第228話 簡単に宿が見つかると思ってはいけない

 小都市パイオン。

 セイレン王国の最西端に位置する街。

 この先はセイレン王国とゼラス帝国の緩衝地帯だ。

 エルフの国であるグリモアはその緩衝地帯にある。だからこそお互いに不干渉を貫いている。あくまで今のところは。

 こんな最西端の場所に空港まで作ってるし、何よりイージアほどじゃないにせよこの街の規模はセイレン王国の中でもかなり大きめだ。

 人口は七万人ほど。かなりの賑わいだ。


「久しぶりに来たけど、なんか前よりもずっと賑わってるね」

「えぇ、うんざりするほどの人の多さですわ」

「それに関しては同意だな。まぁイージアに行った時も似たようなこと思ったけどな」


 オレが昔に来た時はまだここまでの規模じゃ無かった。そのことを考えたら時代の流れを感じるというか。首都なんかはそこまで変わってる印象無かったんだけどな。

 いや、違うか。あの時のオレにはその変化に気づく余裕が無かっただけだ。そしてそれに気づく前に首都の風景に慣れちゃっただけだ。


「レイヴェルは来るの初めてなんだよね」

「あぁ。西側の要所。名前くらいは聞いたことあったが、実際に足を運ぶのは初めてだな」

「じゃあ宿に荷物を置いたらぶらっと散歩でもしてみよっか。二人もそれでいい?」

「えぇ、異存ありませんわ。前回来た時はほとんど見回ることもしませんでしたし」

「あたしも別に構わないけど。なんか見て回るような場所があるのか?」

「特に観光名所があるような場所でもないんだけどね。でも、一番グリモアに近い場所ではあるからさ。ついでにグリモアの情報でもね」

「あ? そんなのこいつに聞きゃいいんじゃねぇのか?」

「コメットちゃんには悪いけど、実際にグリモアにいる人とそうじゃない人とじゃ見方は違うからね」


 実際外から見て今のグリモアはどう映ってるのか。それが一番わかるのはこの街の人間だろう。グリモアと取引してるような商人が見つかるといいんだけど。

 数少ないとはいえ、グリモアも完全に鎖国してるわけでもないし。コメットちゃんの言ってた若いエルフ達の行動について知ってることもあるかもしれない。


「ま、とにかく先に宿を取ろうか。お腹を満たしてからじゃないと動く元気も出ないし」

「そうだな。どこかおすすめの場所はあるのか?」

「さすがにそこまでは。昔行った場所が残ってるかどうかわからないし。まぁでもこれだけ広ければそれなりの宿は見つかると思うんだけど」


 なんだかんだ寄る人が多い街だ。宿もそれなりの数あると思う。適当に歩いてればそのうち見つかると思う。






 と、一時間前のオレはそう思っていました。


「ごめんねぇ、うちも今日はいっぱいで」

「そ、そうですか……わかりました」


 がっくりと項垂れて宿を出る。

 まさか……まさかここまで宿が見つからないとは思ってなかった。

 かれこれ今ので十件目。とりあえず手当たり次第で探してるのに。


「さすがにちょっと歩き疲れたな。どうする? 先に昼飯にするか?」

「うーん、そうだね。このままあてどなく歩いててもしょうがなさそうだし。どこかの食堂に入ろっか」


 これで食堂までいっぱいだったらどうしようとか思ってたけど、さすがにピーク時間は過ぎていたこともあって入れる食堂はすぐに見つかった。

 そこでオレ達はかなり遅めの昼食を食べながら、今後のことについて話し合い始めた。


「うーん、まさかここまで見つからないとはねぇ。別にお祭りの時期ってわけじゃないと思うんだけど」

「そうですわね。以前来た時はほとんど通っただけでしたから、わたくしもここまで賑わっているとは思いませんでしたわ」

「あたしもだ。なんでこの街こんなに泊まる奴が多いんだ」

「それはそうなんだけど。でも確かに考えたら当然かもね。ここから先は国外になるわけだし。国外から来た人、今から国外に行く人、そんな人達がいったんここを足場にして泊まるのはわかってたことだし」


 少し考えが足りなかったか。適当に歩いてれば見つかるなんて甘かった。

 でもそうなるとちょっと困ったな。高級な宿ならまだ空いてるかもしれないけど、さすがに懐的にそこまで余裕は無い。

 

「ちょっと困ったね。これ以上手をこまねいてるともっと宿無くなりそうだし」

「そうだな。こうなったらいっそ良い場所がないか聞き込みでもしてみるか?」

「それも手ではあるんだけどね。うーん、どうしたもんかなぁ」


 お手頃な宿はもう埋まってる感がある。でもだからってあんまり安い場所を選ぶとそれはそれで治安が心配というか。オレとレイヴェルだけならまだしも、こっちはアイアルとコメットちゃんがいるわけだし。あんまり変な場所に泊まるわけにもいかない。

 そうやって頭を悩ませていたその時だった。


「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「てめぇらのせいで俺らの商品台無しじゃねぇか!」


 突如として店内に響く怒声。

 何事かと目を向けた先には、大柄の明らかに柄の悪い男二人と、エルフの母娘がいた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る