##68 【AWO】自警団見習い、制服貸与聖剣貸与時給ゼロ【ミドコガウイ】

 

 地下生活3日目。

 イツメンと子どもたちと管理人のプリエットさん、そしたプリエットさんの研究中に子どもたちの面倒を見る修道士のメルイさんで朝食をとった。


 そして子どもたちが洗濯や掃除のお手伝いに行ったのを見計らって、パナセアさんは暇な人を集めて頼み事をした。




「聖剣の使い心地の確認、郊外の魔物メカ悪魔の近況を調べてきて欲しい。既に防衛部隊への体験参加として話は通してある」


「おもろそうやしええよ」

「我も良いぞ! 聖剣、一度は振るってみたかたしな!」

「私も別にいいですけど使い心地というのはどういう?」




 暇人三人衆こと、私とコガネさん、ウイスタリアさんはそれぞれのモチベでやる気が湧いている。

 パナセアさんも焚きつけるには丁度いいメンツだっただろう。



「聖剣は謎が多い。探りたい気持ちもあるが、この国のことだし私的には何か代償のようなものがあるのではないかと踏んでいるんだ」


「聖剣を使うことによるデメリットの確認という訳ですね」



 言わんとすることはわからんでもない。

 聖剣なんて大それたものがそう簡単に量産されてたまるかって気持ちと、完全自動管理化したのにもかかわらず人の手で作る聖剣を必要としているなんて不思議だという点。


 そもそも聖剣を自力で生み出したのはプリエットさんだ。彼女が作るまでは一体どうやってメカ悪魔に対抗していたのか。

 ……そこは今回の防衛部隊への出向で聞いて回ればいいだろう。



「私はサイレンくんとちょっとした調査に行くよ。父に関するものが遺っているかもしれないからね」


「了解です」

「気をつけるんだぞー」

「思ったんやけどさ、パナセアはんは父親と仲悪いん?」



「ん? あー、直接聞かないのかということか。あの人とはもうかれこれ十数年は顔を合わせていないが……昔から直接的な回答はしてくれない主義でね。まあそういうところも含めて私は尊敬しているが」


「ほーん、そういうもんなんか」

「変な親なんだな!」

「つまりファザコン、っと」



 パナセアさんがファザコンなのは薄々察していたが、今改めて彼女の起源らしきものが垣間見えた気がした。


 ちなみにストラスさんとペット組は周辺の生態調査と緊急時の地上までの避難経路を探しに行った。これもパナセアさんの提案である。

 割り振りの考えについてはよく分からない。



「コホンッ! 父の話なんて今は関係ない。とりあえず君らはこのメモに記した場所まで行ってくれ」


「うわ」

「なんて書いてあるのだ?」

「雑やなぁ……」



 渡されたメモには簡単な地図と施設の特徴が走り書きで記されていた。まるで医者のカルテである。



「読めはするのだからいいじゃないか! ほら、行った行った」




 文句を垂れる私たちを半ば追い出すように催促している。これが大人のレディのあるべき姿なのだろうか。甚だ疑問である。




「聖剣聖剣! 勇者ウイスタリアの参上なのだ〜♪」


 この竜娘、実年齢の割に可愛すぎやしないか?

 こんな娘が欲しいものだ。



「そういえば聖剣って、よくある物語ですと勇者が抜いてどうこう、とかあるじゃないですか」

「あるなぁ」



「今回の場合ってどうなるんですかね? 聖剣を使ってるから勇者みたいな判定なのか、ただ勝手に聖剣を騙ってるだけなのか」


「昨日ミドリはんが子どもたちと遊びに行ったあと、プリエットはんが見せてくれたんやけど……パナセアはんいわく“質的には神器に近い、どうやって作ったのかは分からないが性能面では本物と遜色ないだろう”やってさ」



 顔マネ声マネまでして再現してくれた。


「結構似てますね」

「せやろ〜」


 しかし、性能面では本物の聖剣と同格ってことは本来選ばれし者しか使えないそれをホイホイと作り出せるプリエットさんは既に神レベルの研究者なのでは……?



