##65 地底の世界

 

 地下に落とされた私たちは、素材の山で窒息しかけていた。



「――うぼっぅ、コホッ! はぁはぁ、死ぬかと、思い、ましたよ」



 早々に危機を脱した私は、ステータス画面を開いて落下ダメージ自体は大したことがないことを確認してから皆を探し始めた。

 不幸中の幸いと言うべきか、落下ダメージは革系の素材で緩和されたのだろう。

 不幸中の不幸として量が量なため筋力が無いと抜け出すのが難しいのがあるが。



「どこですかー!」



 素材の山をかき分けながら仲間の体が見えてこないか注視しながら進む。




「――ふんっ!」


「わっ、ウイスタリアさん。良かった、無事だったんですね」



 金属類を吹き飛ばして可愛らしい竜の幼女が顔を出した。続けて体を出し、更に何かを引っこ抜いた。


 ストラスさんである。



「まったく、エルフはひ弱なのだ」


「生きてはいますね。救助までありがとうございます」



 気絶しているだけなのを確認して他のメンバーも探していく。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 何とか全員を見つけ出し、今は素材の山を座布団に緊急会議を行っていた。



「海神の派生で水は操れるけど、三途の川は操れそうになかったよ。あははは……」


「サイレンはん壊れてもうてるやないか。まあうちも当分は金は見たくあらへんな。口が金塊で埋まるなんてなぁ……」



 普通に窒息しかけたサイレンさんと、金のインゴットが口に入ったせいで顎を外すはめになったコガネさんのダメージは大きかった。

 特に後者の絵面は流石の私もビビった。脳筋のウイスタリアさんがいなかったら今頃コガネさんは金を口にしたままお陀仏だっただろう。


 しばらくそっとしておいた方がいい。


 ストラスさんも気絶したままだし、ンボ子も落下中にビビって私の足に入ったきり出てこないし、残ったメンツは気が滅入っているか脳筋かだから、頼れるのはパナセアさんしかいない。



