第217話 有罪

「えーと、なにこの空気」


 サーカスを見て楽しい気分で帰ってきたオレ達を待っていたのは、さっきまでとは真逆の地獄のような空気だった。

 アイアルはなんか怒ってるし、レイヴェルはめちゃくちゃ気まずそうな顔してるし。

 ほんと、何があったんだ?


「私達が色々見てる間に何かあった感じ?」

「……ふん、そこの変態野郎に聞けよ」

「へ、変態? ま、まさかレイヴェル私達がいない間に――」

「違う! 誤解だ! いや、あながち誤解とも言い切れないかも知れないが……とにかく誤解なんだ!」

「何が誤解だ! このクソ変態が!」

「うーんと……とにかくこの状況だと何があったかわからないから、何があったか教えてくれない?」

 

 さすがにレイヴェルがアイアルに手を出そうとしたとかは無い。それはさすがにあり得ない。もしそんなことする奴だったらもうすでにアレをもいでるし。

 でもこの状況を見る限り、何かはあったんだと思う。それを聞かないことにはどっちが悪いとかすら判断できない。


「えーと、何から言えばいいのかって話なんだが……」


 おずおずと 罰の悪そうな顔でレイヴェルが口を開く。

 そしてオレ達が出て行った後に何があったのか、なぜアイアルがここまで怒ってるのかの経緯について説明してもらった。

 その結果――。


「有罪」

「有罪ですわね」


 たぶん、オレもコメットちゃんも同じような顔してたと思う。

 うん、こればっかりは擁護のしようが無い。レイヴェルの気持ちもわからなくはないけど、さすがにちょっと無神経過ぎる。


「……はい」


 改めて下された有罪判決にレイヴェルはがっくり項垂れる。

 ちょっと可哀想だけど、これは甘んじて受け入れてもらうしかない。

 オレだってさすがにそんなこと言わされたら恥ずかしいしな。男だった時は気にしたことも無かったけど。

 

「こればっかりは土臭いドワーフと同意見ですわ。あなた、普段からクロエ様やフィーリアさん、マリアさん達のような女性方と一緒に暮らしておられるのでしょう? もう少し配慮があってもよいのでは無くて?」

「おっしゃる通りで……」

「まぁまぁ、その辺りで。レイヴェルだって反省してるはずだから。ね?」

「あぁ、もちろんだ。ホントに申し訳なかったと思ってる」

「ほら。だからアイアルも許してあげてくれないかな?」


 二人は配慮が足りないって言うけど、レイヴェルも相当苦労はしてるはずだ。女所帯の中に男一人っていうのは精神的にかなりつらいはず。


「……ちっ、次はねぇからな」

「あぁ、わかってる。ホントに悪かった」


 深々と頭を下げるレイヴェル。

 さっき有罪とは言ったけど、情状酌量はあると思うし。

 まだアイアルもコメットちゃんも冷たい目はしてるけど。まぁ時間が経てば落ち着く……と、思いたい。

 オレはレイヴェルの隣に行ってそっと肩を叩く。


「まぁ、元気出してレイヴェル。私は味方だから」

「あぁ、ありがとな」

「キュ~?」


 ちょうど話が終わったタイミングで、ずっと眠っていたキュウも起きてきた。

 まだちょっと眠いのかオレの腕の中にフラフラと飛んできてオレの腕の中に収まった。


「キュ?」

「うん、心配しなくても大丈夫だよー。ほらいい子いい子~」

「キュ、キュ♪」


 可愛い……じゃなくて、いいタイミングだ。

 この冷め切った空気を換えるためにも、みんなでご飯を食べに行ってもいいかもしれない。


「ねぇ、みんなお腹すいてない? もうそろそろいい時間だと思うんだけど」

「そういえば……そうですわね。乗ってから何も食べてませんし」

「あぁ、確かにな。この客船って飯も旨いんだろ」

「そうそう! それも売りの一つだから。せっかく乗ってるんだから楽しまないと損だよ。レイヴェルもお腹すいてるでしょ?」

「言われれば……なんか安心したら腹減って来たかも」

「だよね。それじゃ行こう。食堂の場所はちゃんと探索してる間に確認してるからさ」


 事前の確認はばっちりだ。このタイミングじゃないとまた変に話が蒸し返されるかもしれない。その前に部屋から出てしまうのが吉とみた。

 でも、そこでさっき会ったワンドちゃんとクランのことを思い出した。

 あの子達も食堂に行くって行ってたっけ。結構広い食堂だったから、会う可能性は低いと思うけど。

 なんか不思議な感じの子達だったけど……なんだろう、なんでかわからないけどまた会う気がするっていうか。変な胸騒ぎがするっていうか。

 ……ううん、さすがに気のせいのはずだ。気のせいだと思いたい。

 悪い子達じゃないと思うけど、なんか微妙に苦手意識を抱いてる。


「どうかしたのか?」

「……ううん、なんでもない。それじゃあみんなで行こっか。私色々見て回ったからお腹すいちゃった」

「なんだそれ。ところで、クロエとコメットは何を見てたんだ?」

「まぁ色々だよ。最後に面白いものも見れたし。話すと長くなりそうだからそれはご飯の時に話そうかな」


 そんな他愛の無い話をしながら、オレ達は食堂へと向かった。

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