閑話4 歓迎会とお酒の過ち クロエ編
「それじゃあ新しい家族、クロエちゃんの歓迎会を開催しまぁす♪」
「いえーい!」
マリアさんの音頭に合わせてフィーリアちゃんが手を叩く。
目の前には大量の料理に飲み物、いつ作ったのか華やかな飾りで部屋の中まで装飾されてる。
「あらどうしたのクロエちゃん、レイヴェル君にイズミちゃんも。もっと盛り上がらないとダメよぉ」
「そうだよ今日はお姉ちゃんが主役なんだから。レイヴェルとイズミさんももっと盛り上がって、ほらほら!」
「ご、ごめんね。それはわかってるんだけど……なんていうか圧巻で。この量はさすがに食べきれないんじゃないかなぁって」
目の前に広がる料理の多さにオレは若干戸惑ってた。少なくとも、五人で食べる量じゃない。だからオレもレイヴェルも、イズミさんも困った顔をしてるんだ。
あ、ちなみにイズミさんはここに来た時はいなかった女性だ。この人もかなり可愛い……というかレイヴェル周りやっぱり可愛い子多すぎないか?
マリアさんにフィーリアちゃん、イズミさんに加えてロミナさんにイグニドさん……正直オレが男のままだったら嫉妬でおかしくなるんじゃないかって思うくらいだ。
……もしかしてレイヴェルに友達が少ないのってこのせいなんじゃ。あり得るな。
「そ、そうですよマリアさん。お姫様の言う通りです。こんな量私達じゃ食べきれませんって」
「あの……イズミさん。そのお姫様呼びはやっぱりやめてもらえると……」
「え、どうしてですか?」
「その、むず痒くなるって言うか。私ってやっぱりお姫様って柄じゃないし……」
お姫様っていうか魔剣だし。
「そんなことないですよ!!」
「うおうっ!」
「黒くて長い髪はレイヴェル君のごわごわした髪とは比べ物にならないくらい綺麗ですし。あ、レイヴェル君のことバカにしてるわけじゃないですよ? お姫様のぱっちりとした目も宝石みたいに綺麗でレイヴェル君の人殺してそうな目とは比べ物にならないです。あ、レイヴェル君のことバカにしてるわけじゃないですよ? 鈴の音のような声はまさに天使の声。聴くだけで体に染みわたっていつまでも聴いていたいくらいで、レイヴェル君の地の底から響くような怖い声とはまるで違います! あ、レイヴェル君のことバカにしてるわけじゃないですから。まさにお姫様は神の作った奇跡の造形美! 悪魔が作ったみたいなレイヴェル君の凶悪な人相とは大違いなんです! あ、レイヴェル君のことけなしてるわけじゃないですから」
「いや説得力ねぇよ!」
「ひぃっ! レイヴェル君が怒った!」
「そりゃ怒りますよイズミさん! クロエのこと褒めるだけならまだしもなんでいちいち俺のことけなすんですか!」
「け、けなしてないですって。私はただ思ったことを言っただけで……」
「よりたちが悪いわ!」
「ひぃっ! やっぱり男の人怖ぃ!」
「ま、まぁまぁレイヴェル落ち着いて……いや、まぁ気持ちはわかるんだけど……」
なんだろう。イズミさんには触れてはいけない何か……ラミィと同じ気配を感じる。
まぁこの際お姫様呼びは許容するしかないかぁ。ムズムズするけど、これ以上つついて藪蛇は嫌だし。
「ほらほらレイヴェル君もイズミちゃんも喧嘩しないの。めっ、ですよ。これは歓迎の場なんだから。ね?」
「そうだよレイヴェル。イズミさんの言ったことだって間違いじゃないんだから。受け入れないと」
「その言われ方はめっちゃ傷つく……けどまぁフィーリアの言うことも一理あるか。悪いなクロエ。お前の歓迎の場なのに」
「すみませんお姫様……まさかレイヴェル君がこんなに心が狭いなんて思わなくて」
「…………」
ピクピクとこめかみを引くつかせるレイヴェル。うん、わかる。わかるよ。レイヴェル。必死に耐えてるんだろうなぁ。
っていうかこの人ナチュラルにやってるのかこれは。だとしたら相当ヤバイな……。
まぁとにかくこの人のことはいったん置いておこう。
「気にしないでレイヴェル。それよりフィーリアちゃんの言う通り楽しまないとね。せっかくマリアさんとフィーリアちゃんが用意してくれたんだし。ね?」
「あぁ、そうだな」
「そうそう。いっぱい食べてねクロエちゃん、レイヴェル君。とくにレイヴェル君は男の子だからいーっぱい食べてね。そのために作ったんだから」
「もしかしてこれ……俺がいっぱい食べる想定ですか?」
「えぇ、そうだけど。足りなかったかしら?」
「……頑張ります」
「あはは……頑張ってねレイヴェル」
「もちろんクロエちゃんもよ。はいこれ」
「えぇっ!? 私もですか!」
「もちろんよ。クロエちゃんも成長期でしょう?」
「成長期……」
オレにもあるのかな成長期。人化できるようになってからずっとこの姿のままで年を取るどころか、何も成長してないんだけど。
「そうですね……私も頑張ります」
それからオレ達は談笑しながら料理を食べた。
って言っても、基本的にはフィーリアちゃんが中心になって話してるだけだったけど。
料理の方も、マリアさんの腕が相当良いのか自分でもビックリするくらいするするお腹の中に入ってく。
