第39話 魔法だって怖くない!
ゴブリンメイジを探してオレ達が踏み込んだのは大きな洞窟中だった。
もちろん洞窟に明かりなんてあるはずない……と、思ってたんだけど、そんなことは無かった。
洞窟の中には、あまり出来が良いとは言えないけど松明みたいなのが転々と設置されてたからだ。
「確実にこの洞窟にいるな」
『やっぱり?』
「普通のゴブリンだけなら松明なんて作らない。知能の高いゴブリン……ゴブリンメイジがいる証拠だな。まぁ下手したらもっと厄介なゴブリンがいたりするかもしれないけどな」
『大丈夫大丈夫。どんなゴブリンがいたって私がいるんだから』
「はぁ、あのなぁ。冒険者に油断は禁物なんだぞ。どんなに力を持った冒険者だって、油断したら低級の魔物にやられたりするんだから」
『真面目だねぇレイヴェルは』
「当たり前だろ。命がかかってるんだからな。それよりも、周囲の警戒怠るなよ」
『もちろん! ばっちり警戒してるよ。ついでに言うと、奥の方からゴブリンっぽい気配がいっぱい近づいてきてるよ』
「っ! それを先に言えバカ!」
レイヴェルが警戒するのと同時、奥からわらわらと虫のようにゴブリンが湧いて来る。炎で照らされた緑の肌がテラテラと光っててすっごい気持ち悪い。
なんか嫌な臭いもこもってるし。さっさと片付けて帰りたい! ってなわけで。
『さくっと片付けちゃうよレイヴェル!』
「おう!」
『レイヴェル、洞窟の中だからって剣の振り方気にすることないからね。今の私の切れ味は岩だって紙みたいに切り裂ける! 適当に振り回しても傷一つつかないから!』
「あぁ……って! さらっとヤバイこと言ってんじゃねーよ!」
『え、そうかなぁ?』
まぁ確かに岩でも斬れるって、すごいことなのかもしれないけど。魔剣だったら当たり前のことだ。オレだけのことじゃない。
普通の武器ならこういう洞窟みたいな狭い場所で戦う時、岩とか通路とかを気にして戦わないといけない。
ぶつけたりしたら刃こぼれするし、何より敵に大きな隙を晒してしまうから。
でも、魔剣ならそんなこと関係ない。敵が岩の後ろに隠れるならそのまま岩ごと斬ればいい。岩の壁でもなんでも、魔剣に斬れないものはないんだから。
でもまぁそのせいで家の柱ごと斬り倒したりして家の崩落に巻き込まれたー、なんてこともあったって先輩は言ってたっけ。軽く言ってたけど、家の崩落に巻き込まれても平気って、魔剣ってつくづくとんでもない。ま、オレも魔剣なんだけどな!
でもさすがにレイヴェルが崩落に巻き込まれて無事だとは思えないし。そんなことになったらオレも生き埋めだし。
それはごめんこうむる。
「おい、なんか考え事してんのか。さっきから黙り込んで」
『ん。まぁちょっとね。ってうわぁ! もうゴブリン片付いてる!?』
「さっきの戦闘でお前の切れ味がどんなもんなのかは理解したし。重さにも慣れてきたからな。さっきまでよりも体が動かしやすい」
『うんうん。私がレイヴェルの体に馴染んできた証拠だね』
「お前がオレの体に馴染むって、なんか嫌な言い方だな」
『えー、なに? 何想像したのレイヴェルー。このへんたーい』
「変態じゃねぇ!」
『いいからいいから。ほら、奥に進もう変態レイヴェル』
「だから変態じゃねぇ!」
『……ん? 待ってレイヴェル。奥からなんか近づいて来る。しかもかなり魔力が大きい』
今さらな話だけど、オレ達魔剣は魔力を感じ取ることができる。魔物でも何でも、生物である限り魔力を持ってる。だからオレは魔物の気配が掴めるんだけど……今近づいてきてる魔物はその魔力がかなり大きい。
これ……ちょっと真面目にやった方がいいかも。
『っ、来るよレイヴェル』
「あぁ。わかってる」
「グギガガガ……」
奥からゆっくりと現れたのは、他のゴブリンよりも一回り以上大きなゴブリン。たぶんゴブリン。なんか放つ雰囲気とか明らかに歴戦って感じで、さっきまでのゴブリンとは格が違う。
『あれが……ゴブリンメイジなの?』
「いや……あれはゴブリンメイジじゃない。ゴブリンジェネラル。おいおいマジかよ。メイジなんかよりよっぽど面倒なのが出てきやがった」
