第89話 懐かしさと変わった景色
ケルノス連合国の首都ビース。
そこはオレの記憶にある姿よりもずっと発展していた。
昔はもっと自然豊かな感じだったけど、今では完全に開発されてる。
セイレン王国の首都リオラにも負けてない……というか、下手したらこっちの方が都会かもしれないって感じだ。
「以上が私が空から見たビースの印象でしたっと」
「急に何言ってんだ?」
「ううん。なんでもない。だいぶ変わったなって思っただけ」
これも時代の流れだ。あの頃のビースも好きは好きだったけど、だからって今を否定することはできない。
より良く、住みやすく。そう願って発展してきた結果が今のビースだ。
懐古する気持ちは持ったとしても、とりあえずは今を受け入れるべきだろう。
ずっとそうしてきたんだ。不変であるオレが今を生きるためには、そうしないといけないんだ。じゃないとオレは、オレ達魔剣は過去に取り残される。
って、何センチになってんだオレは。はぁ、ダメだダメだ。つい昔来たことある場所に来たからってこんなこと考えてたら。
今を生きる。それだけだ。
「よし、気持ち切り替え完了。ところでさ、この船ってどこに停めるの?」
「確かに。そんなに大きな船ってわけじゃないけど、どこにでも停めれる大きさってわけじゃないしな」
「ふっふっふ。その質問」
「答えてあげる」
「「うわっ!?」」
急に背後からヌルッと現れたのは予想通りというか、リオさんとラオさんだった。
というかここオレ達に与えられた部屋だったはずなんだが!
「まぁそんな大層な理由じゃないんだけどさ。もうすぐ着くよって教えに来ただけだから。それでね、さっきの疑問だけど」
「確かにこの船はどこにでも停めれるものじゃない。でも、特別に着陸許可を貰った場所がある」
「どこなんですか?」
「王城」
「……へ?」
「は?」
当たり前のように言われた言葉に一瞬思考が止まる。
お、王城?
今この人王城って言ったか?
オレの理解が間違ってなかったら王城って王の住む城のことなんだが。
「あの……王城って獣王の住む城ってことですか?」
「そだよ。なになに? レイ君緊張しちゃってる感じ?」
「あ、当たり前ですよ! 一国の王様に会うなんて、そんなこといきなり言われても」
「狼狽えるなレイヴェル」
「っ! ライアさん」
「あなたまで……だからここ、私達の部屋なんだけど」
そんなオレの呟きなどまるで意に介さず、というかそもそも気にもされず。
ライアは話を続ける。
「今回の私達の依頼主はその獣王カムイだ。だからこそ依頼主に直接話を聞く。当たり前の話だ」
「いや、そうかもしれませんけど。でもそれならそうともっと早く言っておいてくれたら」
「たとえ相手が獣王だろうが一般市民だろうが、依頼主に直接あって話を聞く。それが冒険者だ。私は言ったはずだ。狼狽えるなと。相手が王だという程度で心を乱すな」
「王だという程度って……」
とんでもない言い草だなおい。
王様をその程度って、どんな胆力してたらそんなこと言えんだ。
でも、つまりあれか。このまま行くと獣王に……カムイと会うことになるってわけか。
「あれ、どったのクロエちゃん。顔色悪いけど」
「緊張してる?」
「いえ、別にそういうわけじゃないんですけど……」
どうする。ここで待ってるか?
いやでも、オレがレイヴェルの傍を離れるわけにはいかないし。
そんなの絶対にありえないし。
コソコソ行けばバレないか?
なるべくレイヴェルの背に隠れる感じで。あいつもそろそろ耄碌してるだろうし。
大丈夫……大丈夫か?
「来るのが怖いならお前はここに残ればいい。ただしレイヴェルは連れて行くぞ」
「むっ」
明らかな挑発。
ビビッて動けないならそこにいろってか。
“お前の代わりに私がレイヴェルの隣にいる”ってか!
ふざけんな! そんなこと認めるか!
「私も行きます!」
「……ふん。勝手にしろ。私に迷惑をかけなければそれでいい」
「迷惑なんかかけませんよーだ」
「あはは、相変わらず敵対心バリバリだねー」
「仕方ない。リーダーがあんな性格だから」
「リオ、ラオ」
「そろそろ着陸準備してきまーす」
「ラオも手伝う」
そそくさと逃げるように部屋を出て行くリオさんとラオさん。
なんていうか二人ともそうなるのがわかってて言ってる感じだけど……はぁ、まぁいいか。
それよりも行くって言った以上もう行くしかない。今さら撤回はできないし。
腹を括るか。とりあえず大丈夫だと信じて。
「着陸したらすぐに王のもとへ向かう。準備しておけ」
「あ、はい。わかりました」
最早いつものようにというか、勝手に言うだけ言ってライアは部屋を出て行く。
「むぅぅううううっ」
「どうしたんだよクロエ、そんなにむくれて。まぁ理由は聞かなくてもだいたいわかるけど」
「なんなのあの態度! こっちのことなんてまるで考えてないし。今は一緒の依頼受けてるって自覚あるの!?」
「おち、落ち着けってその辺はさすがにライアさんもわかってるはずだから……たぶん」
「そこで言い切れないあたりレイヴェルもちょっとは思ってるよね」
「……否定はしない」
最上級冒険者は性格に難のある人物が多いなんて言うけど、あれは度を越してる。
いや、まぁ、オレにだけ特に当たりが強い気もするけど。
「まぁでも頼むから王城の中では喧嘩しないでくれよ?」
「大丈夫だって、そのくらいはわきまえてるから。私はね。向こうは知らないけど」
「だからなんでそんな喧嘩腰なんだ……」
世の中には根本的に相性の悪いやつがいるもんだ。
ラミィとレイヴェルも最初は仲が悪かった……というか、一方的にラミィが嫌ってたけど、あれは別に相性が悪かったわけじゃない。
出会い方さえ間違えなければきっと普通に関係を築けたと思う。でも、オレとライアは違う。
きっとレイヴェルが居なかったとしても、オレとあいつの関係は変わらないだろう。もっと根本的な所から合わないんだ。
「はぁ……まぁでもわかってるよ。さすがに王城で問題起こすような命知らずじゃないし。それでレイヴェルに迷惑をかけたくもないしね。だから王城では大人しくしてる。あの人に何か言われてもできるだけ流すようにするから」
変に王城内で目立ちたくないし。
まぁあんまり意味もない気がするけど。
「心配だ……って、あ、見えてきたぞ」
「ホントだ……」
飛空艇の窓の外から見える巨大な城。
ケルノス連合国の中心にして、獣王カムイの居城。
「……懐かしいな」
何度か改修工事がされてるのか、記憶よりも大きいけど、それでも昔の面影はしっかり残ってる。
「どうしたんだ?」
「……ううん、なんでもない。よし、私達も降りる準備しよ。また何か言われても癪だし」
「そうだな。王城に足を踏み入れるなんて初めての経験だし、ちゃんと準備しとかないとな」
そして準備を終えたオレ達は依頼主である獣王カムイが待つ城へと足を踏み入れたのだった。
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