##5 無彩色の町、レイアス
荒野にエンジン音が鳴り響く。
我々〘オデッセイ〙は、無彩色の町レイアスへ車で移動していた。もちろんパナセアさん作の悪路走行用自動車、いわゆるオフロード車である。
運転はペネノさんがしてくれている。
「これが伝承にあるジドーシャなのか……」
索敵要員のストラスさんは車の上に張り付いてもらっているため、何か喋っているようだが聞き取れない。
一方、手持ち無沙汰な面々は世間話に花を咲かせていた。私たちは現実の方の昼食は済ませてある。
「コガネくんは魔大陸のどこから来たんだい?」
「うーん、なんて言うたらええかなぁ……魔王はんの部下の四天王の魔女の弟子として修行しとったけど、どっか行ったから逃げ出したって感じやなー」
「ほう……なるほど。初期リス地は?」
「三本皇国やね。そこで色々あって拾われたって形や」
パナセアさんはコガネさんに尋問のように質問攻めをしていて――
「どらごん、お前そろそろ一度しっかりお風呂入った方がいいですよ」
〈どらごん〉
「猫じゃないんですから……」
〈どらごん!〉
「言葉のあやですよ」
私はどらごんを膝に乗せてマナさんの形見であるキーホルダーを触っていた。どらごんも私に気遣っているのか、前より距離感が近い。お前だって落ち込んでるだろうに。
「……お前ってこないだの竜の姿に今もなれたりします?」
〈どらごん〉
「そうですか、まあ強いスキルにはクールタイムがつきものですからねー」
〈どらごんー〉
何となくどらごんの言っている言葉が分かるようになった気がする。
「お前は人間の姿になったらダメですよ。マスコットはマスコットとしてのレギュレーションを守らないとですからね」
〈どらごん〉
「ならいいです」
ふと不安に感じて聞いてみたが、どうやら人型は絶対にならないらしい。よく世間では擬人化というコンテンツを見かけるけど、その物自体の魅力というものがあるのだ。
私は今のブサカワなどらごんのままでいて欲しい。
「GAGA……セイメイハンノウガ――? ヒトマズ、マモナクトウチャクシマス」
ペネノさんの音声案内で私たちは窓から外を見てみる。前方には、真っ白な壁が広がっていた。
「怖がられるといけませんし、ここらで降りて歩いていきますよ」
車は現地人にとっては未知の魔物に見えてしまう。観光に来ただけの私たちの取るべき選択は友好のみ。敵意を見せないために車を降りる。
しばらくまっすぐ歩いて、真っ白な壁の前まで辿り着くと、グレーの扉を見つけた。ノックをするが、返事は無い。もう一度ノックをしてから開けてみる。
「奥に受付があります。行ってみましょうか」
そう伝えてから私たちは扉の中へ入った。
――次第に全てが色褪せていく。
「これは色の……」
「なんやこれ」
「吾輩の体が!?」
「ほう」
〈どらごん!?〉
「GIGI……カイセキヲカイシシマス」
私たちの体、荷物、全てが無彩色になっていく。色とりどりだったのが、あっという間にグレイスケールになってしまった。
これは私の足から出られなくなった犬がやってきた色を奪うのと全く同じだ。
「観光にいらっしゃったのですか! ようこそ、無彩色の町レイアスへ!」
私たちが戸惑っていると、受付の奥から人が乗り出して歓迎してくれた。受付の人も無彩色でどこかもの寂しい印象だ。
「では、ガイドをお呼びしますね。しばしお待ちを!」
そう言い残して奥へ引っ込んでしまった。
仕方なく近くにあった椅子に座って待つことに。
時刻は13時。そろそろ昼食をとりたいなと思いながら雑談をして待つ。
「お待たせ致しました! ここからはガイドのクマに代わりますね!」
「ようこそレイアスへ。ガイドのクマでございます」
優しそうな笑顔の、ガタイのいい男性が案内してくれるようだ。ちょび髭がいい味を出している。
「すみません、観光の前に昼食をとりたいんですけど――」
「それならご安心を。旅の疲れを癒せる宿を既に確保してありますので、そちらでゆるりとお過ごしくだされば」
「ありがとうございます。お願いします」
「優秀やわぁ〜」
「いえいえ、観光産業には力を入れてますゆえ、当然でございます」
クマさんに案内されて宿へ向かう。
町中を歩いているが、どこを見ても無彩色。その名の通り無彩色の町である。私の肩にいるどらごんも物珍しそうにキョロキョロしている。
「不思議やけど新鮮な感じやなぁ」
「ですねー」
「吾輩的には地味で味気なく思えるがな」
「こらノンデリ、貴方だけ追い返しますよ」
「すまない! 我が君! どうか許して?」
「どらごん、やっておしまい」
〈どらごん!〉
「あだだだっ!!」
どらごんの小さな棘がチクチクとストラスさんの二の腕に刺さる。
「仲睦まじいですな」
「うちらはみんな仲良しや〜」
クマさんが微笑ましげに眺めている。見た目とのギャップが凄い。
前方集団がフワフワな空気の中、後方から周囲を観察しているパナセアさんとペネノさんは何故か真面目な顔をしていた。
後でこっそりその理由を聞きに行った方がいいかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇
「お腹いっぱいや〜」
「美味しかったですねー」
「魚料理は美味いな」
「彩りが少し足りないがね」
宿で豪華な魚料理を完食して各々寝転がったりしてくつろいでいる。
パナセアさんの言う通り、見栄え的には少し物足りなさがあったのは事実。それでも量が量なので満足だ。
「ミドリくんミドリくん」
「はいはいはーい、ミドリでーす」
パナセアさんから話があるようで、チョイチョイと手招きされてベランダへ出る。密談タイムかな。
「どうかしました?」
「言葉では言い難い違和感と明らかな謎がある」
「違和感は私も感じましたけど、明らかな謎というのは?」
「町一帯を覆っているあの白い壁だ。無彩色にしている原因がなんであれ、壁が大き過ぎる。外の脅威から守る割りには、中から反撃する隙間も無いほどガッチリと守っていて不自然だ」
確かに針の糸も通らなち完全な壁だった。しかもそれが海側にまで回っていたので、強固だとは思っていたが、確かに反撃できない作りはおかしい。
「まるで中から出させないための壁なんだ。空へ行っても目立って格好の的になるだけだろうしね」
「一体何のために……」
「さてね。推論なら挙げられるが、折角の観光に水を差すのもどうかと思うんだ。私の考えすぎの可能性もあるしね」
「うーん……」
難しい。
でも、何となく的中している気がする。根拠の無いただの勘だけど。
「ちなみに無彩色にしている原因って何か分かってたりします?」
「いや、まだ解析が終わっていない。もしかしたら解析できないかもしれない。それもあって、神が関わっているのは間違いないだろう」
「うへぇ……あまり長居はしない方がいいですね」
「そうだろうね」
ひとまず様子見という結論で、皆の元へ戻る。
――休暇として来ているのだから、どうか穏便に終わりますように。
無彩色の空へ目を向けてから小さく呟いた。
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