第129話 酔った時の対処法

 ケルノス連合国の広さは他の国と比べてもかなり大きい。人口まで含めて、セイレン王国とは段違いなレベルで。まぁいくつもあった獣人族の国を一つに纏めた結果なんだからそりゃ当たり前といえば当たり前なんだけど。

 ケルノス連合国として一つに纏まってはいるけど、それぞれが独立した国であった頃の名残は十分に残ってるし、王都以外の場所ではケルノス連合国への帰属意識の低い種族もまだまだいるらしい。その辺の問題も少しずつは解消されてるらしいけど、現状では対処しきれてないのがらしい。

 辺境の村までは手が行き届いてないのが事実だ。

 で、なんでいきなりこんな話をしているのかと言えば——。


「道が悪すぎる!」

「どうしたんだいクロエ、急に叫んで」

「ただでさえ狭い室内なんだ、あまり騒ぐと迷惑だぞ」

「いや、それはごめんだけどさ。ってそうじゃなくてさ、いくらなんでも足場が不安定すぎるでしょ! さっきからガタガタ揺れてるなんてレベルじゃないくらい揺れてるし。視界が揺れすぎて酔いそうなんだけど」


 さっきも言った通り、この国はカムイが一つに纏めたことによって急拡大した。でもだからって急に全部をどうにかすることはできなくて、重要度高い場所から手をつけるのは当たり前といえば当たり前のことだった。

 だから道の整備も王都からが中心で、他の道の整備が全然追い付いてないのが現実だ。だからこんな道まである。

 仕方のないことだけど、だけどぉ! 絶対後でカムイに文句言ってやる!


「魔剣でも酔うんだねぇ」

「あぁそうだな。新たな発見だ」

「だからそうじゃなくて、っていうか私のことはどうでもよくて……レイヴェルとか揺れすぎて完全にノックアウトしてるから!」

「…………」


 喋れば朝に食べたものをもどしてしまいそうなのか、ジッと黙ったままのレイヴェル。でも無理もない。それくらい尋常じゃない揺れ方なんだから。というか揺れすぎて壊れないのか心配なくらなんだけど。

 なんとかしてあげたいけどなんともできないこのもどかしさ。あぁオレの力が《破壊》なんかじゃなくて《治癒》とかそっち系統なら良かったのに。

 ないものねだりしてもしょうがないけど、このままじゃあまりにもレイヴェルが可哀想だ。


「大丈夫……ではないよね。ねぇファーラ、なんとかならない?」

「なんとかって言われてもねぇ。でも、もうすぐでもう少しましな道になるはずだよ」

「ならいいんだけど。でも今苦しそうなわけだし。えっと確か酔った時の対処法は……」


 馬車だから車と完全に同じってわけじゃないけど、確か酔った時は外を見る……ダメだ、この馬車ろくの外が見えない。それに外の景色って言っても木々ばっかりだし。

 後の対処は確か……あ、そうだ。頭を極力揺らさないようにするために横にするんだったか。でも横になるって言ってもこんな場所じゃなぁ。仕方ないか。


「レイヴェル、もうすぐでこのボコボコ道も抜けるみたいだから。それまで横になって。もしキツイなら我慢せずに吐いちゃってもいいから」

「……クロエ?」

「とりあえずこれでよしと」


 レイヴェルを横にして膝の上に頭を乗せる。そのまま横にしたんじゃあんまり変わらなさそうだしな。これが現状の最善手だろう。


「でもこれじゃ」

「いいから。しんどい時はしんどいでいいんだから。ゆっくり休んでてよ」

「……あぁ」


 短く返事をするとレイヴェルはそのまま目を閉じる。たぶん横になったことで少しは楽になったんだろう。これで気分が良くなるといいんだけど。

 オレにできるのはこれくらいだ。はぁ、こうしてると魔剣の力も万能じゃないっていうか。戦闘面に関してはできることも多いんだけど……あ、でもオレの力でレイヴェルの体を強化したりしたら少しは楽にできるか?

 うーん、まぁでも今はこのままにしとくか。急に体の強化したりしたらびっくりするかもしれないしな。


「んで、何その目は」

「別になにってことはないけど……ねぇ?」

「あぁ。まさかクロエのそんな姿を見ることになるとは思わなかった」

「ん? どういうこと?」

「まぁつまりクロエが誰かのことを甲斐甲斐しく面倒を見てるのが珍しいということだ。昔のクロエはいつもキアラやラミィ、それにあの人達に面倒を見られていた印象しかないからな」

「うぐ、確かにそれはそうかもだけど……相棒のことなんだからそれくらいちゃんとするってば」

「ホントに相棒ってだけかい? それ以上って感じがひしひしと伝わって来るけど」

「あぁもうからかわないで! っていうかレイヴェルが休んでるんだから静かにしてて」

「うーん、それにしても仮にも冒険者がこの程度でダウンしてちゃ先が思いやられるねぇ」

「あぁそうだな。この程度の揺れ、この先いくらでも経験することになるだろうに」

「うぐ、そうかもしれないけど。まだ駆け出しなんだからこれでいいの」


 でも確かに、前にシエラの背に乗った時はもっと激しかったしあの時もしんどうそうにはしてたけどここまでではなかったような……うーん、なにか原因があるのか?

 今はわからないし、気にしても仕方ないか。とにかくレイヴェルにはゆっくり休んでもらわないと。


「それにしても……」


 ずっと妙な胸騒ぎがするっていうか……はぁ、こういう時の予感ってだいたい外れないからなぁ。

 フェティの方も心配だし、何事もないままピッド村に辿りつけたらいいんだけどな。

 そんな叶いそうにもない願いを心中で呟きながら、ボコボコ道を抜けるのをただ待つのだった。

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