第201話 旅には先立つものが必要です

 ケルノス連合国から戻ってきて一ヶ月。

 オレ達はいまだにセイレン王国にいた。そう、まだエルフの国、グリモア国へ向かうことができずにいたのだ。

 理由は至極単純、金が無い! それに尽きる。


「はぁあ、あの依頼が失敗扱いにならなかったのは嬉しいけど、もともと無かったことにされちゃったしなぁ」

「まだ言ってるのかよ。いい加減受け入れろって」

「いや、受け入れてはいるんだけどさぁ」


 ケルノス連合国での一件、あれは結局イグニドさんのはからいで元々無かったことになった。まぁそれも無理はない。

 表沙汰にするといろいろと問題が起こりそうってのもあるけど。まぁたぶん他にもいろんな思惑が絡んだ結果なんだとは思う。

 その結果としてイレギュラーな処理がされたんだろう。だから最終的にあの依頼は受けなかったことになったし、そもそも存在しなかったことになった。

 だからもちろん報酬も無し。まぁ失敗してる時点で報酬なんてないんだけど。それでも指名依頼だったから、前報酬は支払われるはずだった。でもそれすら無しになった。

 

「前報酬なのに事前に支払われないって、それはどうなのさ」

「仕方ないだろ。戻ってくるまでイグニドさんに預かってもらってたんだから」

「それが間違いだった。って、この後悔ももう何回目だろ」


 でも前報酬だけでもめちゃくちゃでかかったしなぁ。それがあれば今頃こうして薬草採取の依頼なんかせずにすぐにグリモアにいけたのに。


「あ、これ結構高く売れる霊草じゃない?」

「そうだな。ついでに採取しとくか」

「キュー!」

「お、キュウも見つけて――って、それ特級霊草じゃねぇか! よくそんなの見つけてこれたな!」

「キュウ♪」

「むっ」


 せっかくオレが霊草見つけたのにさらにその上を見つけてくるなんて。キュウ、侮れない。

 まぁ竜ってだけあって鼻はいいし、オレよりもいい霊草を見つけれるのは仕方ないけど、仕方ないけど!

 別に悔しくなんかないから。悔しくないから!

 オレは採取が仕事ってわけじゃないし。魔物と戦うのが仕事だし。

 それを言い出したらキュウもそれは同じなんだけど……。


「お、そろそろカゴいっぱいになるな」

「ホントだ。結構長い時間やってたもんね」


 朝から森に入って、もうだいぶ経つ。かなり夢中で集めてたから気づかなかった。

 依頼分はとっくに集め終わってたけど、余分に集めて追加報酬が欲しかったから。


「通常報酬で銀貨二枚。追加報酬でどこまで伸びるかだよねぇ」


 薬草採取は簡単な分報酬も少ない。銀貨二枚、だいたい日本円にして二千円程度。

 時給換算したらだいぶ低いけど、追加報酬次第ではもっと伸びるから。キュウが特級霊草見つけてくれたし金貨二枚くらいはいくかもしれない。


「今回の報酬次第で旅費たまるかもね」

「だな。この一ヶ月依頼受けまくったからなぁ」

「キュウ」


 前にケルノス連合国へ行った時と違って、ライアの飛空挺は使えない。だからグリモア国までの旅費は全部こっち持ち。何かグリモアまで行くような依頼があれば話は別だけど……あの国が他国に向かって依頼を出すとは思えないし。


「それじゃあ帰ろっか」

「あぁ」

「キュウッ」


 そしてオレ達は森を出て、イージアへと戻った。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「それじゃあオレはギルドの方にいってくるから」

「え、私も一緒に行くよ」

「いや、これくらいなら一人で十分だ。それより『鈴蘭荘』の方にキュウと一緒に戻ってやってくれないか? たぶんそろそろお眠だ」

「あ、そっか」

「キュウ~……」


 そういえばさっきからフラフラしてる。まぁ仕方ないか。最近はだいぶ安定していきたけど、まだまだ赤ちゃんだ。しょうがない。


「おいでキュウ」

「キュ」


 オレが手を広げると、キュウはすっぽりと腕の間に挟まってスヤスヤと寝息を立て始める。


「可愛い……」


 こうやって眠る姿はまさしく赤ちゃんそのものだ。うん、もう認めるしかない。正直めちゃくちゃ可愛い。あぁもうめっちゃ可愛い。


「まぁこの状態じゃ連れていけないもんね。ギルドうるさいし。それじゃあ私、先に戻ってるね」

「あぁ、頼む。俺もできるだけ早く戻るから」


 そこでオレはレイヴェルと分かれて、『鈴蘭荘』へと戻った。

 今『鈴蘭荘』はちょっとした増築中だ。元々はレイヴェルだけが居候してたところにオレに加えてフェティまで来たわけだから。

 手狭になったわけじゃないけど、今後のことも考えて増築しようってことになったのだ。キュウもこれから成長していくだろうし、広い場所があるならそれに越したことはないし。

 今日フェティはそっちの手伝いをしてたから一緒に採取にはいけなかったってわけだ。


「さーて、どれくらい進んだかなっと。あっ」


 昨日は資材を搬入してただけだけど、オレ達が出かけてる間にずいぶん作業が進んだらしい。『鈴蘭荘』の隣にくっつくようにして小屋ができてる。


「ただいま戻りましたー」

「お姉ちゃん! お帰りなさい!」

「クロエさん、お疲れ様です」

「しーっ」

「あ、ごめん。キュウちゃん寝ちゃってるんだね」

「すみません、気づかなくて」

「ううん。気にしないで。私、この子を部屋に連れていくから」

「いいなぁ、私も抱っこしたいのに」

「クロエさんとレイヴェルさん以外が抱っこするとすぐに起きちゃいますもんね」

「そうなんだよねぇ」


 なんでかはわからないけど、キュウはオレとレイヴェル以外に抱っこされるのを嫌がる。というか拒絶する。人懐こい性格ではあるけど、抱かれるのは嫌みたいだ。


「とりあえず部屋で寝かせないと。そしたらまた戻ってくるから」

「あ、そうだった。お姉ちゃんにお客さんが来てるよ」

「お客さん?」

「うん、うちの客室に泊まるらしいから、今は荷物置きに行ってるけど。お姉ちゃんのこと知ってる人みたいだったよ」

「私のことを知ってる……どんな人だった?」

「えっとね、ドワーフ族の女の子だった!」

「ドワーフ族!?」


 なんだか、エルフの国へ行く前に一波乱ありそうな予感がする。

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