##67 地下天国
「いただきまーす」
「召し上がれ、いただきます」
初の労働を終えた翌日。
現実世界で、私はいつも通り母と朝食を食べていた。
「ママーン!」
「どうしたの? ムスーメ」
真面目な顔でふざけながら話を切り出すと、同じように返してくれた。
「これを見ていただきたい」
そう言ってスマホの画面を見せる。
「どれどれ……てすとぷれいやーのご案内?」
そう、こないだのイベントの後に運営からメールが来ていたのである。普段メールアプリなんて開かないので気づかなったが、昨日ゲーム内のメッセージで運営から「メール送ったから確認してくださいな」みたいなのが来ていて知った。
自覚は無いのだけど、どうやら私はフルダイブVRの適性が高いらしく、ゲーム内で安定して超人じみた動きができてそれなりに頭も回るため、テストプレイヤーのアルバイトとしての勧誘を受けたという話である。
今の所ソフトはAWOだけしか販売されていないが、今後色んなジャンルのゲームが制作されていくからそれのテストプレイをして人間がクリアできるものか、適性の高い人の抜け道が無いかを探ったりするのが業務内容だ。
「やりたいならいいけど……」
「足のことなら大丈夫です。向こうにも確認してますし、設備的にもバリアフリーは充実しているみたいでしたよ」
「そっかぁ……感慨深いわ、あんなに普段から“働きたくないでござるー”って言ってた
「人をニートみたいに言わないでくださいよ。こちとら学生ぞ?」
実の娘だというのに辛辣だ。誰に似たのやr――私の方がお母さんに似たのか。
見覚えがあるわけだ。
「せっかくの機会なんだし、楽しむのよ」
「それはもちろんですよ」
いつからなのか、どこまで行くのかを報告しながら、いつも通りの朝は過ぎていく。
◇ ◇ ◇ ◇
「お前ら、引き取り手が来たぞ」
「やっとか」
「吾輩たちを待たせるとはいい度胸ではないか!」
「うぅ、まだ超薄味スープが食べきれてないんですけど…………残していいですかね?」
ゲーム内。
昼少し前になって、未だ私が朝食の無味無臭食欲のわかない謎スープと格闘しているとついに呼び出しがかかった。
「スープなんてどうでもいい。早く出るんだ」
「ほいほーい」
残すなと釘を刺されていたため、無理やり口につっこまれるのも覚悟していたが存外優しいらしい。
ある種の拷問から抜け出せた私は、ウキウキしながら牢屋の外に出た。
途中で別棟の面々とも合流し、全員で引き取るという人が待つ面会用3号室に足を踏み入れる。
「皆様はじめまして。この度事情を汲みまして、皆様の滞在における補助、案内を務めますプリエットと申します」
中に入ってすぐに、優しげな修道女が挨拶をしてくれた。話を聞くと、どうやら彼女が管理する孤児院で滞在して観光して欲しいとのこと。
なぜ完全管理社会にそんな場所があるかというと、親の
要するに何らかの反逆の意思を見せ、投獄された人の子どもの行く場所ということだろう。
完璧に見える社会の大きな闇である。
「こちらとしても、孤児の発生なんてあってほしくないのですが……」
「いつの時代もどんな社会でも一枚岩ではいかないでしょうからね」
それからしばらく歓談した後、私たちはプリエットさんの案内でのんびり街並みを眺めながら彼女の管理する教会へとやって来た。
道中聞いたところによると、形式的にではあるが創造主である技神を信奉している場所らしい。
修道服を着ているプリエットさんからも彼のことはその技術力を尊敬しているだけで、特段信仰に近いものは感じなかった。
「ここが教会、ですか……?」
「ええ。想像していた姿とは違いましたでしょうか?」
「まあ、なんというか……私のイメージとはだいぶ違いますかね」
教会というのは大きな屋根があったりする洋風建築のものだと思うのだが、私たちの目の前にあるそれは教会と言うよりもむしろ――――
「完全に
「らぼ……あ、研究施設のことですよね。技神様の手記にそのようなことが書いてあった覚えがございます」
パナセアさんの指摘に、思い出したとテンションが上がる様子のプリエットさん。
「皆様のお考えになっておられる研究施設がどのようなものかは存じ上げませんが、研究もしておりますのであながち間違いではございませんね」
「ほう、一体どんな研究を?」
途中で飽きてそそくさと教会という名のラボに入っていった、ウイスタリアさんとストラスさんとどらごん、保護者代わりのサイレンさんをよそに、パナセアさんと私、コガネさんは説明を聞き続ける。
「進行中の研究については部外秘ですのでお話できません。申し訳ございません」
「おー、部外秘! それっぽいです!」
「秘密の研究や!」
「分かるよ。完成するまでは誰にも見せたくない気持ち、分かる」
「……ですが、こちらで生産を頼まれているものについてはさわり程度でしたら問題ありませんのでお話しましょうか」
「是非とも頼むよ」
シスターであるのと同時に研究者でもあるようで、近い立場のパナセアさんと意気投合している。
その道に大して詳しくない私とコガネさんは、無知なりに字面だけで想像を膨らませて楽しむつもりであった。
「まず大きな研究成果としては聖剣でしょうか。定期的に生産、国に融通させているものはあれだけですので」
「聖剣だって? ……まさか量産できるほどのやり方も見つけているのか?」
「ええ。機械では不可能な工程ですからすべて手作業にはなりますが」
「ちなみに作り方とかは……」
「そこまでは流石にお伝えできかねます」
「そうだよなぁ」
どうやら聖剣を作れるようだ。
しかも量産できる……じゃあここに来てすぐ遭遇した聖剣三人衆は至って普通の防衛部隊で、別にエリートとかではなかったのか。
もしかしたら、この国の防衛部隊は全員を使うのかもしれない。メカ悪魔は神器しか効かないと考えていたが、聖剣なら武器の格か高く、やつらを倒せるのも頷ける。
「こんにちは!」
プリエットさんの話を聞いていると、子どもが寄ってきて私の横腹あたりをつつきながら元気な挨拶をしてくれた。
「こんにちは、これから数日ここにいさせてもらいますね! ミドリお姉ちゃんです。よろしく〜」
「ミドリお姉ちゃんかわいい!」
「おめめきらきらだ!」
「お姉ちゃん遊ぼ! みんなでぼーえーたいさんごっこするんだよ!」
ヒャッハー!
ここが真の天国か! 天界よりずっと幸せ空間だ。もう一生ここにすみついやろうか。……いや、それはダメだ。マナさん救出の目標がある。
救出してから一緒に来よう。そうしよう。
テンションがぶち上がり、口元ゆるゆるになっていくのを感じながらも、この劣情を押しとどめるのに意識を集中させる。
もちろん子どもたちと遊びながら。
途中で子どもたちに
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