第11章『量産型“聖剣”』

##64 物資回収

 

 ========


 《第六回イベント“503:Service Unavailable”》


『クラン部門』

 〈総合〉

 1.フロントライン

 2.オデッセイ

 3.森のお家


 〈戦闘〉

 1.フロントライン

 2.森のお家

 3.大連合


 〈総攻略〉

 1.オデッセイ

 2.フロントライン

 3.森のお家


 〈補助・貢献〉

 1.大連合

 2.森のお家

 3.ナーサリーズ



『個人部門』

 〈総合〉

 1.ミドリ

 2.リン

 3.匿名


 〈討伐数〉

 1.リン

 2.真理亜

 3.SYU


 〈ボス戦貢献〉

 1.リン

 2.匿名

 3.マツ


 〈支援〉

 1.リン

 2.パナセア

 3.みなと


 〈攻略〉

 1.リン

 2.サ

 3.真理亜


 〈裏攻略〉

 1.ミドリ

 2.匿名

 3.――――




 各順位に応じて報酬を配布しました。メッセージからご確認ください。

 今後ともより良い異世界ライフを――


 運営一同



 ========




 イベント終了から3日が経過した。そういえばイベント中に例の時間神が来ていたらしいが、イベント終了前には帰っていてすれ違いになったらしい。

 まあそんなことはどうでもいい。私が模試やら病院やらで忙しかった間にイベントの結果が出ていたらしいので、竜の渓谷の仮拠点でそれを眺めていたのだ。




「やっぱりリンさんが1位、匿名はネアさんかな」



 リンさんに至っては、最後のボス戦で隕石の雨を降らせてプレイヤーもろとも殲滅してたから活躍は当然といえば当然。

 別に悔しくなんてないんだからね!


 ……さて、心の中のツンデレミドリは封印してっと。報酬を確認しようかな。



「個人部門は体力回復ポーションセット、ミナシエ金貨? それにクランの方は10,000CPクランポイント? そんな機能あったっけ?」



 未知の要素の説明を求めてAWO公式SNSを確認してみる。



「ふむふむ……次回のアップデートで増えると」



 クランショップとやらで使えるものらしい。品揃えによってはかなり良い報酬だ。



 一通り確認を済ませ、私は干し草のベットから起き上がる。

 仮拠点の造りは寝泊まりのみしか考慮されていないため、朝食をとりに外に出た。といっても朝10時だからもう皆食べ終わってるだろうけど。




「おはよう。丁度良いタイミングで来てくれたね」


「あれ? おはようございます。皆さんお揃いで何かあったんですか?」




 珍しく真剣な面持ちのクランメンバーが輪を作って座っていた。不思議に思っていると、パナセアさんは指を三つ立てた。



「悪いニュースが3つある。どれから聞きたい?」


「選択の余地が見当たりませんが」


 というか3つも同時に悪いことが起きたって何があったんだろう。



「緊急事態なんだから手短にね」

「それもそうか……では一気に言っていこう」


「ええ」


 サイレンさんの注意で真面目な目になった。

 おそらくあまり身構えて欲しくなかったから茶化したのだろうが、結構緊迫した状況らしい。




「一つ、少しずつ貯めてきた食糧が底をつきそうだ」


「もうですか? 結構あったはずですけど」



 竜の一般的なご飯が、調理もクソもない生肉(毒あり)むしゃぶりなため、私たちは自前の食材でお腹を満たしていたのだ。

 まあ、がっつり減った理由は何となく分かっている。


 私はジト目でウイスタリアさんとどらごん、ンボ子を見やる。


 ……あの一人と二匹が張り合うように食べるからだろう。気まずそうに目を逸らしているが。



「二つ、ペネノ修繕の素材も底を尽きた。念の為スリープモードで、ストレージに仕舞っているが運転を任せることを考えると素材の回収をしておきたい」


「ほうほう」



「三つ、異界人組は初期の服があるからいいとして、ストラス君の服がもうかなりボロボロなんだ。サイレン君の服はサイズが合わないし、近いサイズの私の白衣もあるが……なんか嫌だから服は買いに行くべきだろう」


