##71 ラネルちゃんの夢、私の未来
地下というか地底の生活圏に来てから数日経過した。こないだの料理制作をはじめに、子どもたちと
お昼寝の時間になり、年少の子どもたちが夢の世界へ入っていったのを見届けた私は、気を遣ってくれたコガネさんと交代して外の空気を吸いに外に出た。
「ふふっ……」
「おや、ラネルちゃん。お花見てるんですか?」
外に出ると、植木鉢に植わった一輪の花を眺めているラネルちゃんが居た。
「あ、ミドリお姉ちゃん。うん。お花って綺麗でかわいいから」
「そうですよねー。この辺りでは滅多に見かけませんし」
「この子も防衛隊の人から外周区画で見つけたものをもらったの。10年くらい咲いてるお花みたい」
「強いお花ですねー」
ラネルちゃんは内気で大人しい子で、あまり笑顔を見せない印象があったが、お花のことは大好きなようで、年相応の可憐な笑みがこぼれている。
「将来はお花屋さんとかですかね?」
「将来?」
「将来の夢ですよ。大人になったら何をしたいか――」
「何をしたいか……?」
今のは失言か。
この国の在り方的に考えて非生産的な花屋なんて許されるはずがない。
所詮私は数日滞在するだけの旅人だ。
無責任なことは言わないように気を付けないと。
「大人になったら……いつも頑張ってる防衛隊のお兄さんたちと、いつも頑張ってる機械の人たちに綺麗なお花を渡すの。それで、いつもありがとうって言う。あ、もちろんミドリお姉ちゃんにもあげるからね」
「……素敵なお花、期待していますね」
そうか。仕事とかは関係なしに、やりたいことは勝手にやればいいのだ。それこそが本当の意味での人としての営みなんだ。
色々と落ち着いたらまたここに来よう。
そして、外周区画とやらに彼女と一緒にお花を探しに行くんだ。この純粋な彼女のまま、大人になって欲しいものである。
「ミドリお姉ちゃんは?」
「はい?」
「大人になったら何をしたいの?」
「私……ですか。えっと――」
私は将来のことなんてあまり考えていなかった。
夢なんて大層なものも抱えていないし、やりたいと思えるほどのめり込めるものも無かった。
当面の目標としては下半身の機能を回復させること。前回の検診でも順調に感覚機能の回復の兆しが見られると言われたし、このままこの世界で過ごす時間が変わらなければそのうち希望は掴めるだろう。
そもそも回復するやろの精神で義足にしたりもしていないのだし、逆に回復してもらわないと困る。
だが――治った後か。
自分の足で歩けるようになったとして、私は何を成すのだろう?
心配性なお母さんが安心して好きにヨガとかに行ったりするだけで、私は相も変わらずゲーム三昧の毎日をダラダラとして過ごすのではないだろうか。
「ミドリお姉ちゃん?」
改めて未来のことを考えて、遠くを見据えていた私を不思議に思ったのかジッと見られていた。
「あんまり確かな答えはありませんが、幸せな日々が続く未来であれば、私はそれで十分なのかもしれません」
「ふふっ、素敵♪」
「えー、そうですか? 何だか照れくさいんですけど……」
「素敵だよ? 私もそれ追加しちゃうもん。やりたいことはいっぱいあっていいよね?」
「追加! ずるい! 私もなんかいっぱいやりますよ!」
子どもたちに囲まれた生活を送っているせいか、私の精神年齢がやや低下している気が自分でもしたがきっと気の所為だろう。
「いっぱいいっぱいお花を渡して、いっぱいいっぱいみんな幸せになるの。素敵でしょう?」
「めちゃくちゃ素敵です。ラネルちゃんならきっとみんなを幸せにできますよ」
「そう。3日後に私ここを出てお母さんのところに帰るんだよ。だから最初にこのお花をあげるんだ」
「ここを出るんですか?」
「そうなの。3日後は“こんわたし”の日だから13才のミカとアルと私はここから出ていくんだよ」
「そんな制度があったんですか。まあ大人に一歩近づくということですね。いいことです」
おそらく正しくは子渡しの日なのだろう。
ここの子たちはもともと親がやらかして捕まっている間の保育所的な場所、年齢という期限まで育ててから帰すという決まりなのかもしれない。
「おとな〜♪」
「大人はすごいですらんらんらーん♪」
消極的な少女の夢に触れ、私は心がフワフワしたまま一日を過ごしていった。
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