##6 無彩の花園
昼食が終わったので、私たちはようやく本題である観光に出発した。港の方にいい場所があるらしい。
のんびり町中を歩いているのだが――
「ひとっこ一人いませんね。何かあったんですか?」
時々住宅の窓から視線を感じるだけで、人の営みが感じられない。ここは出不精の集う町なのだろうか。
「外の方々に緊張しているのでしょう。それより、もうすぐ見えてきますよ」
〈どらごん!〉
「……とても懐かしい香りだ」
どらごんとストラスさんが何かの匂いを嗅ぎとったようだ。こいつら、犬かなにかなのかな?
少しそのまま歩くと、全てグレイスケールの花園が見えた。
「何故町中にあのような花々が……?」
「もともとこの町は、あの花を囲うようにできたそうなのですよ――」
この町の歴史を聞きながら、港を一望できる花園の奥まで歩いていく。
歴史を知るということは、すなわち今の町の情報を集めれられるということ。私とパナセアさん、ペネノさんは集中して聞き、ほかのメンバーはなかなか見られない色合いの花を眺めながら流し聞きしている。
◇ ◇ ◇ ◇
かなり長くて主観的で盛っていそうな内容だったため、超簡単にまとめると――
「昔、色を司る神様がここに住んでいて、失踪した隙に恩恵を求めて囲いこんだというわけですね」
「それは何とも言えませんが、もしかしたらそういった下心もあったのやもしれませぬな」
はるか昔の話なので誰かを責めているわけではないが、やりすぎな壁について聞き出せる空気にしたのだ。
私も意地悪な堕天使になったなー。将来は美魔女と呼ばれること間違いなし。
「外の壁は、色の神にとって目印になるようにしたといったところかい?」
「さて、あの壁はずっと昔からありまして、由来までは伝わっておりませぬ」
パナセアさんが聞き出そうとしたが、当たり障りのない返答が返ってきた。
ちなみに、この場にはクマさんと私とパナセアさんだけで、他のメンツはここの名物である色彩の樹とやらを見に行っている。
つまり、地味に鋭いコガネさんあたりに勘繰られずに済むわけなのだ。
「そうか、であれば仕方ないな」
「ですねー。過去へ歴史体験の旅っていうのも不可能ですし、伝わっていないならどうしようもないですから」
「ははは、過去への旅なんて、愉快なことをおっしゃいますな」
愉快愉快と笑っているクマさんの横で、私はパナセアさんに耳打ちした。
「これ以上はやめておきましょう。慰安旅行なんですし、なるようになりますよ」
「君が言うなら私は構わないが……」
まだどこか晴れない顔をしている。
きちんと謎を解明しようとするのは学ぶ姿勢の表れ。パナセアさんは発明家だけど、それ以前に学ぶ者としての
「よし、私たちも色彩の樹を見に行きますよー」
あんまり警戒しても休暇にならない。
気分を切り替えてはしゃぎ倒そう。
◇ ◇ ◇ ◇
「これはこれで趣がある、ような気がしますね」
「ハッキリ言うと味気ないがね」
「手厳しいですな。しかし、収穫期になれば実ができまして、それがとてもいいものでして――その価値はこの町の財源の半分にも及びます」
クマさんは誇らしげに語っている。
財源の2倍の価値なんて相当すごい。何か特殊な効果でも付いているのかもしれない。
「どんな実なんです?」
「この樹に数十年に一度、一つのみできる実で、伝説の“ゲルビュダットの実”のもととなる実でございます」
「ゲル……あれ、どこかで聞いた事があるような――」
「私は初耳だね」
「様々な英雄に力を授けてきましたから、英雄譚の記述で見かけたのでしょう」
英雄譚なんて私は読んでないから別件だと思うが……うーん。
パナセアさんがいない所でってなると、候補は王国か帝国か、奈落かこないだのイベントか。その中で実を食べたりその話題になりそうなのは――――あ!
「私それ食べたんでした。それでユニークスキルを手に入れたんですよ」
「へぇ?」
「な、なんと!」
ログイン一日目か二日目かそこら辺でぼったくりに買わされて、その後女神のフェアさんに催促されて食べたんだ。その時に手に入れたのが、最近使い所に困っている【ギャンブル】である。
ユニークスキルを獲得できる実の原料が、この樹の実ってかなりすごいなー。
「あの実、赤く点滅してたんですけどここでもそうなんですか?」
「いえ、それは加工によるものですな。もとに色はありませんゆえ」
「待ってくれ、気になる点は多いが加工だって? スキルの獲得なんて芸当、システムへの直接関与だぞ。一体どこの誰が加工をしているんだ?」
パナセアさんが本気で問いただしている。
珍しく取り乱している様子だ。
いや、取り乱しつつも、何かに期待している。
「実の名前の通り、ゲルビュダット氏が加工して裏市場に流しております。今は“黎明”を名乗っているのですが、神話の時代はその名だったようです」
「……ミドリくんは何か知っているかい?」
「いえ、中二っぽい名前だなーとしか思わなかったぐらいには知りませんよ」
「そうか……まあいい。君と居ればそのうち分かるだろう。そんな気がする」
パナセアさんは気持ちを切り替えて周囲の観察を始めたようだ。
ただ、まるで私がトラブルメーカーみたいな言い草なのは気に入らない。私にトラブルが引き寄せられるのではなく、トラブルを解決するために突っ込んだ先で別のトラブルと遭遇しているだけなのだから。
「ん〜? 何かあったん?」
「いや、不思議な光景だなとね」
「せやねぇ」
コガネさんがヌッと戻ってきた。
気配が朧げだからびっくりしてしまった。コガネさんへの興味がそそられつつも、私はもう一度無彩色の樹を眺める。
微かに懐かしい香りがするような――
「ミドリはーん! ストラスはんとどらごんはんが喧嘩しとるさかい、おさめてー」
「はーい」
放っておいてもいいのだけど、あの一人と一匹は、下手したら花園を荒らしてしまうくらいにはブレーキが無いので止めに向かう。
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