##70 ドキドキ! お料理チャレンジ!

 


「ミドリお姉ちゃんの手料理を食べてみたい!」

「手料理だ手料理だ!」

「ミカ、アル。お姉ちゃんに無理言ったらだめだよ……」



 地下のんびり生活4日目、クランのメンバーが各々カジノだったり歴史館だったりに遊びに行っている中、私は子どもたちと戯れていた。

 おままごとからご飯の話題になってお料理の話になったのである。


 仲良くなった子どもたちの中でも特筆して仲良しの三人組――ミカちゃん、アルくん、ラネルちゃんが私の手料理を食べてみたいと言いなさる。



「手料理ですか…………どうせならみんなで作りましょうか! お昼ご飯を作ってプリエットさんに披露するんです!」


「「お〜!」」

「お、おー……」




 かくして、私と元気な子供二人と内気な子供による長きに渡る戦いの火蓋が切って落とされたのであった。





 ――私も私で自分で調理したことなどほんの少ししかなかったので、ネットで拾ったレシピ通りのことを分担しながら手探りでやっていく。



「初心者でも簡単そう」かつ「ここにある食材」という条件のもと、今回のメニューはオムレツとたまねぎのスープに決定した。




「では、ミカちゃんとアルくんはこの鍋にお水を半分くらい入れてください」


「「は〜い!」」




「いい返事です。ラネルちゃんは卵を割ってボウルで混ぜてください。食材は私がパパっと切っちゃいますので」


「わ、分かりました!」



 刃物を扱わせるには幼い気がするので私が担当を務めることにした。

 これでも私は剣士だ。刃物とは長めの仲だし苦戦することはないだろ――



「あ、いてて」


 いきなり初手で指を軽く切ってしまった。

【神聖魔術】で回復すればいいから特段問題はないけど、痛いものは痛い。

 この調子なら何度も裂傷はつくはずだと思うし、血が入らないように止血だけしてさっさと切り終えてしまおう。



「あ、ミドリお姉ちゃん。切る時はネコのて、って言ってたよ?」


「猫? あー、確かに家庭科の教科書にそんなことが書いてあったような……」




 実技はしていないのでかなり薄い記憶だ。王国で料理はしたけど、あのときはフライパンに卵ぶちこんで混ぜて焼いただけだから、その辺の知識はすっぽ抜けているなー。

 一応正しいネコの手の図解を調べて真似て切ってみる。逆にヒヤヒヤするが、怪我は減らせそうだ。



 そのままスープに入れる食材や、オムレツのアクセントとなる具材を切っていく。


「水、汲んできたよ!」

「結構重かったよな」



「ありがとうごさいます。それじゃあコンロにセッティングして出汁をとりましょうか」


 定番と書いてある出汁のもととなるものが置いてなかったため、代わりにラネルちゃんから聞いた、プリエットさんが普段汁物に入れているらしい出汁っぽい粉末を入れておく。



 それから調べたレシピ通りの順に食材を投入、同時並行でラネルちゃんが用意してくれた卵をフライパンで加熱する。手の空いた三人にはスープの味見や沸騰でフタがすっ飛ばないかの監視をしてもらっている。



「今! そいそいそいそいそーい!」


 いい感じにオムレツっぽく焼けたタイミングで次々とお皿に移していく。居残り組の私と三人とプリエットさんの分で合計五つ作ったがなかなか大変だった。


 他の子どもたちがうちのクランのメンツを連れて遠足に行っていなかったら、もっと時間もかかったはずだ。



 出来上がったスープもお皿に移し、どうせならとみんなに盛りつけをやってもらい、経験者の少ない危険なお料理は無事完成にこぎ着けることができた。


 こうやって実際に本格的?にやってみて思うが、マンガやアニメでとんでもない料理を生み出すキャラはどうなっているのだろうか。苦手な食べ物とかいう次元を超えるのはある種才能とも言えるかもしれない。



「よし、ではプリエットさんを呼んできますから食卓について驚かす準備してくださいね!」



「「はーい!」」



「二人とも、先に手を洗わなきゃだよ」


「そうだったわ!」

「さっき洗っただろー、しわくちゃになっちゃうぜ」


「バイ菌がついちゃうからダメだよ……」

「アル! バイ菌食べると死んじゃうんだって!」

「マジかよ! 洗わないと!」




 仲がよろしいようで何より。

 子どもたちから目を離すのは怖いが、ラネルちゃんもいるしトラブルは起きないだろう。

 私はプリエットさんを呼びに彼女の研究室へ向かう。



 この数日間生活して分かったことだが、ここには逐一部屋の用途を一目瞭然とするためのプレートが設置されている。私たちの寝泊まりしている部屋も「客室1」とかだし、キッチンも「台所」ときちんと扉で仕切られているのだ。


 そして、私がここ数日で探索した結果、一部例外を除いて全ての部屋を確認し終えたのである。

 プリエットさんの研究室は少し入口や居間から遠く、呼びに行くには子どもたちの歩幅では時間がかかる。



「っ……」



 廊下をカツカツと歩いていると、とある部屋の扉が視界に入った。「危ない」とか「お化けが出る」とか子どもたちの間では囁かれている、立ち入り禁止の看板まで釘で打ち込まれている部屋である。


 私も冒険者の端くれとして、入ってみたい気持ちもあるが機械製の鍵で戸締りがしっかりされていて入れなかった。決してお化けが怖いから扉をチラッと見てすぐにビビって逃げたりはしていない。



「もしかしたらこの部屋に聖剣の設計図とかがあるかもだけど……」


「気になりますか?」




「ひいっ!??」


 意識をお化けが出る(らしい)部屋に向けていて気配に気付かずに驚いてしまった。

 お化けかと思ってへたりこんだ私に、プリエットさんは優しい笑みを浮かべながら手を差し伸べてくれる。



「ありがとうございます。あ、でもその部屋には別に入りたいとか――」



「構いませんよ。絶対に触らないという約束付きではございますが」




 好奇心が顔を出し、私はそれを受け入れた。

 プリエットさんは私の了承を確認した後、扉の鍵の数字をうち込む。

 部屋が開かれ、中に誘われる。


 少しくらい通路を懐中電灯片手に迷いなく進んでいくプリエットさんの背中に手を当てながら私は引けた腰を戻しつつ歩く。




「ここは……そうですね。危険物を置いておく部屋となっております」


「へぇ〜、このおっきいのはなんです?」



「それは技神様の日記をもとに制作しました、核爆弾なるものでございますね。国の指示で作ったものとなります」



「……!?」




 のんきに初手で指差した物がとんでもない物で、思わず薄暗い通路まですり足で後ずさりしてしまった。



「も、もう十分です。そ、そんなことより実は見せたいものがあるんですよー。あはは……」


「あら、そうでございますか。それは楽しみですね」



 この人、結構ヤバい人なのではないだろうか。

 ……いやいや、国の指示らしいし仕方なく作ったのだろう。あのいい子たちを育てている人がどうかしているなんてありえないよね。




 ◇ ◇ ◇ ◇



「まあ! これって?」



「みんなで!」

「作ったんだ!」

「ほとんどミドリお姉ちゃんがやってくれたけどね……」

「いえいえ、私一人でこんな美味しそうなものは作れませんよ。みんなで頑張ったんです!」




「ふふ、ミドリさん。ありがとうございますね。それとみんなもありがとう。ママ、とても嬉しいわ」


「やった!」

「はやく食べようぜ!」

「えへへ……」





 そうだ。

 ここではプリエットさんは全員の母親。

 きっとママ味を装備した人が悪人なわけがないのだ。




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