第225話 自覚した想いとその反動
「んー……ふぁああああ」
窓の外から差し込む朝日を浴びながら思いっきり背伸びをする。
うーん、正直まだ眠い。だって昨日の夜あんなことあったばかりだし。あんなことがあった後にそのままはいお休みなさいなんてできるわけがない。
昨日ベッドの中に入ってからもわーってなってきゃーってなってなかなか寝付けなかったからな。
今でも思い出すだけで顔が熱くなる。ベッドの上をゴロゴロと転がりたくなる。さすがにしないけど。
「ふぁああ」
離れた位置にいるレイヴェルも同じようにあくびをしていた。たぶんオレと一緒でなかなか寝付けなかったんだろう。たぶん、そうだと思う。だといいなって感じだ。
オレがあそこまで勇気を出したのに全く恥ずかしがってくれないのはさすがに悔しい。
ドクン、と心臓が高鳴る。寝起きの横顔を見ただけでこの様だ。
自分の頬が熱くなるのを感じる。
あぁ、いつもと同じはずなのにどうしてこんなにドキドキするんだ。
いや、違うか。理由はもうわかってる。オレはもうオレ自身を誤魔化せない。
「好き」
初めて口にする言葉。ずっと目を逸らし続けていた自分自身の偽りなく感情。
何重にも覆い隠してきた本音をさらけ出せば、あったのは誰にでもあるような感情。
たぶん、初めてレイヴェルに会った時からオレの中にあった感情だ。
オレが元男だとか、魔剣だとか、そんなの関係無い。だって好きなものは好きなんだ。
一度言葉にしてしまえば、その感情は次から次へとあふれ出してくる。
今までずっと抑えてきた感情が爆発してる。
「うぅ……」
レイヴェルの方をまっすぐ見れない。こんなの生まれて初めてだ。
魔剣になってからはもちろん、男だった時も人を好きになったことは無い。だからこれが正真正銘、オレにとっての初恋ってことになる。
「おい」
「ひゃぁっ!?」
後ろから突然声をかけられて素っ頓狂な声が出る。
「な、なんだよ。そんなにびっくりすることないだろ」
声をかけてきたのはアイアルだった。
アイアルの方はむしろびっくりしたオレに驚いていたみたいだ。
「ごめんごめん。ど、どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇよ。お前もレイヴェルもなんか眠そうにあくびしてるし。大丈夫かよ」
「あー……う、うん。大丈夫だよ。ちょっと、ね」
「? なんなんだよ。もうすぐ朝飯の時間だし、それが終わったら降船の準備もしなきゃいけないんだぞ?」
「わかってるって。顔だけ洗ってくるね」
アイアルの言うとおり、ちゃんと気持ちを切り替えないと。
レイヴェルへの気持ちを自覚したからって何が変わるわけでもない。いやまぁ、オレの心持ちはだいぶ変わるんだけど。
レイヴェルを見てるだけで緩みそうになる頬を引き締め直す。
洗面所へ行き、冷水で顔を洗う。火照った頬を冷ますにはこれくらいでちょうどいい。
「つめたっ!」
想像以上に冷たい水は体が震える。でもこれでいい。
ちょっとだけ落ち着いた。タオルで顔を拭いてから鏡を見る。
映るのはもはや見慣れた自分の顔。まぁ整ってる……とは思う。どうなんだろう。
今までレイヴェルのことはずっと見てきたつもりだけど、どんな人が好みかなんて気にしたこともなかった。
いや、違うか。気にしないようにしてたんだ。
「もうちょっと身だしなみとか……気をつけるべき?」
いやダメだ。いきなりめちゃくちゃ決めだしたらおかしいだろう。
あくまで自然体。いつも通りのオレでいるべきだ。
パンパンと気持ちを切り替えるために軽く頬を叩いてから洗面所を出る。
すると目の前にレイヴェルの姿があった。
一瞬びっくりしたけど、大丈夫だ。冷静、平静、そう、今のオレはクールな魔剣少女だ。
「おはようクロエ。どうかしたのか?」
「べ、べべべべ別になにもないけど」
無理でした。
うん、無理。なんかもう無理。レイヴェルが近づいてきただけで心臓がバクバクいってる。
冷水浴びて落ち着けたのに、そんなのもう無意味だ。
「えーと……俺も顔洗いたいんだが」
「あ、ご、ごめん!」
気づいたらボーッとレイヴェルの顔を見つめてた。
慌ててその場をどいたオレは、レイヴェルが洗面所に入ったのを確認してからその場に座り込む。
ドキドキする胸をぎゅっと押さえる。
「レイヴェル……いつも通りだった」
そのことが無性にむかつく。
なんだかオレばっかりが意識してるみたいで。
「おいホントにどうしたんだクロエ。体調悪いのか?」
「ほ、ホントに大丈夫だから」
しゃがみ込んでたら心配したアイアルが近づいて声をかけてきた。
ふぅ。とにかくちゃんとしよう。いつまでもバカみたいなことはしてらない。
オレだって子供じゃないんだからな。
「こんなとこで何してるんだクロエ」
「ひゃわぁっ!?」
……落ち着けるのは、まだしばらく先になりそうだ。
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