##66 【AWO】地下で強制労働させられます【オデッセイ】

 

「看守さーん、もっと食べたいんですけどーカロリーが足りないんですけどー」


「看守、爪のやすりを持ってないか?」


「看守くん、押収していったオリハルコンを1kg程返してくれないかな?」




 夕刻。

 早めの食事を済ませ、各々の不満を看守さんにぶちまけていた。




「お前ら! もう少し囚人らしく大人しくしてろよ!」



「あんなダイエット食でここまで来たカロリーを取り戻せるわけないじゃないですか!」

「爪の調子は弓使いにとっては死活問題なんだぞ!」

「オリハルコンがダメならミスリルでもいい!」




「こいつら……」



 そこで、私たちのダル絡みを止めるかのようにベルの音が鳴り響いた。労働のお時間がやってきたらしい。


 看守さんに促されてストラスさんとパナセアさんは渋々手枷をつけられたまま牢屋から出ていく。



「――ミドリ、スパイダー形態! ……じゃなかった。あー! 壁の蜘蛛の糸が両手両足に絡みついて動けませーん」



「ふざけるのも大概に――」



 壁にしがみつき、看守さんの引っ張りに抗う。

 高レベルかつやる気MAXの今の私を動かしたければ力自慢の神でも連れてくるんだね!



「その手を! 離せー!!」


「いーやーでーすー!!」



 無駄なことを。

 ここの私の筋力をなめてもらったら困る。このまま明日の朝までしがみついてやることだって可能なのだ。

 多少二の腕を掴まれたところで――

 つかま――


 ――



「ぴゃあああ!! 変態! スケベ! 痴漢! JKに欲情するロリコン!」



「がふん!?」



 つい反射で、掴んできていた手の手首をとって石の壁にぶん投げてしまった。

 壁に激突した看守さんは完全にのびている。息はしているから死んではいない、はず。




「あー、今のうちに脱獄でもします?」


「いや、結構騒いでいたからすぐに増援が来ると思うよ。それにあっちのメンツは疲労困憊の割合が多いから下手に動かすのも、ね」



「ですよねー」




「吾輩は愛の逃避行ならどこまでも――」

「じゃあ先にあの世に送ってやりましょうか? 私が行くまで待っててくださいね」


「すみません……」




 そうこうしているうちに増援が来て労働場所へとドナられた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「……かくかくしかじかまるまるさんかくチョメチョメコメコメって感じで今に至ります」



[天気予報牛::????]

[唐揚げ::それで伝わるのはマンガの世界だけなんだよ]

[あ::伝える気無いでしょ]

[カレン::一度は発してみたい日本語選手権?]

[エアコンの中の誇り::最新版かくかくしかじかですか…]



 私は待合室のソファーに腰をかけ、更衣室のカーテンのような長さのタオルを身体に巻いて配信を始めていた。

 折角ならお披露目って感じでこの衣装を見せるべきだと、うちなる演出家が助言をくれたのだ。


 もちろん中に着ているのは囚人服ではない。



「さあ、刮目して見なさい! バニーミドリです!」



 バニーガールの服だ。

 カーテンを取っ払ってすぐに後ろ手に隠していたうさ耳も付けてあげる。これぞ正しきファンサービスというものである。


 コメント欄の阿鼻叫喚、拍手喝采、意気軒昂、旭日昇天、震天動地の様子を確認してから、追撃とばかりに他の皆も呼ぶ。



 ストラスさんは執事服、そしてなぜかパナセアさんも執事服、着替え中に足から出てきた寝起きのンボ子は執事服っぽいシルクハットと玩具の杖を持っている。

 別牢屋の面々からは、コガネさんがなかなか際どいバニーガール姿、ショタみを感じさせる執事服のウイスタリアさん、どこに需要があるのか分からないバニー姿のどらごんと、続々と登場した。



 遅れて照れ顔の美少女……ゲフンゲフン、女装男子が入ってきた。

 サイレンさんはバニー姿だ。現実のバニースーツの構造は知らないが、ここのはそれなりのバストを想定しているため、彼はペラッといかないように胸の部分を押さえていた。

 絵面的には逆にいかがわしいが、面白いので何も言わないでおこう。



「しっかし、めちゃくちゃ似合ってますね」

「あっかん、こんなん新しい扉が開いてまう……」

「可憐さと妖艶さの両立とは……流石サイレンくんだね」

「本当に男なのか? すごく似合っているが」

「かわいいな!」

 〈どらごん!〉

 〈わん……〉




「誰か笑ってよ! いっそ笑ってくれた方が気が楽なんだよ!!」



 素直に感嘆している様子が彼の色々なプライドを壊したのか、半泣きになりながら喚いている。

 自分を笑えと喚くバニーボーイなんて早々見られないしと、こっそりスクショをとっておく。

 落ち着いた頃に撮ったことを報告して盗撮にならないようにはするけど、これは永久保存版サイレンさんの弱み・揺すり材料フォルダに入れよっと。




「お前ら! 遊んでないで働けよ! 仕事内容は分かってるな?」


「分かってますよ。カジノの案内、ディーラーでしょう? この私を誰だと思ってるんですか」



[トンビ::カジノなんてあるんだ]

[芋けんぴ::カジノ!?]

