第333話 アルマの決断

〈アルマ視点〉


 最初は気に食わない奴だった。

 エルフだからってわけじゃない。何もかもが俺とは違っていたからだ。生き方も、その考え方も。

 その認識が変わったのはいつの頃からだっただろうか。でも一気に変わったわけじゃない。同じ時間を過ごしていく中で、少しづつサテラのことを理解していったからだろう。そしてそれはサテラも同じだったらしい。

 ぶつかり合いながらも互いのことを理解しあった俺の想いが愛なんてものに変化するのにはそう時間がかからなかった。

 そしてその想いが通じ合った時、柄にも無く喜んでしまったのは俺にとって黒歴史だ。

 でも、幸せだった。サテラが恋人として俺の傍に居てくれる。それだけで俺は満たされていた。

 だけどこの時間がいつまでも経っても続かないことはわかっていた。俺はドワーフの王族で、サテラはエルフの王族。たとえ互いのことをどんなに想っていたとしても、この身に流れる血がそれを許してくれない。

 それはきっとサテラも同じだ。国を捨てるという選択肢が浮かんだのは一度や二度じゃない。でもそのたびに国のことを考えてしまう。国も血も、そう簡単に捨てることなんてできない。それが俺の弱さだった。

 サテラはそんな俺の弱さを受け入れた上で、それでもなお愛してると言ってくれた。離れていても心は一緒だと。

 国に戻ってから俺は必死になんとかしようとした。ドワーフとエルフの関係を。そうすれば堂々とサテラと一緒に居れると思ったから。

 だけど、そんな俺の願いはあっという間に砕かれることになった。突然届いたサテラの訃報によって。

 あの時の感覚は今でも覚えてる。足が無くなるような、自分の半身を引き裂かれるような。それでもギリギリの所で耐えることができたのはアイアルが居たからだ。

 俺とサテラの子供。アイアルが居なければ俺の精神はとっくに崩壊していただろう。やけになって何をしたかわからない。

 気がかりがあるとすればそれはサテラの方にいるもう一人の子供のことだったが、エルフの国にいる限りは俺にできることは何も無かった。

 だからせめてアイアルのことを立派に育てようと思った。それがサテラに報いることに繋がると信じて。

 驚いたことにアイアルには魔法の才があった。それも並大抵の才じゃない。育て上げれば一流になれることは間違い無いと言い切れるほどの才だった。

 俺にとってはサテラとの繋がりを感じることができて嬉しさもあったが、魔法の才を持ってしまったことはアイアルにとっては不幸でしかなかった。

 ドワーフ族に魔法の才を持つ者はいない。アイアルは同じドワーフの中でも爪弾きにされる存在になってしまった。

 表向きに目立った行動が無かったのは、王族だったからだろう。むしろ王族であるのに爪弾きにされるということ自体がドワーフ族が魔法の才を持つことの奇特さを示しているのかもしれない。

 魔法の才を持ったことをアイアルは嫌がっていたが、それはアイアルにとって母親であるサテラとの唯一の繋がり。俺はそれを捨てることができなかった。

 だからできる限りの魔法をアイアルに教えた。ドワーフである俺に教えられる魔法なんてたかが知れていたが、それでもアイアルはメキメキと才を伸ばした。

 そんなある日のことだった。ハルミチが……かつての仲間が俺の元へとやってきたのは。

 見慣れない真っ白な少女と共にやってきたハルミチは俺に言った。


『サテラを取り戻したくないか?』


 そんな荒唐無稽な言葉を信じられるわけもなかった。だがハルミチはどうやってサテラを取り戻すのか、その方法を俺に語った。そして俺は理解した。ハルミチは本気で言っているのだと。

 悩んだ。鍛冶も手につかないほどに。

 そして悩みに悩んだ末に俺は結論を出した。


「俺はサテラを取り戻す。そのためなら、なんだってやってやるさ」


 たとえそれが間違った道だとしても。



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