###25 ペアトーナメント決勝

 


「さあ、長めのインターバルも終わりましたのでいよいよ決勝戦に移りましょう!」


「――の前に、一つお知らせがあります」



 私はついさっき渡された追加の台本を読み上げる。まさかここまで仕事が早いとは。



「絶賛開催中の本イベントは第七回イベントですが、その後に毎度恒例の新規参入が行われるのは皆さんご存知のことでしょう」


 要するに第8陣の参入があるというわけだ。


「そこで! なんとなんと数量限定で私が監修したヘッドセットが発売されます!」

「ミドリさんが監修したんですか!? オシャレなデザインですねぇ」



 画面に映し出されているのは、通常色の白か黒のヘッドセットとは違う、パステルみを含んだエメラルドグリーン主体のVRヘッドセット。

 白と金の縁どりで翼や蔦が引っ付いている。

 我ながらいい出来だし、うちのバ先は優秀だ。デザイン案からそのままで再現度が高い。




「こちら、公式サイトの方から購入できます。自分で言うのも小っ恥ずかしいのですが、“V&R社製フルダイブ型VRヘッドセットEngel.model”が正式名称なので気になる方は是非」



 どうやら既存の通常モデルを使用している人もその旨を購入希望のページにチェックを入れることで引き継ぎできるようなのでそこもちゃんと説明する。

 私にも送られてくるようなので今度引き継ぎしよっかなー。


「そんな私特製の本商品、今ならなんと! 期間限定の0%off! お値段なんと税抜きで69800円! 69800円!」


「価格自体は通常モデルと同じというわけですね」



「その通りです。そしてちゃんと新規用と引き継ぎ用でそれぞれ200と500用意してあるそうですが、お早めにお買い求めくださいな!」



 ショッピングチャンネルのように元気いっぱいで紹介する。これで購買意欲が上がるかは知らないけど、こういうのは祭りのノリというやつだ。

 ちなみに台本はお堅い文章だったので9割9分9厘私のアレンジである。



 ――約束は果たしましたよ、掲示板の民。



 私は内心親指を立てながら、小休止となった宣伝タイムを終え、決勝の解説に挑むのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「試合開始ー!」




 田中さんの今日一の号令で試合が始まる。



『【聖剣解放】【限界突破】【限界突破】【限界突破】【限界突破】【限界突破】……【天元突破】!』



 地面が爆発するような量と質のバフがハクさんに乗る。痛みに顔を歪める彼女にミースさんが回復を入れている。


 前回の様子見からミースさんメインの戦法ではなく、シンプルにハクさんによる超強化で押し切る戦法か。



「速い! あの“リンサ”の2人が後手に回っているぞ!」

「統一されたレベルという土俵で最低でも2の5乗倍……つまり32倍は保障されてますからね」


 そう考えると勇者の【限界突破】って破格の性能だ。その分発動するとめちゃくちゃ痛いけど。


 でも、実際にハクさんが押しているのだ。

 リンさんの魔術を聖剣で叩き斬ったり高速で受け流したりしつつ、サナさんの攻撃も難なくさばき、時たま混じる彼女のユニークスキル【チェイン】の攻撃だけはかわしている。


「詠唱する隙も与えずハク選手、絶え間なく攻め立てる! かすり傷はミース選手の回復で消えていくぞー! さあどう対抗する!?」

「……」


 リンさんは穏やかで優しい人だ。

 しかし、かなり負けず嫌いでもある。



『そっちがその気なら……新スキルのお披露目タ〜イム! 【魔女の抱擁〜】!』


「おっとリン選手、幽体になってサ選手に抱きついた!」

「詳細までは不明ですが一度きりの特大バフなのは分かりますね」



 幽体のリンさんはサナさんに溶け込み、肉体は倒れてポリゴンになった。

 そして紫色のオーラを纏ったサナさんが押し返す。私の戦いの勘が正しければ時間制限があるタイプのバフではなさそうだ。サナさんに焦りの色が見られないのが証拠。


『『星々に我が願いを投じ、此の魂を捧げる』【聖望の煌めき】』


 ミースさんがバフを剥がして倒れ、蘇生を使う……前にサナさんが仕留めた。

 バフは消えていない。


「リン選手のバフは残っているようだ!」

「どのような判定なんでしょうね。魔女の抱擁とか字面だとデバフっぽいからそういう扱いか――あるいは常にバフを与え続けるタイプのスキルか」


 そしてしばらく残った2人は剣を交える。

 サナさんが加速度的に強くなっているのに合わせて、ハクさんも【限界突破】の重ねがけで応じていく。



 まさに目にも留まらぬ速さ。

 ステータスのゴリ押し同士がぶつかり合う。

 聖剣のきらびやかな光が、闇のような魔女の守りが剣を包んでいた。



 ――決着は一瞬だった。

 激痛の指数関数的蓄積に耐えかねたのか、脳がバグったようでハクさんの足がもつれた。


 強化されたステータスのサナさんがそれを見逃すはずもなく、



『〖エンチャントヒーロースレイヤー〗〖エンチャントヒューマンスレイヤー〗【チェイン】』



「決まったああああ!!!!」

「リン選手のバフが強力でしたね。最後の無詠唱からしてスキルの引き継ぎもあるようですし、これは王者にふさわしい戦いっぷりでした」



 ミースさんのバフ剥がしがスカされていなかったらまた結果は変わっていたかもしれないが、初見の読み合いは難しいし仕方ないだろう。




「ペア戦の優勝ペアは! “リンサ”!!」

「ひゅーひゅー」



 鳴らない口笛をしてからとりあえず盛り上げるため拍手しておく。配信ではちゃんと効果音が鳴ってることだろうしきっと大丈夫だろう。


 その後表彰とトロフィーが渡されるのを眺めながら、私は明日のソロ本戦に思いを馳せていた。

 あのレベルの戦いを乗り越えないといけないのだ。



 ――最高にワクワクするのは戦闘経験から来る自信か、あるいはいつの間にか戦闘狂にでもなってしまったからだろうか。


 嫌だ! まだ戦闘狂マツさんにはなりたくないでごさるぅ!




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