[あ::そもそもなんでカジノで働くことになってるんだ? ……まいっか眼福だし]

[階段::ディーラーの達人とか?]




「いや知らん」


「そう! 世界一のスーパーギャンブラーの父の豪運を受け継いだ幸運の女神こと、無課金ガチャ完凸勢とは私のことです!」



「しょぼいように見せかけて化け物みたいな豪運やないか」



 羞恥心で壊れたサイレンさんの代わりにコガネさんがツッコミを入れてくれた。ネタっぽく言ったから拾ってくれて嬉しい。

 事実でもあるけど。



「……あくまでもディーラーなんだから我々は賭け事に参加できないのでは?」

「…………確かに」

「あかん、うちも勢いで流されてもうたけどせやわ」




 パナセアさんの更なる指摘により、私のやる気はポッキリ折れてしまった。他人の賭け事を眺めるだけなんて生殺し、これが囚人の辛さか!


「いいからさっさと表出て働け!」



 現場の人に無理やりホールに出されてしまった私たちであった。




 しばらく他者の賭けを眺めたり、こっそり助言したり、こちらも参加する形式のものでこってり絞り取ってやったりして労働の苦痛を和らげていると、不意に声をかけられた。

 いかにも地位の高そうな初老の紳士である。



「申し訳ございませんが私は個人的なサービスとかやってないんですよねー。そういうのが目的でしたらあちらの子にお願いします」



 しれっとサイレンさんをオススメしておく。



「そういうの、というのは分からんが少し話があるだけだよ」




 バニースーツは用意するのに意味が分からないなんて、とぼけているようにも見えないしこの国の情操教育歪んでいるのでは?

 まあそんなことはどうでもいいや。



「お話とはなんです? そもそも貴方は一体どこのどなたで?」


「これは失礼。私はこの、名も無き地底の国の第1637代管理長官、トチムだ。このような形で申し訳ない。外の者よ」



 肩書き的にこの国のトップのような人なのだろう。

 地上のことを知っているということは、情報規制等がかかっている可能性が高い。聖剣使い三人衆も知らなかったし、最高権力者くらいしか知らないのかもしれない。



「私はミドリです。どこまで知ってるんですか?」


「君達がこの国の天蓋の上から来た存在ということくらいだ」



 天蓋、確かにここから見たら地上の地面は空を覆う蓋になるのだろう。




「なるほどなるほどー。……それで、私たちを捕らえてどうしたいんですか?」


「そう警戒しないで欲しい。こちらは創造主の指令で自由に観光させるように言われているんだ。一度捕らえたのは事情を知らない防衛部隊の者に向けて整合性を持たせるためなんだ」




「天蓋の上のことを秘密にしているのも、その創造主の言いつけなんですか?」


「そうだな……外の者になら説明してもいいだろう。ここは創造主、技神イレモ様が造りたもうた箱庭実験場。すべての物事が創造主の生み出した機械が調整している」



 またあの人か。

 それにしても、ゲーム内という箱庭の中に自身の箱庭を作るなんて何を考えているのやら。



「具体的に調整って何してるんです?」


「人口の調整、各区画の管理、食糧の自動確保、他にもまだまだあるが大きな部分で言えばこんな所だろう。人力でやっているのは私のような形式的なまとめ役と防衛部隊、異質な者を取り除き矯正させる牢獄の者くらいだ」




 聞いただけでも息が詰まるような場所だ。

 それ以外の人は何をして生きているのか。



「人力での労働力以外の人達は何をしているんですか?」


「機械の生活的補助を受けて好きに遊んで暮らしているさ」




「へー、意外と楽しそうですね。そうなると娯楽とか相当多いんでしょうね」


「新たに娯楽が生まれることは無い。それによってが崩れる可能性があるからだよ。せいぜいここのカジノで遊ぶか、既存の本を読むかといったところだ」





 …………何となくイレモさんがやろうとしていたことが分かってきた。


 おそらくここで一種の社会実験を行っていたのだろう。それこそ現実では倫理的にも不可能に近いえっぐいのを。

 彼は完全なる自動管理社会による経過と結果を観察しているのだ。本当に最低限の遊び場だけを残して、ただ存続するだけの社会のもとを作って、今は運営として眺めている、と。


 地上の者が干渉できる時点でガバ――いや、違うか。私たちのようなイレギュラーへの対応も観察しているということになるのかな。



「……はあ、もう何となくここのことは分かりました。それで、私たちにどうしろと?」



「いや、普通に観光を楽しんでくれて構わない。あまり長い滞在は計算の狂いが大きくなるから避けては頂きたいがね」




 娯楽がカジノと読書くらいしかない場所での観光なんてあまり期待は持てないが、珍しく機械の文化のある場所だしパナセアさんにとって何かインスピレーションをもたらすこともあるかもだし少しの滞在はしよう。



「ではお望み通り軽く観光したらすぐに帰りますよ」


「助かるよ」



 正義感の強い人間であれば、自由を求めて立ち上がれーとか改革のためにやる気を出していただろう。しかし、私は普通の人間で、更によそ者なのだ。


 よそにはよそのやり方があり、無関係な第三者が無責任な口出しをするべきではないというのが私の考えであった。


 誰かに頼まれて第三者でなくなるまでは、傍観者でいるのが私という人間である。






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