#14 【AWO】王都です【ミドリ】




 寝つきは悪かったけど、何とか眠れて起床。



 諸々朝の支度を済ませてログイン。




「んー」


 伸びをしつつ、新鮮な朝の空気を体内に巡らせる。



「おはようございます」



「あら、おはようございます。朝食を準備したのでどうぞどうぞ」


「これはどうも」



 流石に既に準備してもらったものを断るわけにもいかず、有難く頂く。





「いただきます」



 出された野菜のスープと、パンを頬張る。

 野菜のスープに関しては、まあ味付けが少しあれなだけで不味くはない。

 パンは思ったより固くなくて、普通に美味しいが、バターが欲しい。




「パンってどこで入手しているんですか?」




 この言い方、まずいかもしれない。暗に田舎なのに……と捉えられてしまう気がする。




「王都からお昼頃に商人さんが来て、売ってくれるんですよ」


「なるほど。作った作物もその方に買い取ってもらうと」



「そうですねー」




 気にしていなさそうだ。よかった。

 それにしても、商人か。今のところ財布の源は冒険者稼業だけだけど、いつかものづくりとかしてみたいなー。




「ご馳走様でした」


「お口に合いました?」



「ええ。とても美味しかったです」


「それはよかった」




 そろそろ行きますかー。




「そろそろ出発します。本当にお世話になりました。旦那さんにも挨拶を……」



「まあまあ、あの人はほっといていいの。またいつでもいらっしゃってね」



「あ、近くに川とか綺麗な水がある場所教えてくれません?」



「川なら少し南に行くとありますよ」




 よし、そこで少し水浴びをしてから王都に行こ。




「ありがとうございました。またどこかで」


「ええ。お元気で〜」





 村を出て、川の方へ向かう。

 昨夜は暗くてしっかり見えなかったけど、この村はかなり活発なようだ。朝から元気に畑作に励んでいる。




「案外近いな〜」



 ほんとに少し南に行くと川があった。

 こんなに村が近いと人も来るかもしれないので、顔を洗うだけにしておこう。



 殆ど濁りのない、澄んだ川。何かしらの方法で浄水とかしているのかもしれない。


 流石に土手付近だとあれなので、真ん中辺りで洗うかねー。



「冷たっ」



 初期装備の靴を脱いで、入ってみるが、冷たい。夏とはいえ、朝だから余計に冷たいのだろう。




「仕方ない」



 靴を履き直し、頑張って腕を伸ばしてできるだけ土から遠い場所の水をすくって顔にかける。




「きゅぅ」



 冷た過ぎて変な声が漏れてしまった。

 でも、そのおかげでお目目パチパチだ。





 お風呂に入りたい欲が増してしまったけど、今度こそ王都へ向かう。




「そうだ。走らなきゃ」




 今まで自力で走る機会が少なく、【飛翔】ありきの逃げや戦闘スタイルだったため、走っての行動で失敗する可能性がある。

 こういう、のんびりしたところで練習しておくのが大事。




「フォームを意識ぃ…………ぜぇ……はぁ」



 疲れてきた。スタミナなんてステータスは無いけど、どういう仕組みで決まっているのだろう?



 やはりマスクデータとして、何かしらの法則があるのだろうか?




「はあはぁ……もう無理ぃ…………」




 自分でも、肩が揺れるほど息が切れているのが分かる。

 走りながらの長期戦だけは絶対に避けないと。


 そう考えると、大剣のパワープレイは意外と合っていたのかもしれない。

 いや、大剣を持つのにスタミナを使っているという線もあるか。




 いや、それは飛べば解決するかな。



「そろそろ開始しよ」



 息も整ったし、王都が見えてくるだろうから。


 配信の告知をして、開始ボタンをポチッとな。



 カメラの球体が現れ、少し待ってから恒例の挨拶。




「おはようございます」





[カレン::おはよ〜]

[味噌煮込みうどん::おはミドリ〜]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::おはよう]

[ヲタクの友::おはよう!!]

