第103話 情報共有は大事です

「ふむ【業炎】に【毒腐】か……」


 フェティからの情報を受け取った後、オレ達はその情報を伝えるためにカムイの元へとやってきていた。

 集まったのは最初に会った謁見の間じゃなくて、カムイの王としての執務室。

 オレとレイヴェル、フェティ以外にいるのはカムイ以外にも、その右腕たる魔剣使いのヴァレスさんとラオさんリオさん……あと、ライアもいる。

 まぁ、手に入れた情報のことを考えたら当然なのかもしれないけど。


「【業炎】に関しては前回の襲撃でその存在は明らかとなっていたが……まさか【毒腐】まで一緒だったとはな」

「【毒腐ノ沼】……あまり表に出てくることはありませんが、かなり危険な魔剣使いとして有名ですね。前回の襲撃時、もし一緒に攻められていたら少し危なかったかもしれません」

「うむ、そうだな」


 へぇ、その【業炎】も【毒腐】も全然知らない魔剣使いだけど……いや、むしろ知ってる魔剣使いの方が少ないんだけどさ、カムイが警戒するくらいには危ない魔剣使いなのか。

 カムイの実力はある程度把握しているつもりだ。

 まぁ知ってるのは全盛期の頃の実力だから、その頃より強くなってるのか弱くなってるのかはわからないけど。

 カムイのことだから弱くなってるってことはないか。

 カムイは強い。今も身に着けてるであろう宝具を使えば魔剣使いと渡り合うことができるくらいには。


「【業炎猛鬼】アリオス。凄まじい使い手であった。ここにおるヴァレスも歴戦の猛者ではあるが、それでも終始押されるほどに」

「…………」


 カムイの言葉にヴァレスさんは何も言わないが、にじみ出る悔しさは隠しきれていなかった。否定はしないってことは本当なんだろう。

 魔剣使い同士の戦いになれば、実力差が如実に表れる。魔剣同士の相性なんかもあったりするけど……。

 この感じは完全に実力で押し負けたってことかな。


「なんとか守り切ることはできたものの、被害は決して少なくなかった。今も復帰できぬ兵士がおるほどだ。あれほどの攻めだ。何度も喰らえばどれほどの被害がでるかわからん。それに……クロエよ、お主が何よりわかっていることだろうが魔剣同士が本気でぶつかり合えば、その被害がどれほどのものになるか」

「それは……まぁ。わかるけど」


 この王都でぶつかり合うようなことになれば……それこそ先輩レベルの魔剣だったらこの一帯を瓦礫の山にすることだって不可能じゃない。それはもちろんオレも同じことだ。


「……そこの娘、お前の情報は確かなのだな。相手には【業炎】だけでなく【毒腐】もいるというのは」

「ちょっとカムイ。この子が嘘言ってるっていうの?」

「そうではない。が、情報に求められるのは正確性だ。間違った情報があれば、それだけで作戦に支障をきたす可能性もある」

「む……」


 言わんとすることはわかるけど。


「……申し訳ありませんが、情報の正しさを保証するものは何もありません。私の言葉だけです。しかし、私はローゼリンデ様の弟子にして後継者候補。『猫奪屋』とローゼリンデ様の名にかけて、手にした情報には自信を持っています」

「フェティ……」

「……いいだろう」


 フェティの目をジッと見つめていたカムイは、少しの沈黙の後納得したように頷いた。


「その情報、信じよう。そして信じたうえで……どう動く、【剣聖姫】よ」

「……何も変える必要はないでしょう」

「ほう」

「もともと魔剣使いがいることはわかっていました。そこに新たにたかが一人の魔剣使いが加わっただけ。何の問題もありません」

「大した自信を持っているものだな」

「当然のことを言っただけです」


 いやいやマジか。この人本気で言ってんのかこれ。

 チラッとレイヴェルの方を見ると、小さく頷いていた。ラオさんとリオさんも同じ反応……つまり本気で言ってるってことだ。

 この場で冗談言うような人じゃないのはわかってたけど、だからって魔剣使いを“たかが”って、どんだけ自分の実力に自信持ってるんだ。


「私達とそちらが用意した兵士……確か、狼族と狐族の戦士でしたか。計四名を用意していると聞いています。それだけで十分です。それ以上は邪魔になるだけなので」

「ちょ、ちょっとライアさん、いくらなんでもそれは——」

「お前が私の決定に口を挟む権利はない。私が必要ないと言えば必要ない。ぞろぞろと兵士共を連れていったところで、有象無象では話にならない。なら私が少しでも動きやすいように、邪魔少なくするべきだ」

「じゃ、邪魔って……」


 思わず口を挟んだけど、あっさり反論は潰されてしまう。

 言わんとすることはわかるけど……でもそれは直球で言うか普通。

 あぁもう、こいつがそういう人だってのはわかってたけど、まさかここまでだったなんて。


「いや、クロエ。そこの者の言う通りだ。現状動かせる戦力で、それなりの実力を持った者をすぐに用意することはできない。戦いに巻き込まれればお前達の邪魔になるだけだろう」

「……カムイがそう言うなら。でも、本当に大丈夫なんですねライアさん」

「誰に言っている。私は誰にも負けない。相手が誰であろうとも、そして何よりも魔剣使いには絶対に。この身に流れる血にかけてな」

「え……?」


 なんだ今の言い方。ちょっと違和感があるっていうか……いや、違う。この身に流れる血にかけてって、もしかしてこの人……いや、でもそんなことあり得るのか?


「……余計なことを言ったようだ。獣王様、二人の話を聞いて【銀閃】と呼ばれる狼族の戦士が到着していることはわかりましたが、狐族の方たちはまだなんですね」

「うむ、どうやら移動時にトラブルがあったようでな。やはりこちらに着くのは明日になりそうとのことだ。その代わり到着次第すぐに作戦行動を開始できると言っていた。【銀閃】にはこちらから連絡しておく、お主らはそれまで自由にしているが良い。何かあれば伝えよう」

「……わかりました。それでは失礼します」

「あ、リーダー!」

「失礼します」


 部屋を出て行くライア達。

 できればもう少し問い詰めたかったけど……あの様子じゃ無理か。

 仕方ない、今は諦めよう。後でラオさん達に聞いてもいいかもしれないし。


「それじゃあ私達も行こう。それじゃあまたねカムイ」

「先ほどから言おうと思っていたが、この場では良いが外では様をつけろ。これでもワシも王だからな」

「はいはいっと、覚えてたらね」

「確約せんか!」

「あははははー」

「笑ってごまかすな!」


 怒鳴るカムイから逃げるように、オレはレイヴェルとフェティを連れて執務室を後にした。

 気になることはいくつかあるけど、今は明日に備えるとしよう。

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