第266話 強くなる力
〈クロエ視点〉
ミサラさんの旦那さんのクレイムって人がレジスタンス組織『グリモア解放戦線』のリーダーだった。
まさか目的の人物に近い人とすでに会ってたなんて思いもしなかった。ミサラさんの様子からして、何かあるだろうとは思ってたけど。それがまさかそのままレジスタンスに直結してるなんて。
運が良いって言っちゃうのはなんか違う気がするけど、まぁ探す手間が省けたのは素直に嬉しい。
だからこそこのチャンスを手放すわけにはいかなかった。さっきのレイヴェルとの話を聞く限り、レジスタンスが近いうちに大きなことを起こそうとしてるのは間違い無い。
もしかしたらそれにハルが関わってるかもしれない。だったらオレはそれを見逃すわけにはいかない。
ハルに会って、ちゃんと話をしないと。そしてもしハルが間違った道に進んでたならオレが止める。それがハルの友達として、キアラの代わりにオレができる唯一のことだ。
「クロエ、この後はどうするんだ? なんか変なこと企んでそうで不安なんだが」
『別に変なことは企んでないって。とにかく一回宿に戻ろ。もしかしたらコメットちゃんが来てるかもしれないし。そうでなくてもアイアルに話しておかないと。場合によっては協力してもらう必要があるかもしれないし』
「そうだな。とりあえず一回戻るか」
レイヴェルには言ってないけど、ずっとレイヴェルの後をつけてる気配があった。たぶんこの国の兵士達だと思う。尾行の仕方があんまりにもお粗末だったからバレないように偶然を装って妨害することはできたけど。
尾行のプロみたいな人を当てられなかったのは幸いだった。オレが何かしたことにも気づいてなかったみたいだし。
……最近、ずっと感じてることがある。それはオレの魔剣としての力がどんどん強くなってるってことだ。最初はレイヴェルとのリンクが強くなってるからだと思ってた。でも違う。単純にオレの力が強くなっていってるんだ。
正直な話をすれば少しだけ怖い。オレの力がオレの想像を超えて強くなっていってるみたいで。この先、どれほど強くなるのかわからない。
この《破壊》の力がどこまでできるようになるかもわからない。今日だってそうだ。尾行を撒くときに使ったのは、兵士が隠れてた近くの建物の一部を破壊して注意を逸らすって方法。それだけなら今までも頑張ればできた。でも、今回はそれに加えてレイヴェルの気配を破壊した。
破壊したって言うとややこしいけど、用は気配を消したってことだ。そのせいで兵士達はレイヴェルの姿を見失ったわけだ。
正直自分でやっといてなんだけどわけがわからない。気配を壊すって、なんだそれって感じだけど、ただなんとなくできると思ったらホントにできちゃったって感じだ。
どう使うのもオレの認識次第。まさにそんな感じだ。もしかしたら……いや、止めとこう。下手なことして大惨事なんてことにはなりたくないし。
まぁそれは注意するとして、レジスタンスのことを調べるのにはこの力は有効活用するべきなんだろう。扱い方は間違えないようにしないといけないけど。
『……ん?』
「どうかしたのかクロエ」
『今何か私の察知に引っかかったような気がしたんだけど』
でも、今はもう何も感じない。
気配を感じたのは一瞬だった。でも絶対に気のせいなんかじゃ無い。
誰かが確実にオレの方を見てた。わざと気づかせるように気配を飛ばしてきてた。
『今の気配……どこかで覚えがあるような気がしたんだけど』
「知ってる奴ってことか?」
『わからない。ハルとかファーラ達じゃないことは確かだけど。ごめん、完全に見失ったからわからないかも』
「まぁそれなら仕方無いだろ。とりあえず俺も注意しとくよ」
気配を完全に消したその存在に一抹の不気味さを感じながらもオレ達は宿へと戻るのだった。
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「あははっ♪ すっごぉい。あの子あたしに気づいたよ。ねぇクラン、一瞬気配を飛ばしただけなのに気づいた!」
「……なに遊んでるの?」
「遊んでるなんて嫌な言い方しないでよぉ。相手の能力を知る。大事なことでしょ」
「どうでもいい。わたしはわたしのやるべきことをやるだけ」
気怠そうに答えるのは、ワンダーランドの契約者であるクラン。
彼女達もまたクロエ達と同様、エルフの国へとやってきていた。しかし、クロエ達と違うのは正規の入国審査を受けていないということだ。
端的に言ってしまえば不法入国である。
「それよりまだ来ないの?」
「そろそろ来るはずなんだけど……あ、来た来た」
ワンダーランドの視線の先に居たのは数人のエルフだった。
その中には先ほどまでレイヴェルと話していたクレイムの姿もあった。
クレイムの表情からは緊張と迷いが見て取れた。
「すまない、少し遅れてしまった」
「いーよいーよ気にしないで。この国を見てるだけでも面白かったし♪」
「今回は協力を申し出てくれたこと、心から感謝する。どうかこの国を取り戻すために力を貸して欲しい」
「もちろん、あたし達はそのために来たんだからさ。全力で、協力させてもらうね♪」
「そう言ってもらえると心強い。それではさっそく作戦内容を詰めていくとしよう」
ワンダーランドの言葉にエルフ達はパッと表情を明るくする。
しかし彼らは気づいていなかった。協力すると語るワンダーランドの表情に嘲りが混じっていたことに。
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