第310話 vsアルマ 中編
振り上げられたアルマの大剣を見た瞬間、コメットは背筋にゾッと悪寒が走るのを感じていた。
まさかという嫌な予感。そんなコメットの嫌な予感はすぐに的中することになる。
「はぁっ!!」
「きゃぁっ!!」
「キュ~~~~っっ!」
振り降ろされた大剣がコメットが地面に仕掛けた罠ごと全てを破壊する。それだけには留まらずただの剣圧だけでコメットとアイアルは吹き飛ばされてしまった。
「っ、うぅ……っ! こ、これは……」
地面に転がされたアイアルが目にしたのは巨大なクレーター。十数メートルに渡って陥没した大地だった。ただの一撃。たった一撃でコメットの策を破壊したのだ。
「ありえませんわ……」
ドワーフという種族は他の種族に比べて力に優れている。そのことはコメットも知っていた。だからこそドワーフ族は山を開拓し、鉱石を採掘し、鍛冶などの技術が磨かれてきた過去がある。だがしかし、そう理解していてもなおアルマの一撃は衝撃だった。
「しまった。抑えたつもりだったがやり過ぎたな」
「これで抑えた? ふざけるのも大概にするべきですわ」
「どうしたコメット。そうやってそこでただ寝転ぶことしかできないのか? 俺はまだ立って居るぞ」
「っ! 舐めるんじゃありませんわ!」
閃光弾で奪った視界はすでに元通り。その一瞬に仕掛けた罠も一撃で粉砕された。決してアルマのことを侮っていたわけではない。むしろかなり警戒していた。だがそれでもアルマはそんな想像を超えてきた。
それでもまだコメットの心は折れていなかった。懐から取り出した物を思いっきり地面に叩きつけた。その瞬間巻き起こるのは煙幕。一気に広がった煙はアルマだけで無くコメットの視界まで奪った。
(これで視界を奪っても気配を読まれることは承知の上。でも先ほどの動きで確信しましたわ。気配は読めても、それが誰であるかはわかっていない。だとすればまだ不意を打つチャンスが生まれるはずですわ!)
例えどれだけ惨めだろうと、情けなかろうと、コメットはただアイアルのために時間を稼ぐことに注力していた。
走りながら作りあげた煙幕弾を今度はアルマに向かって投げつける。幸いにもというべきか、アルマの作ったクレーターのおかげで狙いを外すこともない。
だがここまでしてもそう長くは時間を稼げないであろうことはコメットもわかっていた。大事なのは攻撃の手を緩めないこと。がむしゃらに銃を撃ちながら作った道具を投げ込み続ける。殺傷能力の低い道具ばかりだが、どれも行動を阻害することには長けていた。
エルフの家の中にあった香辛料を使って作り上げた爆弾などは殺傷能力こそ無いものの、行動阻害という点では下手に殺傷能力を持たせるよりも有用だった。
「はぁはぁ……っ、キュウ!」
「キュッ!」
咄嗟にキュウの名前を呼ぶコメット。その意図を正しく察したキュウは急加速しコメットの手を掴んで上空へと飛ぶ。
その直後の事だった。凄まじい風と共に煙幕が吹き飛ばされる。
「きゃぁっ!?」
風に襲われるコメット。生み出された風は竜巻となり、キュウのおかげでギリギリの所で避けれはしたもののフラフラと地上へ落ちてしまった。
「攻撃の手を緩めなかったのは悪くない。だがまだ甘い。殺す気で来なければ俺は止められない。その程度の事はわかっていると思ったが。これまでの攻撃は全て非殺傷だった。俺のことを舐めているのか?」
「うっ……」
コメットの手を掴み、無理矢理起き上がらせるアルマ。その目には落胆の色が浮かんでいた。
「期待は超えてきたが、想定外では無かった。残念だ」
「まだ……まだ終わってませんわ……」
「…………」
コメットの心はまだ折れていなかった。しかしいくら心が折れていなかろうと、この状況を逆転する力をコメットは持っていない。その事はこれまでの動きを見てアルマもわかっている。
「この世界に奇跡は無い。たとえどんなに願ったとしてもな」
「奇跡は……」
「ん?」
「奇跡は望むものではなく、自らの手で起こすものですわ」
「……たとえ何を言った所で無駄だ。お前はここで――っ!」
コメットのことを気絶させようとした途端、右腕が急に重くなる。何が起こったのかと考えている間にもアルマの体だけが地面に近付く。まるで吸い付けられるかのように。
「まさか」
「キュウ! 今のうちにそいつ連れて離脱しろ!」
それはアイアルの声だった。魔法の維持に力を注いでいるのか、額には汗が滲んでいる。
キュウはそんなアイアルの言葉に押されるようにコメットの体を掴んでアルマから距離を取る。
「なるほど。このタイミングで仕掛けてくるかアイアル」
「誰かさんが情けないからな。やっと新しい魔法ができた。親父、こっから反撃させてもらうぞ!」
そう言ってアイアルは好戦的な笑みを浮かべた。
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