##2 皇帝さん達の目的がついに明かされる……!!

 

 私、皇帝さん、モニアさん、シフさんの四人で足湯に浸っている。

 先に足湯入ってからお風呂の方がよかったと思いながらも、私は邪魔をしないでおくことにした。



「さて、ミドリ。早速本題に入ろう」

「その前にコーヒー牛乳のおかわりお願いします」



 お風呂上がりのコーヒー牛乳が一番おいしい。

 注文はシフさんの分身がすぐに持ってきてくれた。



「今回、わらわ達が討伐するのは……まずはこれを読むのじゃ」




 以前蘇生薬のことを辞典で見せてもらったのと同じように今度は絵本を受け取る。

 分厚さ的に童話集みたいなものだろう。

 ここにいる私以外は読んでいるようで、見つめられながら読んでみる。







 ========

『愛ゆえの暴食』



 彼女は恋人とキスをしました。

 初めての唇の味。それは過去に味わったことの無い、特別な味。とても美味しいみたいです。


 ――だから、いつの間にか唇を噛みちぎっていました。


 血という味付けが追加された唇を、余すことなく堪能します。


 そして恋人が声にならない悲鳴を上げているのに気付いて、


 ――今度は頭を食べました。


 苦痛を浮かべる表情さえ愛おしくて、自分のものにしようとしたのです。


 そしてそして、首から血がダラダラと。

 さらに加えてピクピクと腕も震えています。

 新鮮さを見せつけられては仕方ありません。


 ――彼女は恋人の上半身を食べました。


 残されたのは微動だにしない下半身。



 ――これはもったいないと、彼女は最後まで綺麗に食べました。




 彼女は素敵な恋人を自分だけのものにできたのです。しかし、一途な彼女は考えます。

 彼以外を自分の内側に入れるのは浮気ではないか、と。


 だからこそ、彼女は何も口に入れませんでした。

 肉はもちろん、草も、水も、空気すらも。

 ただの人間である彼女は当たり前のように死にました。


 それを見た悪魔は可哀想に思い、自分のすべてを引き換えに彼女を蘇らせました。しかし、死ぬ間際の飢えと悪魔の司るものの相性がピッタリで、


 彼女は『それ』になってしまいました。



 何もかもを食らう厄災。

 希望の光すらも飲み干す『それ』に。


 こうなったらもう終わりです。

 みんなみんな、『それ』に食べられておしまいおしまい。




 ========



「――」

「どうじゃ?」


 異常な行動がまるで当然のように書かれていて言葉を失っていた。

 どうもなにも意味が分からない。



「もしかしてですけど、この厄災を……」

「うむ。打ち倒す」



 迷いなく言い切る皇帝さんの強い眼光が眩しい。

 自信に満ち満ちていて羨ましい。



「その役割はこちらでやるから正直関係ないと思うけどね☆」

「ですね。ミドリ様方には別の露払いをお任せ致しますので」


「別、ですか?」


「そうじゃ。どうやら魔王国が色々めちゃくちゃになっておるみたいでのう。大半が乗っ取られておるせいでこちらに、というより厄災である“暴食”を御するつもりで邪魔なのじゃ」



 船の上である程度の事前知識は聞かされていたから、魔大陸の大部分を占める魔王国があって魔王が存在するのも知っていた。しかし、まさか相手取ることになるとは。




「内部のいざこざはともかく、流石に私たちでも一国を相手に立ち回れるかは微妙ですよ?」

「一応ある程度の兵力は用意するよ☆ 君関係の増援も見込めそうだしね☆」



 私関係っていうと……ファンくらいしか思い浮かばない、私の知らぬ間にそういう団体が結成されているのだろうか?



「シフ、そやつらの到着はいつじゃ?」

「ん~、あのペースなら明後日ぐらいかな☆」



 それまではここで待機になるのか。作戦とかも皇帝さん達に任せるから気長に待とう。



「何か勘違いしているみたいだね☆ 増援は竜の巫女と四季の魔女だけだよ☆」

「え、どちらも私知らないんですけど」


「その辺は直接会えばわかるさ☆」

「説明が面倒なだけですよね」



 無駄な焦らしをしてくるシフさんに文句を垂れていると、皇帝さんが咳払いをして話を切り出した。


「ミドリ、ぬしはコガネと共に魔王城を攻略せよ」

「んんーと……ハードル上がってませんかそれ」


「補足いたしますと、向こうの軍は近郊の町にいるはずですので、二人で諸悪の根源と魔王を倒していただくという算段です。潜入という形のため、二人に行ってもらいます」



 まあ、正面から攻略するわけでもないし可能ではある、のかな?

 しかも今の言い方的に魔王とは別のより強い可能性のある存在もいるみたいだし、かなり厳しいのではないだろうか。



「もう少し人増やせませんかね? せめてパナセアさんがいてくれた方が選択肢も増えるんですけど……」

「選出はシフ担当じゃ」

「彼女は殲滅に向いているからね☆ あとは種族的な問題もあるからかな☆」


「種族ですか?」

「そこは説明するとどこからすればいいか分からないから☆ それより、陛下☆」


「うむ。あらかた伝え終わったゆえ、次の行動を示そうではないか」



 皇帝さんはパシャっと音をたてて立ち上がる。

 足湯からは出ないようだ。



「貴様ら〘オデッセイ〙には暇を出す! 増援が来るまで、あるいはこちらの準備が整うまで、存分に休むがよい!」



 ビシッと私に指をさしている。



「…………」


 別に労働しているわけでもないし、むしろゲームだから遊んでるまであるから不思議な気分だ。

 私が黙ったことでできた何とも言えない微妙な沈黙が、足湯の温かさとせめぎ合っていた。




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