第110話 戦い方の指南
王都を出発してからしばらくして、オレ達は最初の休憩地点である村へと到着していた。
「ふぅ、ずっと座りっぱなしで疲れたぁ……」
「確かにな。それなりの広さはあるって言っても動けるような場所があるわけじゃなかったし。さすがに五人で座ると手狭だったしな」
「だらしないな二人とも。そんな調子でこの先大丈夫なのか?」
「この先もずっと馬車移動なわけだしね。アタシ達は慣れてるから平気だけど」
「二人はそりゃ慣れてるだろうからいいけどさ。って、フェティは平気なの?」
「私ですか? 私ならなんの問題もありません。任務によっては一日中動かず、ずっと同じ場所に居続けることもままあるので」
「それはそれでどうなのって言いたくなるけど。そっか、じゃあ今回の面子の中で馬車移動に慣れてないのは私とレイヴェルだけなんだね」
「みたいだな。早く慣れないと」
「ま、あんた達ならすぐ慣れるでしょ。それよりどうする? アタシ達は出発まで適当に過ごすつもりだけど」
「うーん……レイヴェルはどうするの?」
「オレか? とりあえずは軽く体を動かしとくつもりだ」
「うむ。それがいいだろう。この村を抜ければ魔物も増えてくる。今のうちに体の感覚を掴んでおくべきだ。良ければ俺が付き合おう」
「いいんですか? そうしてくれると助かりますけど」
「構わない。さっそく行くとしようか」
「はい、お願いします。あ、クロエも一緒に来るか?」
「ううん。私はいいや。二人の邪魔するのも悪いし。いってらっしゃいレイヴェル。あんまり無茶しちゃダメだからね。ヴァルガも、レイヴェルに怪我させないでよ」
「心得ている。ファーラ、そちらは頼んだぞ」
「はいはい。ほどほどにね」
一瞬目線を交わして頷き合う二人。
なんか妙に引っかかるっていうか……。
「? ファーラ今のってどういうこと?」
「ん、あぁ。こっちの話だから気にしないで。とりあえずレイヴェルのことはヴァルガに任せて大丈夫だから。フェティ、だっけ。そっちはどうするの?」
「私は少し情報収集に回ろうかと。出発時間前には戻りますので」
「そっかぁ。残念。何かわかったら教えてね」
「はい。わかりました」
ペコリと頭を下げて去っていくフェティ。
レイヴェル達も行ったから、これで完全にファーラと二人きりになってしまった。
「えーと、どうしよっか」
「アタシは別にこのままのんびりしててもいいけど? でも、拳闘術教えてもらいたいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど。今大丈夫なの?」
「もちろん。いきなり実戦でってわけにもいかないでしょ」
「まぁ、それもそうか。うん、それじゃあお願い!」
「オッケー。それじゃちょっと広い所行こっか。村の中で暴れるわけにもいかないしね」
「そうだね。あ、でもそれじゃあレイヴェル達と一緒に行ってもよかったのかな」
「それは止めといた方がいいと思うけどね。怒りそうだし」
「え?」
「こっちの話。ま、向こうを気にしながらやるのも嫌でしょ? こっちはこっちでのびのびやりましょ」
「う、うん。わかった」
ちょっと気になるけど、まぁ二人なら大丈夫だろう。
拳闘術を教えて欲しいっていうのはオレが頼んだことだし。機会があるなら願ってもない話だ。
「ねぇクロエ」
「なに?」
「やっぱり拳闘術を教えて欲しいってのはレイヴェルのためなわけ?」
「それは……まぁ、うん。一応そういうことになるけど」
「ふぅん、やっぱりそうなんだ」
「な、なにニヤニヤしてるの!」
「べっつにぃ。ただ、クロエも変われば変わるんだなぁって思って。まさかクロエが男のためにそこまでしようとするなんて」
「べ、別に男だからどうとかは関係ないってば。ただ、レイヴェルにばっかり負担をかけるわけにはいかないから」
「負担?」
「うん。ファーラも知ってると思うけど、私は戦い方を知らない。知ってるのは自分の力の使い方だけ……ううん、それすらも満足に使いこなせてるとはいえない」
今の現状、レイヴェルだけでなくオレ自身のことを冷静に分析するなら、完全の能力頼りだ。情けない話だけど。
その能力……《破壊》の力にしたって満足に使いこなせてるわけじゃない。細かい出力調整は正直苦手だ。感覚でやってるからだろうけど。
でもきっとそれじゃダメなんだ。これからのことを考えるならオレ自身が戦い方を知って、この力もちゃんと使えるようにならなきゃいけない。
それがレイヴェルと一緒に先に進むってことだ。レイヴェルが努力してるのに、その相棒であるオレが努力も何もせずにこのままでいいなんて、そんなわけがない。
「私がレイヴェルと一緒に強くなっていくために。まずはその第一歩として、戦い方をしる所から始めようって思ったの。護身術くらいなら学んだけど、ちゃんとした戦い方は教わってこなかったから。まぁ、知ろうとしなかったってのもあるけど」
「そうね。アタシ達と一緒にいた時も基本は後方支援だったし。まぁあの頃は契約者もいなかったからしょうがないかもしれないけど。ふふふ、そんだけ覚悟があるなら大丈夫そうか。それじゃあこっちも本気でしごかせてもらおうかな。しかし、クロエもかなりレイヴェルに夢中って感じね」
「だから、そういうのじゃないってば!」
「別に恥ずかしがることじゃないでしょ。むしろこっちとしてはようやくかって感じなんだけど」
「あぁもう、知らない!」
「赤くなってるー。ほんと昔からこういう話は苦手よねクロエは。惚れた腫れたなんて男女の常でしょうに。それは魔剣でも同じなんでしょ。あの人も言ってたじゃない。魔剣が契約者を選ぶのは人間で言うところの恋心に似てるって」
「似てるってだけで一緒じゃないから。それに、魔剣だって色々だからね。先輩の言ってることだけが全部じゃないから。性格とか、そういうの抜きで自分との相性だけで選ぶ魔剣もいるし」
「なるほど。体の相性だけで決めるってわけね」
「言い方っ!! 間違ってないけど、言い方もう少しなんとかして!」
「はいはい。ちなみにクロエとレイヴェルの相性はどうなの?」
「え、それは……悪くはない、と思う。というかむしろ、すごく良い……レイヴェルに使ってもらうたびにさらによくなってるっていうか……って、何言わせるの!」
「いやいや、今のは勝手に自爆しただけでしょ。でも、ホントにキアラが聞いたら嫉妬するんじゃないかってレベルね」
「あぁもうホントにあなたは……昔はもっと可愛げがあったのに」
「昔は昔、アタシだってもうそれなりの歳だからね。経験もそれなりに積んだつもりだし。むしろクロエが変わらなさすぎなのよ。魔剣だからしょうがない部分もあるかもしれないけどね」
「はぁ、まったくもう」
「いつまでも昔のままじゃいられないってね。あなたも、アタシも。さて、それじゃあこのあたりにしましょうか」
ファーラと話してる間に気付けば、開けた場所へと到着していた。
「ここなら広さも十分でしょう。よし、それじゃあ戦闘の基礎から叩き込んでいくから。時間もないし、死ぬ気でくらいついてよクロエ!」
「もちろん!」
そして、それから出発時間ギリギリまでファーラから拳闘術についての指南を受けたのだった。
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