「ま、どうせうちらには分からへんことや。そこら辺は専門家パナセアはんに任せとこ」


「そうですね。それが一番頼もしく、正確な答えが出るでしょう」




 私たちがいくら知恵を絞り出しあって考えても、所詮憶測の域を出ない。彼女も何か技神の残したものにヒントがあるのではないかと探るつもりなのだろう。パナセアさんは研究者にしては珍しく仲間と自分を比較した時に仲間を優先するような人間性の持ち主だ。何かあったら相談してくれるはず。



「たぶんここだな!」

「です、かね?」

「倉庫やないか」


 メモに従って目的地にたどり着くと、そこには倉庫があった。一瞬ダジャレだと気づいたがあまりにも面白くなかったので胸の内に秘めておく。



「お、来たな。防衛部隊の説明と体験をさせてくれってやつら――ってこないだの不審者じゃねぇか」


「おや、偶然ですね。体験入隊に来ました、副隊長のミドリと」

「隊長のウイスタリアと!」

「参謀のコガネや。三人あわせて――」



「「「最強防衛部隊マークスリー!!」」やで〜」



 ここに来る途中で決めた口上を披露して見せたが、あまりウケが良くないのか数秒沈黙が流れた。やはり特に意味もなく付けたマークスリーが良くなかったのだろうか。



「とりあえずこれが支給の隊服と聖剣だ」


「おー、これが聖剣ですか……」

「かっけーのだ……」

「服はサイズが人によって自動で調節されるん?」



「そうだ。見ての通りこのままでは手のひらほどの大きさだが、首元の半球を一度捻って自由に大きさが変わり、着終わったら元の方向へ捻るだけで着替えが完了する」



 しっかり慣れない服の着方について説明してくれた。その後聖剣の扱い方や私たちが担当する防衛区画の説明を受け、自動運転の車に乗せられた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 私たちが担当することになったのは、機械類のメンテナンス工場が集合した区画、“AL-RE7”と呼ばれるメンテナンス関係の機械しか存在しない区画である。

 どうやら機械のメンテナンスすらも機械で行っているらしく、人間が不要な社会の一例でもあるのだ。ではどうして防衛部隊は人を起用しているのか。それは私も気になって聞いて見たのだが、機械では聖剣が使いないとのこと。

 聖剣が作り出される前は特殊な素材でできた機械が防衛を担っていたそうだが、原因不明のエラーで動作不能になったらしく、それが聖剣が生み出されるキッカケになったようだ。




「それにしても出ませんねー」

「つまらないぞ!」

「先輩はんも周辺に現れるのは滅多に無いって言っとったやんか。そない戦いたいなら奥の方行ってきてええよ。うちここで待っとるさかい」



 ずっと見張りをしていたが、単純に飽きて私とウイスタリアさんで外側まで狩りに行くことにした。ついでに配信もつけてみる。




「配信開始しましたよー、どうもミドリで〜す」

「よ、隊長のウイスタリアだぞー」


「今日は聖剣を振り回して遊びます。待ってなさい魔王さん!」



[枝豆::どういう状況?]

[あ::聖剣はおもちゃじゃないんやで]

[ヲタクの友::魔王に何の恨みが…]

[てんてこ舞::聖剣ってそんなにいっぱいあるもんなの?]




「魔王、ヤるのだ?」

「流石にヤりませんよ。そもそも私たち魔王さんとお友達じゃないですか」


「それもそうか」

「っと、来ますよ!」




 事情を説明する間もなく、複数のメカ悪魔を見つけた。縄張りの外側なのかまだ十体弱しか見えない。



「「『聖剣解放』!」」



 瞬間、羽のように軽かった剣に光が宿りずっしりとその重さを感じた。

 これは責任や運命の重みといったところだろうか。重いといっても普通の両手剣と同じ重さなので、ステータスが鍛えられている私やウィスタリアさんにとっては正直楽々振り回せられる。



「行きますよ!」

「戦いだー!!」



 二人で駆け出し、バッタバッタと斬り払っていく。連携なんてする必要もなく、各々が好きなように戦うだけで余裕で倒せてしまう。




「いらっしゃぁせー、おかわり入りぁーす」


「いくらでも来るのだ!」




 ふざけながら、私は私でウイスタリアさんに満足してもらえるように、倒すペースを調節してたくさん相手してもらう。


 おかわりが来なくなった頃、コガネさんがひょこっと顔を出した。



「お疲れ〜、さっき面白いもん見つけたんやけどどや?」


「ほう、それは気になりますね」

「我もまだ元気だし見に行くぞー! 隊長命令なのだ!」



「「おー!」」



 向かう途中で視聴者さん方には説明を済ませておこっと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る