[紅の園::おはミドリ〜]

[隠された靴下::おはミドリ〜]

[芋けんぴ::おはミドリ〜]

[テキーラうまうま::LIVE初見、おはミドリ〜]

[枝豆::おはミドリー]

[燻製肉::おはよ]

[壁::おはミドリ〜]





 早起きの方は相変わらず多いようで何より。



「タイトル通り、もうすぐ噂の王都に着きます。どんな場所なんでしょうね」




 話しながら足を進める。

 これカメラの画角によっては、私には見えないけど視聴者さん達には見えるってことが起こりそう。



「カメラ、私と同じ高さでお願いします」



 …………反応しない。やはり自動とはいえ、声までは認識していないのかもしれない。


 何か操作できそうな……あった。

 手動でカメラを動かせるみたい。


 高さのバーを下げて、固定の欄にチェックを入れる。


 上手くできたかな。



「よし、あっ」



 そうこう調節していると、王都が既に見えていた。どのタイミングだったかな?




[階段::王都見えとるよー]

[蜂蜜穏健派下っ端::でっか]

[唐揚げ::まさにファンタジー世界やな]

[お神::亀齢]

[芋けんぴ::見えとるよ]

[あ::草]

[天変地異::調整し始めた瞬間に見えて草]




 調節意味無かったー。感動を一緒に味わえなかった。いいや、一人で感傷に浸ろ。




「長い旅でした…………」





[天麩羅::長い?]

[壁::長いかな?]

[紅の園::ん?]

[病み病み病み病み::そうだね(洗脳済み)]

[あ::長い(半日)]




 確かに半日だったけど、かなり濃密な時間だったから。体感的には長いからセーフ。




「ホラー展開もありましたし、実質半年くらいですよ。寿命の縮み具合から考えますと」




[ピコピコさん::そういうゲームだったっけ?]

[階段::怪談?]

[死体蹴りされたい::苦手なん?]

[亀の直火焼き::初見です]

[セナ::すごく気になる]




「初見さん、おはようございます。クレイジーなお名前ですね。ちなみに怪談は……ん? 違う違う。怪談じゃなくてホラーは苦手です」



 うっかり。



[燻製肉::怪談?]

[カレン::亀って食べれるの?]

[あ::どうしたら怪談とホラーを間違えるんだ?]

[芋けんぴ::怪談もホラーの一種だしセ〜フ]

[デカルトも顔勝ちな凡人::草]





「階段さんが怪談って言ったインパクトに持ってかれてました。怪談も苦手ですけどね」



 感慨にふけることなく、普通に話し込んでしまった。しかも、既に王都の検問の列に近づいている。


 朝だから、列と言うほどの長さではないけれども。





「さあ、行きましょうか」



 列に並ぶ。ここからは、話したら冒険者ギルドでの連行の二の舞になる場面。そんなアホなことはしない。





「次〜」


「はい」



 大して待たずに列は進み、私の番となった。




「何か身分を証明するものはあるか?」


「あります」



 ストレージから冒険者カードを出して、見せる。

 カードにざっと目を通し、道を開けてくれる。




「出る時はあそこからだ。すぐ戻る場合、再入都券が貰える。それを見せれば簡単に入れる」



「ありがとうございます」




 遥か昔に行った遊園地のような仕組みかな。再入場は別の列でって感じのやつ。





「お〜」



 最初の町よりも賑わっていて、建物もワンランク上のものになっている気がする。

 道を歩く人達の服も小綺麗で、冒険者と思われる人の武器も高そうだ。



 そうだ、新しい場所に来たらリスポーン地点を更新しようって公式サイトの初心者向け案内に書いてあった。リスポーン地点とやらを探さなきゃ。


 ピリースでのリスポーン地点は、おそらく最初の教会のような場所だった。ここも教会とかを当たればいいのかな。





「いらっしゃい! どうだい? 新鮮な木の実が今ならなんと、半額だよ〜!」


「産地直送! 採りたてほやほやの野菜はいかが〜!!」


「まいど〜! さあさあ、順番に並んでね〜!」





 あちこちから元気な声が張り上げられている。

 丁度朝市とかと被ったのかな。



 若干うるさいと思いながら、人々の荒波に揉まれながら教会らしき場所を探して彷徨さまよう。




「うっ……はあはあ、無理です」




 限界に達して、人通りの少ない路地へ脱出。

 普段こんな人混みに入ることなんて無かったから、こんなに苦しいものとは思えなかった。




人気ひとけの無いところから、教会に向かいますね」





[椎茸::お疲れ]

[セナ::人混みは慣れがいるからねー]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::大丈夫?]

