##3 最強との稽古

 


 朝。

 昨夜ごねた成果でこの屋敷での宿泊に成功した私は、今日も気ままにログインしていた。

 休暇はもらったので予定は今日みんなで決めたいなーという気持ち。



「はやいのう。きちんと眠っておるか?」



 適当に屋敷内を散策していると、朝から元気な皇帝さんと遭遇した。

 朝食の時間にはまだ早いが、どこかへ行くのだろうか。



「そういう皇帝さんもちゃんと寝てますか?」

わらわは平気じゃ。あとジェニー様とよんでよいぞ」


「ではジェニーさんで」

「……まあよい。どうじゃ、折角じゃし稽古でもつけてやろうか?」



「おー是非お願いします」

「よし、外でやるぞ。ついてくるのじゃ」



 意気揚々と歩いていくジェニーさんの後ろを歩く。

 格上だろうし、魔王と戦うことになるかもしれないので肩慣らしはしておけるのはありがたい。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「どこからでもかかって来るがよい。ある程度加減はしてやるからのう」



 風が吹き荒れる荒野。

 ゴスロリ衣装の私と、きらびやかな軍服のジェニーさんが向かい合う。

 私はフル装備だが、あちらは何も持っていない。




「ステータスオープン」



 ########



プレイヤーネーム:ミドリ

種族:堕天使

職業:背水の脳筋

レベル:55

状態:冷静沈着

特性:天然・善悪

HP:11000

MP:2750


称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・破壊神のお気に入り・色の飼い主・復讐者



スキル

U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・破壊神の刻印


R:(飛翔9)・(神聖魔術6)・縮地6・天運・(天眼)・(天使の追悼)・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈)


N:体捌き9・走術6


職業スキル:脳筋・背水の陣・風前烈火



 ########


スキル

【脳筋】ランク:レア

【~術】系統のスキルが使用不可・習得不能。

常時全パラメータが上昇。



スキル

【背水の陣】ランク:レア

スキル保有者のHPが減るほど、自身と周囲の味方のパラメータが上昇する。



スキル

【風前烈火】ランク:ユニーク

HPが一桁になると自動発動。残HPが少ないほど全ステータスが上昇。

上昇幅は、レベルが最大2倍、スキルが最大2倍(アーツや魔法、魔術は解放されずに性能のみ強化)、全パラメータがレベル強化換算後の最大2倍、MPが最大2倍、HPは上昇しない。




 ########





 こないだ船で暇つぶしがてら職業一覧を眺めていて発見した職業、背水の脳筋。

 その名の通りの性能で、理論値はすべての職業の中で最強だと私は思う。先の戦いで魔法や魔術の使いどころがなかったし、正直【剣術】とかのスキルが役に立った機会は非常に少なかった。


 ――ゆえに、ごり押し戦法なのだ。

 HPなんて前線で戦ってれば自然と減るからちょうどいいのもある。



 確認を終え、{適応魔剣}と{吸魔剣2号}を構える。




「【適応】【縮地】」

「【絶対領域】」



 私が接近すると同時に、半透明のドームが形成された。私もすでに入ってしまっている。しかし、効果が何なのかは見当もつかないので無視して剣を振る。



「せーいっ!!」

「……ほう」



 空振り。

 難なく躱されてしまった。

 カウンターと言わんばかりの蹴りが私の腹部につきささる。



「うっ……いてて……」

「【時空干渉】【英斬】」



 ギリギリ赤い線を捉えることができた。

 全力で身をよじって避ける。

 振り終わりからして手刀の攻撃。振ったところから延長線上に裂け目ができている。


 この現象は見覚えがある。確か……以前冥界で会ったお侍さんが私に見せてくれた斬撃だったっけ。世界すら断ち切る究極の一振りだったはずだ。

 ここで食らってたら公国のリスポーン地点まで戻ることになっていたんだけど?




「よし、もう十分じゃ。アドバイスでもくれてやろう。ほれ、その辺に座らんか」

「え? あ、分かりました」



 構えていた剣を納める。

 稽古というだけあって、最初に実力と問題点を見つけてそれから指導してくれるようだ。


 大人しく体操座りをする。

 ジェニーさんは炎の玉座を作って偉そうに足を組んで座った。


「まず初手で不意打ち紛いの接敵をしておったが、あれは悪手じゃな。格下相手ならともかく、一発屋は基本負けるからのう」

「一発屋ですか……心当たりはありますね。ですけど初手で詰めた方が前衛としては正解ではないでしょうか?」


「それが絶対に不可避で防御不能の必殺技ならありじゃが、貴様のはただの無鉄砲な特攻じゃ。最初は継戦能力を鍛えるために“次”への意識を覚えねばな」

「次?」



「うむ。攻撃の終わりを見届けず、予測に予測を重ねて敵に攻撃の隙を与えない立ち回りが前衛としては最適解じゃ。何より初手なぞ誰もが気を張っておるから、タイマンでは連撃が必須じゃぞ。まあ、共に戦う者がいれば一発で決めてもいいがのう」


「なるほど。たしかに戦い方は変えないといけませんね」



 つい先日の【総てを砕く我が覇道イニグ・ミカエラ】は、コガネさんの超凄いフォローあってこそだったのは記憶に新しい。あれを一人で戦闘の最中に決めるのは無理だっただろう。

 最近は破壊神やら職業神やらの恩恵で相当強くなっていて、戦い方が雑になっていたのかもしれない。


「ちなみにジェニーさんは同格の仲間っているんですか?」

「何じゃ急に」


「いえ、ジェニーさんが相当強いので、今回味方に同じぐらいの人がいたら楽だなーと思いまして」

「ほう、では残酷な現実を答えてやろう。妾のサポートならシフ、モニアが可能じゃが、並び立てる者なぞ居らぬ」


 なぜなら、とひと呼吸置いて、ジェニーさんは目をかっ開いた。



「――妾こそが、最強だからじゃ!」



 背後で小さな花火のようなものを出して決め台詞風に演出している。

 頼もしいものだなーと適当に感心していると、ジェニーさんが立ち上がった。



「さ、稽古じゃ。今度はさっき言ったことを意識してかかってくるがよい」

「はい!」


 私も気合を入れて立ち上がる。



「ああ、一応確認したいんじゃが、貴様、理外の存在か?」

「理外? 確かにステータスの称号にはその単語はありますね。なぜ持ってるかは知りませんけど」


「知らない、のう……」

「何かあるんですか?」


「いや、知らぬのなら構わん。ほれ、稽古やるぞ」



 心底興味を無くしたような表情。

 この人は強情というか、一度決めたことを曲げないタイプなので諦めて稽古に集中する。

 魔王城攻略前に継戦能力は鍛えておきたい。


 やる気十分に、私は剣を握った。


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