『えーと、もしかしてヤバイ感じ?』
「メイジなら俺でもなんとか頑張れば勝てるかもってレベルだけどな。ジェネラルは絶対に無理だ。俺一人じゃ逆立ちしたって勝てない。こいつはパーティ組んで挑まないといけない類のやつなんだよ」
うーん、確かにあのゴブリンジェネラルが放つ威圧感はかなりのものだ。強いのも頷ける。
でも、だけど……言ってしまえば、それだけだ。
きっと強いんだろう。普通の冒険者じゃ苦戦するんだろう。でも違う。きっとまだレイヴェルは理解しきってない。
自分が手にしたのが、そんなものとは比べ物にならないほど理不尽な力だってことを。
『……うん、このまま行こうレイヴェル』
「はぁ!? 俺の言ったこと聞いてたか? ゴブリンジェネラルは」
『聞いてたよ。だからこそ、絶対に大丈夫なの。そのことを今から証明してあげる』
「証明って……」
『レイヴェル、魔法は使ったことなくても魔力の移動はできるよね』
「ん、あぁ。それくらいは。あの人……イグニドさんに叩き込まれたからな」
『なら大丈夫。私の破壊の力、レイヴェルに流し込むから……想像して、魔力を剣に流し込むイメージ。剣に魔力を纏わせるの』
「剣に魔力を……纏わせるイメージ」
『うん、いい感じ。感じるよ、レイヴェルの魔力。上手だよ』
イグニドさんに叩き込まれたというだけあって、魔力の扱いがすごく上手い。
んぅ……なんか、ゾクゾクする。体が熱くなるこの感覚、ヤバイ。ちょっと癖になるかも。
ってダメダメ! ここでそっちに意識持ってかれたら戦いどころじゃなくなる。
『いい、レイヴェル。今私が纏ってるのは破壊の力。この剣に触れるものは全部破壊する。斬るんじゃないよ。破壊。全部を、全てを破壊する力。私に破壊できないものはない。あのゴブリンジェネラルだって、例外じゃないよ』
「……わかった」
「グガァアアアアアアッッ!!」
『さぁ、自分の方が強いって勘違いしてるあのゴブリンに現実を教えてあげよう』
オレの言葉を皮切りに、レイヴェルも覚悟を決めたのかゴブリンジェネラルに向けて走り出す。
それを見たゴブリンジェネラルは、左手に持っていた杖を掲げて炎の魔法を飛ばしてきた。初級のファイアボールなんかじゃない。あれに込められてる魔力量からして、中級レベル……フレイムボムってとこかな。
でも、どんな魔法だって関係ない。
『レイヴェル、避けないで!』
「はぁ!?」
『魔法を斬って!』
「魔法を斬るって、あぁもうわかったよ! やればいいんだろ!」
レイヴェルは半ばやけくそのように剣を振る。そして剣が魔法に触れたその瞬間、魔法が掻き消えた。
「ど、どうなってんだ?」
『言ったでしょ。これが破壊の力。魔法だって破壊できるんだよ』
『レイヴェル、避けないで!』
「はぁ!?」
『魔法を斬って!』
「魔法を斬るって、あぁもうわかったよ! やればいいんだろ!」
レイヴェルは半ばやけくそのように剣を振る。そして剣が魔法に触れたその瞬間、魔法が掻き消えた。
「ど、どうなってんだ?」
『言ったでしょ。これが破壊の力。魔法だって破壊できるんだよ』
破壊の力を纏ったオレの体……剣に触れた瞬間、魔法はその根本から破壊される。初級だろうが上級だろうが関係ない。この力の前にはどんな魔法だって無力になる。
「グゲッ?!」
自分の魔法が破壊されたことに驚いたのか、ゴブリンジェネラルは驚いたように一歩後退る。
つまり、オレ達にビビったってことだ。
たった一撃。でもその一撃で力の差を理解できるくらいの知能はゴブリンジェネラルにはあったらしい。
「ググ……」
『私の力が怖い? でももう逃げられない。私達に戦いを挑んだ時点であなたの負けはもう決まってるんだから』
「グギャッ!」
今さら本能的な恐怖を覚えて逃げようとしたってもう遅い。
敵に背を向けた時点で、勝敗はもう決まってるんだから。
『レイヴェル!』
「あぁ! これで、終わり……だっ!!」
そして、逃げ出したゴブリンジェネラルの背をレイヴェルが切り裂いた。
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