[天変地異::親の顔より見た路地裏]

[唐揚げ::王都って都会なんやなー]

[あ::ゆっくりどうぞ]





「そういえば、路地裏とか路地ってどう違うんですかね?」





[死体蹴りされたい::どうだろ]

[ピコピコさん::裏と表なんじゃない?]

[カレン::どっちも裏道って感じだよね]

[スクープ::路地裏→表通りに面していない場所、路地→表通りに面していない道]

[ンベー::わからん]





「なるほど……路地裏の方は路地も含む意味になるわけですか。よく知ってますね」



 とりあえず路地裏って言っておけば正解になるのか。



 雑談しながらブラブラしていると、誰かとぶつかってしまった。相手はガッシリしていて、私だけが尻もちをつく。



「すみません、考え事をしていまして」



 適当に言ったが、存外この言い訳はありかも。

 今後は、視聴者さんとの雑談は考え事として扱っていこう。



「いえ、こちらこそすみませんな」



 手を差し出され、その手を取――――






 赤が、視界を埋め尽くす。






「ッッッ!?」




 かなり無様に後転して距離をとる。

 翼と光輪が出てしまったが、それどころではない。赤い線は攻撃の線だったはず。


 線が無くとも、生物の本能か、死んだと思った。それほどの危険性を目の前の人は孕んでいる。




「ほう、天使ですな」



「貴方は一体……?」




 外見は大きなコートで判別がつかないが、声的に男、肩幅からかなり筋肉質だと推測できる。




「ふむふむ、なるほど。どこかで口うるさい老人、あるいは無口な幼児、または変なピエロと会ったことがありますな?」



「……」



「場所を教えてくれると助かるのですがな?」




 老人とピエロは知らないが、無口な幼児には心当たりがある。ぼったくられた例の件だろう。


 しかし、ユニークスキルを手に入れたのもあるから、こんな危ない人を案内してもいいものか。




「目的は何ですか?」


「む? ああ、何か勘違いしていますな。あいつとは仲間というか、同志のようなものだから安心してくださいな」



「……その言葉を信用しろと?」




「む、これでも、お主の同類でもあるのですがな」


「?」



 この人と同類? まさか、この人も天使だったりするのだろうか?




「【勤勉の天使】」




 男から、四つの翼と光輪が出てきた。

 翼の数から、私より上位の天使だと確信する。


 同族への安心感か、先程まで感じていた危機感が綺麗さっぱり消え失せた。




「ピリースです」


「おお、感謝する」




 無意識に、教えていた。



 正気に戻ると、既に男は居なくなっていた。



「また妙な洗脳のようなものを?」



 あの子供も同じような感じだったし、本当に彼らは同志だったりするかもしれない。



 格の違う世界に足を半歩踏み入れた気分を味わったが、災害に巻き込まれた一般市民のような感覚だ。良い事なんて何一つ無い。




「まあ、私に実害も無かったし、大丈夫でしょう。改めて、教会に向かいましょう」





[階段::理解が追いつかないんだが]

[味噌煮込みうどん::結局、どういうこと?]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::何故教会?]

[カレン::あの人は知り合いってこと?]




「私にも、今起きたことはよく分かりません。分からないことは考えても分かりません。諦めましょ。教会は、リスポーン地点を更新するためですね」






[ゴリッラ::いいこと言うやん]

[壁::たし蟹]

[スクープ::ピリースで張ってみますね]

[蜂蜜過激派切り込み隊長::王都のリスポーン地点、大通りのところしか無いよ]



「大通り……? はあ」



 いっそのこと、【飛翔】で行こうかなー。


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