「どうですか? 何か分かりました?」


「……ああ、どうやらここは地底の世界。人も暮らしているらしい」



 ロマン溢れる地底世界、どうせならもっと真っ当に入場したかった。

 何れにせよ現状の把握はできたし、当初の予定通りストラスさんの服とペネノさんの修復素材の回収も済んだ。

 人が住んでるのなら食事にもありつけるはずだから結果的には問題は無い。




「とりあえず人がいるなら行ってみましょうか」


「確かに休めるところまでは行きたいね」



 私がコガネさん、パナセアさんがサイレンさんを背負い、ウイスタリアさんはストラスさんを引きずって、どらごんはその上に乗って移動を開始する。

 あまりにも道が整備されていないため、歩きでしか移動はできないだろうからね。




「なんか変な音したぞ?」




 ウイスタリアさんが反応を見せた直後、赤い線が走った。

 私は咄嗟に腰に差した{吸魔剣3号}を抜いて敵の突撃を受け流す。



「悪魔、いや……メカ悪魔!?」



 姿が露わになり、悪魔みたいな見た目をしたメカニックなボディが映った。つい反射で反撃の一太刀を入れたが、傷一つついていない。



「戦いますよ!」

「そのようだね」

「やってやるぞ!」

 〈どらごん〉



「うちはちょいと休ませてや……」

「ぼくも横になりたい」

「――」



 戦意のあるメンツで迎撃に出た。

 ンボ子は急な落下で疲れたのか足で眠っているのを感じる。



 とはいえこちらは猛者三名と一匹。今更多少の強敵に苦戦することもないだろう。



 私は3号で斬りかかり、パナセアさんはレーザーを撃ち出すハンドガンで、どらごんは木の根を生やして貫かんと操り、ウイスタリアさんは素手で殴りにいった。


 だが――


「なんかこいつ変だぞ!」

「欠片もダメージが入っていないね」

 〈どらごん!〉


 微塵も効果があるように見えない。

 火力的には竜を倒せるくらいのものだ。

 とりあえず本気で戦う必要があるのは分かった。



「『ひらけ、遙か天の先へ至るために』【神器解放:順応神臓剣フェアイニグン・キャス】」



 相棒の刀身を出して、メカ悪魔の爪撃ごと叩き斬る。今度はしっかり傷が入った。

 意外と普通に斬れたので驚いたが、すぐに切り返して上段から真っ二つにしてのけた。



「何故かは分かりませんがこの剣なら普通に効くみたいですね」

「ミドリくんの神器なら……つまり、ある程度のがないと無効化される敵ということか?」

 〈どらごん?〉




「まだいるぞ!」



 ウイスタリアさんの指し示す方を見ると、薄暗い地下の空間で獰猛に輝きが複数見えた。


「ここ、やつらのナワバリなんですかねー。流石に一人で倒しきるのは疲れるので退きましょうか」

「同感だ」

「次はコテンパンにしてやるからなー!」

 〈どらごん!〉



 急いで未だに動けない面々を担いで逃げる。

【天眼】の黄色い線の導きに従って走る。

 どらごんが根っこで後方の道を塞ぎながら脇目も振らず逃げることに集中する。



 パナセアさんの推測通り神器なら通用するとすれば、神器持ちの私とサイレンさん、コガネさんなら殲滅も可能だが今は精神的な疲労でまともに戦う気が起きないのだ。



 少し走ったところで後ろで一匹だけ抜けてきたメカ悪魔が。一匹なら大した労力もかからないのでこの辺りで一旦落ち着こう。



「そろそろ休憩にしますよ。あいつは私がやりますので」


「助かるよ」

「頑張るのだぞー」

 〈どらごーん〉


 肩を回しながら、接近する敵を見やる。

 改めてその姿を観察すると、やはり機械の部分が七割くらいはあり、歪な生命なのを感じる。




「ん? 人の気配!」



 メカ悪魔はあまりにも物に近かったから気づけなかったが、今度はちゃんと察知できた。暗闇に溶けこんではいるが、複数人が接近していた。




「何故こんな所に人が……!?」

「馬鹿! そんなことよりはぐれの処理だ!」

「第五部隊、戦闘を開始する」






「「「『――聖剣解放』」」」




 ヒーロースーツのようなピチピチの服を着た三人衆が手にした機械っぽい剣が眩しく輝いた。


 そして流れるようにメカ悪魔の元へ接近し、一人が攻撃を受け止め、背後から二人が剣で悪魔の胸を貫いた。


 かなり手際が良い。

 ……否、そんなことよりも気になることがある。



「まるで聖剣のバーゲンセ――」


「あんたらどこの地区の人間だ?」



 凄そうな武器を使う三人衆のうちの聖剣使いA(仮)さんに、事情聴取を迫られる。地区なんて聞かれてもこの地下の国の地理事情はさっぱりなので答えようがない。



「えーっと……」

「我々は外の世界から迷い込んだ人間だ。敵意や害意は無い。ここのことを色々と聞きたいのだが構わないだろうか?」



 私が返答に困っているとパナセアさんが助け舟を出してくれた。

 メンタルKO済みの二人は寝かせてウイスタリアさんがナデナデして慰めていた。

 私もされたい。



「外の世界だぁ?」



 顔をしかめる聖剣使いAさん。

 侵略者的な扱いを受けるのだろうか。

 戦いの心構えはしておこう。



「がっははっ! 外って童話じゃないんだから!」



「……ああ、すまない。あの化け物に襲われてショックで記憶の混濁が起きているんだ。ご覧の通りダウンしている者も複数いる」



「確かに聖剣も持たずに魔物に襲われたらそうもなるか。でもなぜこんな辺境に――それも覚えてないのか?」



「すまない。死にかけたからか自分の名前しか覚えていない」



 流石パナセアさん。

 上手いこと設定を作って誤魔化している。

 この調子なら任せていいだろう。とりあえず後ろの休憩組に設定の共有をしに行こう。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「で、どうしてこう投獄なったんです?」


「まさか全ての住民の顔を登録して照合できる技術がこの世界にあるとは思わないじゃないか」


「しかし、愛しの君は囚人服すら似合うな……」


 

 投獄され、私とパナセアさん、ストラスさんが一つの牢屋に入れられていた。ほかの人たちはまた別の棟で捕まっているはずだ。



「目ん玉えぐり取りますよ寝坊助」

「命の危機だったから仕方ないではないか!」


「ケッ!」

「いつもより棘が深い!?」



 私が今の所何もしていないストラスさんに悪態をついていると、パナセアさんが責任を感じてるのか宥めに入った。



「まあまあ。すぐに引き取り先が決まったことだし、一日だけ囚人生活の体験ができると考えて楽しもうじゃないか」




 引き取り先ねぇ……何かこの地下世界にある教会が引き取ってくれるらしいがどうなることやら。



「しかし、囚人と言ってももう夜しか労働時間ありませんし大した経験は期待できないでしょうけどね〜」



 やはり大きな歯車を回したり、よく分からない資材を運搬したりして後ろから鞭で叩かれたりするのだろうか。……バイト経験も無い人間が過酷な強制労働をやれると思っているのか。

 私は働かぬ! このボロボロの牢屋で立て篭もってでもニートを貫いてやる!


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