣であるクロエの目を欺くほどの誤魔化しというのはかなりのレベルだった。
「ホントはもっと良いタイミングで正体バラそうと思ってたんだけどさ。まぁお祭りが始まっちゃったらそれどころじゃなくなりそうだし」
『お祭り? なにそれ』
「ふふっ、もう気づいてるんでしょ? このグリモアで起ころうとしてる盛大なお祭りに」
「まさか……お前たちがレジスタンスの!」
そこまで言われて気づかないほどクロエもレイヴェルも馬鹿ではない。レジスタンスの切り札。それがクランとワンダーランドだったのだ。
「あははははっ♪ 大正解! そうだよ、あたし達がレジスタンスの協力者。この国をぶっ壊すお手伝いをしてあげるの!」
『壊すって……』
「あれ、もしかして現体制側を倒すだけだと思った? まぁそれでもいいかもしれないんだけどさ。でもさぁ、そんなの――面白くないでしょ?」
「「っ!!」」
その一言にクロエとレイヴェルは背筋に悪寒が走った。
魔剣には常識が通用しない。そんなことはもう理解しているつもりだった。だがそれでも、普通にやるだけでは面白くないという理由だけで一国を潰そうとしている。そんな常軌を逸した精神をしていることに恐怖に近い感情を覚えたのだ。
「ねぇ、この国にはさぁ。笑顔が足りないと思うでしょ?」
「どういうこと」
「どうって、そのままの意味だよ。笑顔? ほら、ニコッてね?」
こんな状況でも無ければ見惚れてしまいそうなほど綺麗な笑みを浮かべるワンダーランド。しかしクロエ達にはそれが悪魔の笑みにしか見えなかった。
「この国には娯楽が足りない。楽しみが足りない。毎日毎日同じ事の繰り返し。そんなのつまらないでしょ。だから、笑顔をプレゼントしてあげようと思ったんだ。ね、クラン」
「わたしはあの方の命に従うだけ。だけど、この国に笑顔が足りないっていうのはわたしも同意する」
「狂ってる」
「狂ってるだなんて酷いなぁ。笑顔って良いものでしょ? 怒ってるより、悲しんでるより、笑顔でいる方が良いに決まってるでしょ?」
『本気で言ってるみたいだね。でも、それを私達に話して良かったの? そんなの聞いて私達が黙ってるとでも?』
「ここで始めちゃう? あたしはそれでも全然構わないけど。もちろん全力でやらせてもらうよ。魔剣同士のぶつかり合い。どれだけの被害が出るだろうね」
『っ……』
「あはははっ♪ 冗談だよ冗談。本番は明日だしね」
「じゃあどうしてお前達はここに現れたんだ。まさか素直に見逃してもらえると思ってるわけじゃないよな。少なくともお前たちの企んでることについての情報は話してもらうぞ」
「まぁまぁ落ち着いて。今日は穏やかにいこうよ。そっちも目的があったんでしょ。あたし達もここに来たのはある意味偶然だし。まぁその用事ももう終わったんだけど。今日はお互い顔合わせってことで。終わりにしないと?」
「ふざけるなっ!」
『それでわかったなんて言えるわけないでしょ!』
「えー、もうめんどくさいなぁ。今日は下準備に来ただけだったのに。どうするクラン?」
「…………」
ワンダーランドに問いかけられたクランはその問いには答えず、ジッと目の前のクロエとレイヴェルを……否、クロエのことだけを見つめていた。
「あの方の……」
「あ、もしかしてクランちょっとスイッチ入っちゃってる?」
「試すだけなら構わないでしょ」
「あーもう、仕方ないなぁ。まぁいっか。それも面白そうだし♪」
そう言うとワンダーランドは『剣化』し、クランの手中へと収まる。
しかしその形状は先ほどとは違い、剣の姿から杖へと変化していた。
『クランがやるつもりみたいだからちょっとだけ遊んであげる。ま、舞台には予行演習って大事だしね。それじゃあリハーサルを始めよっか』
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