第57話 始まる戦い

〈レイヴェル視点〉


「あっ……」

「クロエ!?」


 届かなかった。

 俺が伸ばした手はクロエに届かずクロエがシエラの背から落ちていく。

 思わず俺も後を追おうとしたけど、その前にラミィが俺の服を掴んだ。


「バカッ! あんた死にたいの!?」

「クロエが!」

「わかってるけど、ここであんたが飛び降りても死ぬだけ! クロエからこの高さから落ちても大丈夫だから!」

「何を根拠に」

「私とクロエはあんたよりもずっと付き合いが長いの! いいから私の言うこと聞けこの若造!」

「っ」


 ラミィの言葉で少しだけ冷静さを取り戻す。

 そうだ。クロエのことは心配だけど、あいつは魔剣。この高さから落ちても大丈夫な可能性は十分ある。

 でも俺は違う。クロエがいないとただの新米冒険者。この高さから飛び降りたら確実に死ぬ。

 それに加えてここか竜命木の結界の中。シエラから離れたらどうなるかわからない。

 ラミィも心配してないわけじゃない。それは顔を見たらわかる。でもだからって焦って無謀な行動に出るのは違う。

 

「……悪い」

「わかればいい、それよりも……っ!」

「やっと見つけたぜぇ、竜使い」

「なんなのよあんた達は!」

「お前ら……ディエドとダーヴ!」

「あ? テメェは……くははっ! 前に王都にいやがった雑魚魔剣使いかよ!」

「ざっ!?」


 ぐっ、ムカつく……でも否定はできない。

 俺とクロエがいいようにやられたのは事実だ。俺達が全力を出したのに対して、こいつらにはどこかずっと余裕があった。

 なんとか平静を装ってるけど、正直かなりまずい状況だ。

 クロエのいない状態でこいつらと交戦するなんて、無茶だとしか思えない。

 くそ、どうする……。


「あいつらのこと知ってるの?」

「あぁ。あいつらは俺とクロエが王都で会った魔剣使いだ。かなり強い」

「……そう。やっぱり魔剣使いなのね」

『いひひっ、怖い? 怖い? ダーヴ達のこと怖い?』

「おいおい。戦う前から萎縮されてたんじゃ話にならねぇぞ。俺らは強ぇ奴と戦いてぇ。雑魚をなぶりたいわけじゃねぇんだからなぁ」

「ふざけたこと言わないで。誰があんた達のことを怖がってるって? 魔剣使いだからって調子に乗らないで」

「言うじゃねぇか。そんじゃあさっそく楽しもうぜぇ!」


 そう言うとディエドがこっちに向けて斬りかかって来る。

 っていうかこいつらどうやってこの空飛んでんだよ。


「っ、しっかり掴まってなさい!」

「うぉっ!」


 シエラが大きく羽ばたき、ディエド達から距離を取る。


「逃げたいって言うなら逃がす努力はしてあげるけど?」

「っ! ふざけんな! 逃げるわけないだろ!」


 思わず頭がカッとなる。

 ここで逃げるような奴だと思われてたことに腹が立つ。

 いや、確かに俺の実力を考えたら当たり前なのかもしれない。

 でも、だからって逃げるなんてことすわけがない。


「ここで逃げたら、ラミィのこと見捨てるような真似したら俺はクロエのこと真っすぐ見れなくなる! 誰にバカにされても、無理だって言われても! あいつの相棒として恥ずかしい真似はしねぇ!」

「……ふん、あんたがクロエの相棒を自称するのもムカつくし、私はあんたに見捨てられてもなんとも思わないし。そもそもクロエ抜きならそんなに実力あるようには見えないし」

「うぐ、それは確かにそうかもしれないけど。今言うことじゃ——」

「でも、その心意気は買うわ。いいわ、あんたも……レイヴェルも覚悟決めなさい。私達であいつらをぶちのめす!」

「作戦会議は終わりかぁ? だったらもういいよなぁ。思う存分殺し合おうぜぇ!!」

「勝手に死んでなさい!」


 そして、俺達の命を懸けた勝負が始まった。






□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



〈クロエ視点〉


「っぅ、いったたたた……」


 えぇと、オレどうなったんだっけ?