「なるほど。ではここからだと帝国まで行けばいいんですかね?」



 当初の予定通り西へ行けば帝国だ。

 食糧も服もあそこなら揃えられるはず。



「いや、ペネノの素材は流通していない。だからこそ、先に寄りたいところがあるんだ」


「そうなんですか。それをみんなに話してたんですねー」



 その後、詳しくその場所の話を聞いた。

 パナセアさんが一陣としてこの世界に降り立ち、ペネノさんを例の遺跡で拾ってから動かすために辺りの山で採掘をしていた時の拠点らしい。

 ペネノさんの体の素材は“カミオロシ”なる金属で、これから行く先の山でしか採れない珍しいもの。ストレージに入り切らない分はそこに置いてあるようだ。


 ストレージに上限があったのは知らなかったが、自分で素材や在庫を管理する生産職にとっては当たり前らしい。



「位置的にはここと帝国の中間くらいだ。小さな山があり、食材もあるし服もかなり昔のなら置いてあったはずだ」



「じゃあ決まりですね! 次の目的地はそこで決定です!」

「ぼくもそれでいいと思うよ」

「補給がメインってことやな。たまにはのんびり作業もええかもなぁ」

「我もいっばい食べたから協力せんでもない!」

「流石の我輩も服は欲しいから従うぞ」

 〈どらごん〉

 〈わん!〉


 かなり増えた面々もそれぞれ賛同し、パナセアさんの別荘が次の行き先とあいなった。


 ウイスタリアさんが旅立ちの挨拶をして回っている間に、パナセアさんが用意してくれた車2台に乗り込んでいる。



「そういえばミドっさんはイベントの報酬良いの貰った?」


「良いのかは分かりませんけど、ポーション系と謎の金貨とクランポイントなるものを貰いました」



「謎の金貨?」


「見ます?」


 ストレージからミナシエ金貨とやらを取り出してサイレンさんに渡す。それを横からンボ子とどらごんが食べそうになっているのを見て掴んで抑える。



「うーん……何かのキーアイテムかな?」


「ミナシエ金貨と言うらしいですよ」




「む、ミナシエ金貨? そんな物を何故今持っているのだ?」


 なんだこれと頭を傾げていると、弓の手入れをしていたストラスさんが興味を示した。



「知ってるんです?」


「ああ、それは旧王国の硬貨でエルフの里で取引があった時期はよく見かけたものであるからな」



 王国の昔の硬貨ねぇ……どうして報酬でそんなものを寄越したのだろうか。



「ま、運営が渡したってことは何かしら使用用途があるかもだしとっておいた方がいいのかもね」

「ですかねー」


 そんな雑談をして、出発の時間までのんびり車内でくつろぐ。リクライニングやクーラーもついていて快適極まりない車内はここで寝泊まりしてもいいのではないかと思わせた。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 丸1日経過した。

 道中キャンプしたり遭遇した魔物を倒したりしつつ、ようやく古びた小屋に辿り着いた。




「結構綺麗ですね」


「以前私が掃除したからだろう。元々汚れにくいように何かしら魔道具が小屋全体に仕込まれているようだったし」



 私の些細な疑問に答えながら、パナセアさんは小屋の戸を開けた。中には既に精錬された金属のインゴットがずらっと積み上げられていた。


「崩れたら大変やなぁ」

「下手に触らない方がいいね」



「カミオロシは奥の部屋の金庫にあるから取ってくるよ」


「私もついてきまーす」



 少ない足場をパナセアさんと同じように抜けて奥の部屋までついていく。

 そこもやはり素材で埋め尽くされていたが、最奥の大きめの金庫周りは物が少なくなっている。



 ……それにしても何か妙な違和感を感じる。

 地に足がついていない感覚というか、不安感というか。【天眼】でも特に危険は示されていないから大丈夫だとは思うが、名状しがたいフワフワとしたものが胸をくすぐる。



「――――トーップ!」



 パナセアさんが金庫の中のものをストレージに移している後ろで頭を悩ませていると、不意にさっきの部屋からサイレンさんの声が聞こえた。

 私は気になって顔をのぞかせる。


 しかし、物が邪魔で何があったのかは見えない。



「大丈夫ですか? 何かありました?」


「露骨なボタンをウイスタリアちゃんが押しそうになってただけだから気にしないでー」

「爆発しそうなやつや」



 自爆機能があるのだろうか。

 おっかない小屋である。




「大丈夫だったかい?」

「ええ、謎のボタンを押しそうになってたとかだそうですよ」



「ボタン? ああ、あれは何も起きないよ。念の為周辺の爆発物の確認をしてから押してみたが、何も起きなかったんだ」

「確認って、ここはパナセアさんが作ったんじゃないんです?」



「いや、ここも父の残したものだよ。だからこそ爆発しないか確認したんだけどね」

「なるほど……」



 あの爆発大好きな技神の作った小屋だったのか。

 だとしたら、あのボタンが何の意味も無いものだとは思えないけど。


 心配になってもう一度ボタンのあった部屋に戻る。


「ちょっと! コガネさん何か起きたらどうしたのさ!」


 丁度サイレンさんが説教していた。

 どうやら隙をついてコガネさんがボタンを押したらしい。



「あ、ミドリはん、これ何も起きへんで」

「パナセアさんもそう言ってましたけど、押したんですか……」


「おもろそうだったさかい」



 やんちゃ狐め。

 まあ危険性の有無は彼女の直感で判断していたから本当に危なかったら押さなかったはずだ。あれでも彼女は割とマトモな人間だから。たぶん。


 〈どらごん〉

 〈わん〉


 どらごんとンボ子が今度はスイッチを食べようとし始めた。そこにさっきまでウイスタリアさんの取り押さえに協力していたストラスさんが割って入る。



「これは食べ物ではない。そもそもこういうタイプの魔道具はこうやって魔力を操作して少し流してやりながら使わねば――」



 ストラスさんが何か勝手に解説しながらボタンを押す。


 ――――途端に床が消失した。




【飛翔】をすぐに使ったが飛べない。

 以前も似たようなことがあった。確か天使の墓場なんて呼ばれていたな、なんて呑気に考えながら、素材の山とともに私たちは底の見えない地底へ墜落していった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る