##4 死という道理

 


 ジェニー先生の(物理的に)熱い御指導の賜物か、この短時間で変な癖はある程度抜けた。そして何より、先生の最強っぷりを身に染みて実感した。



「今日はこれくらいにしておくかのう」

「はぁ、ふぅ……ありがとうございました」



「作戦の直前に仕上げでやるから、今の感覚を忘れるでないぞ」

「はい! 先生!」



 勝手に先生呼びをしているが、何も言われないので今後もジェニーさんのことは先生と呼ぶ。精神的な支柱は既にあり、そちらは師匠というか憧れなので分けて先生と呼んでいるのだ。



「ふと思い出したんじゃが、蘇生薬の使い道はどうするつもりなんじゃ?」

「知り合いの蘇生です。ものすごく親しかったわけではありませんが、この世界に来たばかりの時にできたご縁ですから大切にしたいんです」


「記念ということか?」

「簡単に言うとそうかもしれません。それでも、今は無い善性の数少ない象徴なんです。姉妹どちらもできたら良かったんですけどね」



「そうか……じっくり考えておくと良い。ただ、死者が必ずしも蘇るのを望んでいるとは限らないということも、頭の片隅には入れておけ」




 先生の発言からは死を容認、肯定するように感じ取れる。死は救済派閥なのだろうか。私はできることなら生きていた方が楽しいと思うんだけど。



「この世界は苦痛と絶望で満ちておる。死ねとまでは言わぬが、生きることに執着するほどの価値は、妾には見いだせない。蘇生や復活なぞ、本来インチキじゃしな」

「考え方は人それぞれですけど、先生は厄災を倒すまで死なないでくださいよ?」



「はっ、妾がおいそれと死ぬものか。それに一度程度なら復活のスキルもあるから、間違っても厄災を放置してあの世へ逝くことはあるまい」



 死亡フラグな気がしないでもないが、先生は言葉通り最強なので安心である。もし先生でも手に負えなかったら世界が滅んでもおかしくないぐらいだ。




「何にせよ、蘇生を拒み死を選んだ友を知っておる。苦しんで死んだ者こそ賢明な判断を下すじゃろう。蘇生するのなら、頼まれた時に自らの手でその者を殺める覚悟を持ってするんじゃな」


「――――ッ」



 そんな大層な覚悟、私は持っているのだろうだろうか?

 ――無理だろう。私の心臓は鋼ではできていない。なら、どうすればいいのか。



 考えても考えても分からない。

 何が正解で何が間違っているのか。死という自然の事象に抗うのは果たしてらしいのか。彼女ならどうするのか。



「…………その時に、よく考えたいと思います」

「好きにするが良い。ほれ」



「わっとと……これって」

「蘇生薬じゃ。面倒じゃし今のうちに渡しておく。好きに使え」



「ありがとうございます……」



 軽率に使えない場面で渡してくれた。


 一応契約通り、全て上手くいってから使おう。

 後回しの言い訳を心の中でしつつ、大事にストレージへ収納しておいた。


 何とも言えない気分のまま、朝食をとりに屋敷へ戻る。ジェニー先生は何も気にしていない様子でスキップ混じりに炎を振り回していた。




 ◇ ◇ ◇ ◇



「第二回、クラン会議です!」

 〈どらごん!〉

「よぉ〜」

「GIGI……ハツサンカデス」

「ワクワクするではないか!」


「この中で前回のに参加したのは、私とどらごんだけだね。リーダー不在だったから」



 そう、私が奈落・冥界へツアーしていた時に、私抜きでクラン会議をしていたらしいのだ。除け者とはつれないなー。



「船上で加入手続きは済ませていますが、一応新入りには自己紹介してもらいましょう。コガネさんからで」


「はーい、こんにちはぁ。新入りのコガネどすー。デバッファー兼近接アタッカーやさかい、仲良うしてやー」



 コガネさんがピコピコと狐耳を揺らしながら挨拶。優しい拍手で迎える。



「では次お願いします」


「新入りのストラスである! 皆の者よろしく頼もう! 得意武器は弓矢、多少は魔法も使えるぞ!」



 現地人である元私のストーカーこと、エルフのストラスさんの元気な挨拶が屋敷の会議室に響き渡る。一瞬の沈黙の後に歓迎の拍手がパラパラと鳴る。



「そして~?」

「この小型汎用型機械の修理が完全に終了したから改めて紹介しよう」



 ごくまれにしか会わなかった小さな機械を、ついに外で活躍できるように調整したらしいのだ。ついでとばかりに名づけをしたようなのでみんなの前で発表することとなったのである。

 見た目はかわいいが、兵器が搭載されているようなので物騒の極みなのは黙っておく。



「これの名前はペネノ。クランの登録はできなかったが、どうかよろしく」

「GIィ……ペネノデス。ヨロシクオネガイシマス」



 同じように拍手で歓迎する。こんな多種多様な種族のクランにおいて完全な機械であろうと気にする者は誰もいないのだ。どらごんとマスコット枠の争いが起きないといいけど。




「さて、本題に入りましょう。これから数日間の休暇、どうするかの話です。このままここで待機するのもいいんですけど、シフさんから数か所おすすめの観光地を紹介してもらいまして」


「観光、ええねぇ」

「暇になるよりは観光でいいのではないか?」

「データシュウシュウノメンデ、カンコウガシタイデス」

 〈どらごん!〉



 多数決なら観光で決定だが、パナセアさんはまだ悩んでいる様子。


「…………流石の彼もここまできて余計なことはしないか。候補はいくつかあるのかい?」



 どうやら情報源がシフさんというだけで警戒していたらしい。確かにそう言われてみれば若干怪しく思えてきた。でも今更撤回するのも面倒だしたまには信じてあげよう。

 それで、えーと候補地だっけ。



「候補と言っても二つだけでして、片方は獣人族が棲む小さな村で、もう片方は無彩色の町という観光名所らしいです」


「ミドリはん、その獣人族がっていうのはこの近くの話?」



「ええ、無彩色の町よりは少し遠いですけど一応近辺ではあるみたいです」


「あそこはやめた方がえぇよ。触らぬ神になんとやらやし」




 そういえばコガネさんは魔大陸の方から来たんだっけ。それで多少知っているのね。コガネさんがそこまで言うなら相当なのだろう。


 まったく、シフさんめ。2分の1で危険な所を用意して!




「なるほど……では無彩色の町に行くか行かないか多数決です!」


「さんせぇー」

「賛成である!」

「キョウミブカイデス」

「賛成」

 〈どらごん〉



 と、満場一致で決定した。

 シフさんはせっかくの観光だからと現地の情報は寄越さなかったため、行ってみて危なかったら逃げるという約束も取り決めておく。生存、消耗抑制が第一。





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