 確かレイヴェルに向かって手を伸ばして、バランスくずしてシエラから落ちて……。


「そうだ! シエラから落ちたんだ! ここどこ!?」


 慌てて周囲を見渡す。さっきまでとは違って、オレの周囲を木々が囲んでいる。

 でもそれはつまり、ここが竜命木の場所じゃないってことだ。

 だってさっきは霧を抜けたらすぐに竜命木だったんだから。


「竜命木の結界に弾かれた? あ、レイヴェル達は!?」


 誰もいない。それはつまり、レイヴェル達はまだ結界内にいるってことだ。

 あのディエドとダーヴも一緒に。

 まずいまずいまずい! それは滅茶苦茶まずい! だって、魔剣使いに勝てるのは魔剣使いだけだ。つまり、オレとレイヴェルが一緒じゃないとあいつらには勝てない。

 早く、一秒でも早くレイヴェルの所に戻らないと!

 そう思って走っても、気付いたら同じ場所に戻される。

 結界の力が作用してる証拠だ。

 この先にレイヴェル達がいるのに!


「どうしたら……」


 結界に隔てられてるせいか、レイヴェルとの間にあるパスも上手く作用してない。

 レイヴェルの位置が掴めないから、そこまで飛べない。


「焦っちゃダメ。このままここに居ても解決しない。だったら一度里に戻った方が良い。そしたらリューエルさんもいる。何か方法があるかもしれない」


 もっとも、あのディエドとダーヴがここまで来たってことは里が魔人族に襲撃されてるってことだ。

 あっちも大変なことになってるかもしれない。でも里の方には冒険者もいる。A級の冒険者チームもあるって言ってたし、もう一人魔剣使いがいるとかいう最悪なことにならない限りまだ持ちこたえてるはずだ。


「よし、とりあえず一回急いで戻ろう」


 このままここにいても埒が明かない。

 悩む前にまず行動だ。今は悩んでる時間すら惜しい。


「里はたぶん……あっちだよね」


 爆発の音とか、なんか戦ってるっぽい音も聞こえるし。

 とりあえず音の聞こえる方に行けば里に行ける……はず!

 レイヴェルからもらった魔力はまだあるし、本気で走る!

 鬱蒼と生い茂る木々を走り抜ける。

 そして、森を抜けた先で俺が見たのは……炎を上げて燃え盛る里の姿だった。


「何……これ……」


 里の中は大混乱になっていた。竜人族の兵達と冒険者達が、魔人族と戦っている。

 魔人族は基本的に肌が浅黒いので、パッと見ればすぐに魔人族だとわかる。


「ってボーっと見てる場合じゃないんだって!」


 早くリューエルさんのところに行かないと。

 どこにいるかわからないし……一回家の方に行こう。


「貴様も冒険者か! 死ねっ!!」

「あぁもう、邪魔っ!」

「ぐぁっ!」

「あなた達に構ってる時間はないの!」


 斬りかかって来た魔人族を殴り倒す。

 こんな所で時間を使ってる余裕なんてない。


「道を開けて、私の行く手を邪魔するなら全員、ぶっ壊すから!」


 オレの一喝に、魔人族は一瞬怯む。

 でもすぐに立て直して武器を構える。あぁもう、そのままビビッて逃げてくれたら楽だったのに。

 その中の一人。やたらと分厚い鎧に身を包んだ。大男がオレの前に出てくる。


「我の名はグ・ペペガ! 魔人族の誇り高き上級戦士である! 小娘、雑兵を一人倒した程度で図に乗るなよ。ただの冒険者風情がこのペペガ様に勝てると——ぐべらッッ!?」

「邪魔だって、言ってるの。ただの魔人族風情が、私に勝てると思わないで」


 なんかごちゃごちゃ言ってるけど、オレはもう忠告した。邪魔するならぶっ壊すって。

分厚い鎧に身を覆ってたって関係ない。オレの破壊の力は普通の鎧じゃ防げない。

鎧ごとぶち抜いて殴る。ただそれだけだ。


「ぐっ……がっ……バ、バカ……な……」


 大男は完全に沈黙し、地面に倒れた。

 急いでるって言ってるのにこいつらはホントにもう。

 このペンだかなんだか知らない男が倒れたのに、魔人族はやる気を失うどころかむしろ好戦的な目でオレのことを見てくる。

 根っからの戦闘種族だ。力でどかそうとしたのは間違いだったかもしれない。


「はぁ、いいよ。言ってもわからないなら体に叩き込む。私には絶対に勝てないってことをっ!」


 

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