それでも量が多いことに変わりはないんだけどさ。
「でね、その時にレイヴェルってば、ぎゃああああっっ! っておっきな声出して腰抜かして」
「あったわねぇそんなこと」
「えー、そうなんだ。レイヴェル情けないなぁ」
「うるせぇ、あんなことされたら誰だってビックリするに決まってるだろ!」
「あははっ!」
フィーリアちゃんの話はオレにとっても興味深いものばっかりだった。
なにせ、次から次に出てくるレイヴェルの話はオレの知らないものしかない。だからすごく新鮮で……少しだけ羨ましい。
ここにいる三人は、オレの知らないレイヴェルとの時間を過ごしてるんだ。
仕方のないことだってわかってるけどな。
それに今はオレがレイヴェルの相棒だし。うん。気にしない。気にしないったら気にしない。
「それにしても……みんな仲が良いんだね」
「うん! だって私達はみんな家族だから!」
「家族……か」
この世界にオレの家族はいない。まぁ魔剣だし当たり前なんだけどさ。
元の世界にいた家族のことは……今でもはっきり覚えてる。何度も忘れようとしたけど無理だった。
まるで魂にこびりついてるみたいに消えない。たまに夢に出てくることすらある。
酷い話だ。会いたくても会えないのに、夢だけは見せ続けられるんだからな。
忘れるなってことなのか何なのか……夢を見る頻度はちょっとずつ減ってる。いつかは忘れられるかもしれない。でも、そのいつかがいつなのかは……わからない。
「これからはお姉ちゃんも家族だよ!」
「あ……」
「えぇ、もちろんよ。レイヴェル君もイズミちゃんもクロエちゃんも。みーんな私達の家族よ」
「……ありがとう」
フィーリアちゃんの言葉に心が温かくなるのを感じた。
そっか。家族か。フィーリアちゃん達がオレの家族……ちょっと嬉しいな。
「だから、家族のお姉ちゃんにはこれあげる!」
「ん? きのこ?」
「あ、こらフィーリア! 嫌いな食べ物だからってクロエちゃんに渡さないの!」
「だってきのこ美味しくないんだもん!」
「好き嫌いしないの!」
ちょっとは感動した気持ちを返して欲しい。
レイヴェルもイズミさんも苦笑してるから、きっといつもやってることなんだろうな。
よし、それならこっちにも考えがある。
「それじゃあフィーリアちゃん。ちょっとあーんってして」
「? あー……」
「はい」
「ん。ん!? ひ、ひのこ!?」
「お姉ちゃんに押し付けようとした罰です。我慢して食べなさい」
「あぁ……っ!」
涙目になりながらきのこを飲み込むフィーリアちゃん。
ちょっと可哀想なことしたかもしれないけど……ま、これも勉強ってことで。
「ごめんなさいねクロエちゃん。あ、そうだ。クロエちゃん、お酒は飲めるの?」
「お酒ですか?」
そういえばお酒ってあんまり飲んだことないかも。この世界だと十五歳で成人だからオレも飲むことはできる。
先輩やラミィ、他の仲間達と旅してた時にちょっとだけ飲んだことあるけど……なんでかそれ以降酒飲むの禁止されたんだよなぁ。
理由はわかんないけど。ま、飲めるか飲めないかで言ったら飲めるか。
「飲めますよ」
「そう。なら良かったわ。レイヴェル君もイズミちゃんも飲まないから。それじゃあクロエちゃん、これ飲んでみて。すごく美味しいお酒なの」
「はい、いただきます!」
「あ、おいクロエ」
「大丈夫だって。少し飲むだけだから」
マリアさんから受け取ったお酒を飲む。
果実の味と、アルコールの感覚が体の中に広がる。
それと同時に、体がポカポカしてきて……うん、なんか気持ち良い。
「えひっ♪」
「クロエ?」
「クロエちゃん?」
「もういっぱい……ください」
机の上に置いてあった酒を飲む。
美味い。マリアさんの言う通り、この酒すっごく美味い。いくらでも飲める気がする。
「クロエちゃん、そんな勢いでお酒飲んだりしたら」
「らいじょうぶですよぉ……まだまだ飲めますからぁ」
「いやそういう問題じゃないって。おいクロエ、そんな急に飲んだりしたらまずいって!」
「うるさいなぁ、らいじょうぶって、いっへるれしょ」
「もはや呂律が回ってないだと……」
あぁ、なんか体が熱い。
なんでレイヴェルは止めようとするかなぁ。こんなに美味しいのに飲むななんて酷い。
ダメだ……頭もなんだかぽやーっとして……。
「……ん?」
「おい大丈夫か?」
あー、レイヴェルだ。なんでそんな心配そうな顔してるんだろ。
オレは……私は全然平気なのに。
こうやって近くで見るとやっぱりカッコいいなぁレイヴェル。
っていやいや、何考えてんだ。オレはレイヴェルのことをカッコいいとか……思ったり……。
ダメだ。思考がまとまらない……。
レイヴェル……やっぱりモテるのかなぁ。今も綺麗な女の子がいっぱい周りに居て……私がいるのに……。
「あ……」
オレの記憶は、ここで完全に途切れた。
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