##69 ロボ

 

「ここや」


 目の前には大きめのメンテナンス工場、そして侵入者を拒む塀と、ここからでも察知できるほど多い罠の数々。明らかに不法侵入したらマズイ場所だ。



「もしかして中に入ったんですか?」


「遠目でおもろそうなのが見えただけさかい、どうするん?」



 どうすると言われても、私は罠をくぐり抜けるスキルなんて持ってないし、ここだと飛べないみたいだしできそうなのはコガネさんくらいなのだが。




「コガネさんなら潜入できたりします?」

「みんなを隠しつつ罠にもかからないようになぁ……余裕やね。【幻影・貼付】、よし行くで〜」



 そう言ってコガネさんは先導するように塀をよじ登って侵入した。罠や警報の類は沈黙を貫いている。


「でかした参謀! 最強防衛部隊、出動なのだ!」

「一体何をどうしたんですか……」




 続いて私とウイスタリアさんも跳躍で侵入した。

 呆れ気味な疑問を投げかけると、ドヤ顔の狐娘はつらつらと説明しだした。



「幻影のスキルで今はうちら以外にはうちらのことがは何の変哲もない空気に感じられるように上書きしてん。機械の判別ごとき、うちにかかればこんなもんや」


「ほぇー、すごいですねー」


「絶対思うてへんやろ」




 やっぱりチートみたいな実用性だ。

 下手に褒めたら調子に乗って余計なことまでしそうな気がしたから、適当にはぐらかしておく。



「なんかでっかいのがあるぞ! 集合だ!」



 急いでかわいらしい隊長のもとへ駆け寄る。

 みんなでひびの入った壁の隙間から中を覗く。


 中にあったのは巨大な鉄塊。それは純白の塗装がなされており、パーツとして美しい機械の翼も置いてあった。

 そして、腕と思われるパーツに金色の塗装でサインが刻まれていた。

 “いれも”と平仮名で乱雑に。


 ……研究者のセンスはよく分からないや。




「なんかデザイン天使みたいやな」

「かっけーのだ」

「とりあえずパナセアさんには報告しましょうか」



 一目見るだけ見て満足した私たちは不法侵入したメンテナンス工場から立ち去る。目を離す寸前、動かない機械から青い光が放たれたような気がして二度見したが、私の見間違えだったようだ。



 そうそう見られないものも見れたし、聖剣の使い心地についてもおおよそ分かった。配信枠を閉じつつ帰るとしよう。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 機械の小さな作動音や金属の擦れる音。

 その中に異質な、カンカンと鳴り響く音が混ざっていた。



「何かあったんですか!」



 音の発生源が我々の憩いの地からしたため、飛び込むようにドアを蹴破る勢いで入る。

 私の心配とは裏腹に、室内はごくごく平和そのものであった。


 大きめの作業台の上にペネノさんが乗せたれており、パナセアさんが工具でいじっていた。

 それを遠巻きに眺める子どもたち。



「おや、おかえり」


「調査に行ったのではなかったんですか?」



「途中でペネノが強制シャットダウンしたんだ。原因を探るためにも一度分解しているわけだ」



「強制シャットダウンって……大丈夫なんですか?」



 だいたいそういうのってマズイことが起きた証みたいなものだと思うし何かあったと見て帰還するのは正解なのだろう。

 しかし、今までこんなことはなかったから少し心配だ。データが全部トんだりしなければいいが。




「正直私にもどうなるか分からない。ペネノのソフトウェアはだからね」


「えっ? パナセアさんが制作したものかと思ってましたが――」

「どないしたん?」



 意外な事実に驚いていると、遅れて帰ったコガネさんが不思議そうに覗き込んできた。

 置いてきた片割れであるウイスタリアさんの方はというと、はしゃぎ疲れたのか欠伸をしながら部屋に向かっている様子。



「ペネノさんの話を少し」

「あらら、ペネノはん壊れてもうたん?」


「強制シャットダウンですって」

「ひぃ……おっかないわぁ」



 ほな気張ってな、と大変そうなのを察知したのかそそくさと立ち去っていった。

 私も私でこの後は私用があるのでこの辺にしておこう。



「私は一旦抜けますが、子どもたちもいい子に眺めてると思いますし、あまり無理しないでくださいねー」



「ああ、そのうち見ているのも飽きるとは思うが、教育上徹夜はしないでおくよ」



 本当に徹夜しないのかは疑う余地が残る。

 まあ、でもペネノさんはパナセアさんにとって私たちよりも長い間柄だ。少し焦り気味なのは当然だろう。


 ファイトの念を送って、子どもたちとタッチを交わしながら与えられた自室へ戻る。


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