第317話 世界を騙す力
「がはっ!」
カイナの胸をワンダーランドが背後から貫く。
なんで、どうして、そんな疑問がカイナの頭を埋め尽くす。確かにクランを破壊したはずだった。しかし今確かにカイナの胸を貫いているのはワンダーランドで、クランも健在だった。
「へぇ、どういうことなの? ちゃんと壊したと思ったんだけど」
皮肉ではない。純粋な疑問だった。実際にこうして胸を貫かれているという現実があっても、カイナは何が起きたのかを理解できていなかったから。
「あなたが勝手に油断しただけ。最初の一撃であなたはわたし達の技に罹った」
『自分が最強だと過信したがゆえの驕り。あたしも魔剣だってことを忘れてたの』
「ぐぅっ。あぁそっか。あの時か」
最初の一撃。すなわち『光幻』。カイナがあの技を避けることができなかった時点で、すでにクランとワンダーランドの術中に陥っていたのだ。
「なるほど。そっかそっか。わたしほどじゃないとはいえ、あなたも魔剣。まだ万全じゃないわたしに干渉できるだけの力はあるわけだ」
「万全じゃない?」
「忌々しい。あぁ本当に忌々しい! わたしが万全だったら! 完全に自由になれたらこんな有象無象の魔剣を調子づかせることもなかったのに!!」
それはクランとワンダーランドへ向けてへの言葉では無かった。剣に貫かれながら、それでもその意識は己の内にいるクロエへと向いていた。
「いつもいつもわたしの邪魔をする! 許さない、絶対に許さない!」
それはあまりにも異様な光景だった。己の胸を貫く存在に全く意識を向けずに、別の存在へとその怒りをあらわにしているのだから。
『なにを怒ってるのか知らないけど。それじゃあこのまま一気に――っ!?』
「剣が動かない」
「あなた達……邪魔」
カイナが胸を貫かれたままワンダーランドのことを掴んでいた。そしてそのまま背後にいるクランへ向かって腕を振り抜く。
ワンダーランドを掴まれたままのクランには避けることもできない。そのままクランの顔をわしづかみにする。
「壊れろ」
酷く冷たい声音でそう言ったカイナは《破壊》の力をクランへと注ぎ込む。掴まれた先からクランの体が崩壊していく。その様をカイナは無表情なまま見つめていた。
「……死んでない」
壊したはずのクランの体が幻のように消え去る。そして再び出現したのは背後からだった。だがしかしそれはカイナの読み通りの動きだった。
再び突き刺そうとしてきたクランの一撃を避け、そのまま再びカイナは《破壊》を行使する。だがそうして壊したクランは再び幻のように消え去る。
「小細工を……」
「っぅ……ふぅ、ふぅ」
『まさか今のにも対応されるなんて』
カイナと対峙するクランとワンダーランド。カイナは己の胸を触り、貫かれた傷が無くなっていることに気付いた。
「まるで嘘みたいに傷が消えた。ううん、嘘みたいにじゃなくて幻なのかな」
ペタペタと自分の胸を触るカイナはそれがワンダーランドの仕業であることに気付いた。
「あぁそういうこと。いくら壊しても壊れないのはそういうことか。幻を操る力。それがあなたの本質」
『……そう。それがわたしの力。そして『鎧化』まで果たした今、あたしの幻は現実すらも塗り替える』
「わたし達の幻は、世界だって騙せる」
ワンダーランドの力で破壊させた事実を幻にした。究極の幻を生み出す力。それこそがワンダーランドの真の能力だった。
「確かに……その力ならわたしの破壊を防ぐことができるのも頷ける。どんな魔剣もたどり着く場所は同じ。世界への叛逆者。それがわたし達魔剣という存在。でも、お前じゃ足りない。この世界を本当の意味で《破壊》するのは!!」
カイナの力が膨れ上がる。怒りによって増幅された《破壊》の力がカイナとワンダーランドを圧倒する。
「わたしがあなた達の幻を破壊する」
瞬間、クランの目の前にカイナが現れる。
瞬間移動などではなく、最初から距離など無かったかのように。
『距離の《破壊》! 間に合わな――』
カイナの手がクランに向かって伸びる。だがその手がクランに触れる直前、カイナが急に後方へと飛び退いた。
「今ここで彼女達を壊されるのは困ります」
「まさか……ここで来るなんて」
聞こえてきたのはどこか幼さを感じさせる少女の声。
その声を聞いたカイナは表情を引きつらせる。状況を飲み込めていないのはクランとワンダーランドだけだった。
クランの目の前に空間が出現する。そこから姿を現したのは真っ白な少女。
「ハクア……」
「お久しぶりです。姉さん」
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