第324話 叛逆の力

【魔封眼】。ドワーフ族の王族に伝わり、ごく稀に発言することがある奇跡の眼。

カームはエルフ族に伝わる【未来視】について調べていた時に、ドワーフ族にも【魔封眼】というものが伝わっていることを知った。

 そしてその恐ろしさも。カームは長年疑問に思っていた。なぜドワーフのような劣等種族を滅ぼすことができないのかと。ドワーフ族とエルフ族は長年戦いを続けてきた。しかしどの時代においても、どちらかが滅ぶということは無かったのだ。

 その理由をこの【魔封眼】の存在を知った時に理解したのだ。それほどまでに恐ろしい眼だった。


(どういうことだ。あの眼を持つ者はもうしばらくは生まれていないと、資料にはそう書いてあったのに!)


 だがしかし現実としてカームの目の前に【魔封眼】を持つアルマがいる。それは揺るぎようのない事実だった。黄金に輝くその瞳がなによりの証拠だった。


「今度はこっちから攻めさせてもらうぞ」

「カーム様!」

「みんな、カーム様を守るんだ!」


 カームとアルマが相対しているのを見た近衛兵達がカームを守ろうとしてアルマに向けて魔法を放つ。しかしそれは【魔封眼】を持つアルマに対しては悪手でしかなかった。


「お前たち、バカなことをするな! 今魔法は使うんじゃない!」


 魔法を発動させようとしているのを見たカームが必死にそう叫ぶが、もう遅かった。

 アルマの瞳が黄金に輝き、近衛兵達が発動しようとした魔法を全て打ち消す。


「魔法が!」

「なんでさっきから魔法が発動しないんだ!」

「あの眼だ。きっとあの眼が私達の魔法の発動を邪魔しているんだ! 魔法がダメなら弓で撃て! それなら通じるはずだ!」


 腐っても近衛兵達だ。その観察眼は確かなもので、何が魔法の発動を阻害しているのか。それをすぐに察した。しかし、それは半分正解で半分外れだった。

 近衛兵達の魔法を封じているのは確かに【魔封眼】だったが、【魔封眼】に秘められ能力はそれだけでは無い。


「そろそろ十分か。使い慣れてないから加減はできないかもしれないが。死にたくなければ足掻くんだな」


 黄金の瞳がさらに強く輝く。そしてその輝きはやがて大剣へと伝わった。なんの変哲もない大剣が宝剣の如き輝きを放つ。

 それを見た近衛兵達は驚きに目を見開く。なぜならそれはドワーフ族が使えないはずの魔法の輝きだったからだ。


「バカな、なぜドワーフである貴様が魔法を!」

「さぁ、どうしてだろうな」


 大剣を一閃。放射状に放たれた衝撃破が近衛兵達を呑み込み、まとめて吹き飛ばす。地面すらも抉り飛ばすほどの威力。それはアルマが受けた魔法の威力をそっくりそのまま返してしまったかのようですらあった。

 これも【魔封眼】の持つ能力の一つ。受けた魔法を吸収し、その魔力を利用して自身の攻撃へと転化することができるのだ。

 近衛兵達の魔法をずっと吸収し、溜め続けたアルマの放つ一撃の威力はこれでも抑えてある方だった。


「やっぱり加減が難しいな」

「貴様……」

 

 あっという間に近衛兵達の半分が倒されたことにカームは怒りと屈辱を感じた。近衛兵達はカームが直接選んだ者達。それをこうもあっさり倒されるというのはカーム自身に見る目がないと言われているような気分にすらなってしまったのだ。

 そして何よりも、悠然と経つアルマの姿に一瞬でも恐怖を覚えてしまった自分自身が許せなかった。


「調子に乗るなよドワーフ風情が。お前たち!」


 アルマの一撃に巻き込まれずに無事だった近衛兵達がカームの元へと集まる。


「思った以上に残ったか。さすがに腐っても近衛兵か」

「冷静でいられるのもここまでだ。タネが割れてしまえばその力も恐ろしくはない。我らエルフが魔法をどれだけ研鑽してきたと思っている」


 カームは【魔封眼】のことを知ってからできる限り調べてきた。そして直接自分の目で確認した今、その対処方も学んでいた。


「魔法で体を強化する術はいくつもある。だが今から見せるこれはそのどれでもない。我らエルフ族の長きにわたる魔法の研鑽の果てに生み出された秘技を味わうがいい!」


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