##7 レイアス脱出作戦(強行突破)
夜――といっても23時頃だから私とパナセアさんくらいしか起きていない。
かくいうパナセアさんも、空間拡張機能付き持ち運び用開発部屋とかいう凄そうなものを使って開発に没頭している。そのため、部屋には私だけ。
「はぁ……何か暑くなってきたかな?」
「せやなぁ。夏の夜にしては暑すぎるねぇ」
「うわ!? ――コガネさんいつの間に?」
「そろそろやと思うてなぁ」
コガネさんはまだ起きていたようで、たった今ログインしたようだ。しかし、わざわざこんな時間に何の用だろうか?
「そろそろって何がです?」
「制限時間や。その様子だと気付いてないみたいやな?」
「?」
「今、うちらが無彩色になって気分がいまいち盛り上がらへんのに、ステータスに関するアナウンスがないのは変やと思わへん? 勘やから断言はできんけど、今は確定してないんとちゃう?」
つまり、彼女はこう言いたいわけだ。
――最悪取り返しのつかないことになる、と。
「……分かりました。でも、その制限時間というのはどうやって――」
「勘や」
「えぇ……」
自由すぎる。野生の勘か乙女の勘かは知るよしもないが、結構無茶苦茶だ。
自由奔放なコガネさんに少し引いていると、窓の外に人の気配を感じた。窓は木製なので姿までは見えない。
コガネさんも気付いたようで、無言で顔を見合せてから私は窓を開けた。
「こんばんは、天使さんに狐さん」
「――ッ! 【適応】!」
「はいストーップ! ミドリはんストップ! ストップや!」
魔女っぽい老婆が窓の外で眠った幼女を背に乗せながらホウキで飛んでいたので、思わず剣を抜いてしまった。コガネさんが止めてくれなければ今頃真っ二つにしているところだっただろう。
もしかしたら通りすがりの子守り好きのおばあさんかもしれない。まずは話を聞くとしよう。
「さて、どこから話したものかネ……」
「まずは自己紹介では? 私はミドリです」
「せやなぁ、うちはコガネや」
「聞いた通り聡明な子達でネ。あたくしはエスタ、後ろのはウイスタリアだよ」
エスタと名乗るおばあさんは優しげな笑みを浮かべる。いかにも魔女な格好だが、いい人なのは年季の入った笑顔で感じられる。
未だ眠っている幼女は、角と尻尾があり――
〈どらごん!〉
「うわっ!? って貴様女子部屋に入ってこないでくださいよ!」
〈どらごん!〉
「はいはい分かりましたから帰りなさい」
「いや、どらごんはん、あのエルフはんを起こして連れてきとぉくれやす」
〈どらごーん〉
「コガネさん?」
「その子供が竜なのか聞きたいことはあるかもしれへんけど、まずは囲まれてるのをなんとかせなあかん」
囲まれている?
一体何に……?
「ミドリくん! おっ見知らぬ客がいるな?」
「安心おしナ。あたくしらはこの天使さんの味方だからネ」
パナセアさんが慌てた様子で出てきて、エスタおばあさんを警戒する。しかし、事態は一刻を争う、と前置きして私に警告した。
「あと数分以内にこの町から出ないといけない。無彩色に完全に侵食されてしまう」
「…………了解です。何かごちゃごちゃしてきましたけど、ひとまずここから脱出しましょう」
タイミング悪く、エスタおばあさんと遭遇したせいでややこしい。ともかく、この人は関係なく私たちがマズイ状況だからここから立ち去るしかない、という認識でいいだろう。
「あたくしが飛んで妨害しておくから早く行きなさいナ」
「もしかして貴方達はフェアさんの――」
「ミドリはん話は後や! お先行くで!」
「私も無彩色のままというのは嫌だから失礼するよ」
「あちょ……私も嫌ですよ!!」
二人が先行して逃げる。
窓を蹴り破り、他の家の屋根をつたって外へ向かっている。
「何だ何だ!? 何事だ!? ええーい、とにかく我が愛する天使を追うぞ大根!」
〈どらごん!〉
後ろから元気な声が聞こえたが、ツッコミたい気持ちを抑えて屋根の上を走る。立ち止まったら何故か追ってくるこの町の人達に何をされるか知れたことではないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁはぁ、久しぶりにこんな走ったわぁ……」
「何とか町の外には来れましたけど、寄ってたかって追い回すなんて酷いですね」
しかも、物を投げてまで足止めしようとするのだからなおのこと大変だった。ちなみに私は、まだどうして追いかけられたのか分かっていない。
「……ミドリくんはまだ理解が置いてついていないようだから説明するが、レイアスにはもともと神がいたのは知っているね?」
「色を司る神でしたね」
「そう、その神が立ち去って町ができたと伝えられている。そして問題はその後だ」
「まさかその神が――」
「いや、恐らく別の存在だろう。何の目的があるかは皆目見当もつかないがね」
尚更犯人に心当たりがある。私の足に取り憑いている虹色の犬ならワンチャンできそうなのだ。
――ワンちゃんだけに。
「ともかく、レイアスには土地にかけられた呪いのようなものがあり、それは1日ほどで外から入ってきたものの色を奪う、という解釈だ」
「ほう、
「結構強力な呪いやなぁ……」
〈どらごん〉
ストラスさんとどらごんは近くの岩場へ向かった。
何にせよ、経緯は私的には
「なぜ住民は私たちを推しとどめようとしたんでしょう?」
「…………流石天使、純粋だね」
「せやな、羨ましいぐらいに」
「?」
「すまない、少し驚いただけだ。あれは人の醜い部分の象徴である足の引っ張り合いというやつだよ。差別的なものではなく、無彩色状態はデメリットがあるようだから」
ああ、そういう。足の引っ張り合いなんてされる環境にいないから私が無知なだけだったようだ。
それにしても、性善説を信仰してる脳内お花畑ではないけれど、実際に見るとここまで醜いんだ。もしこの世界に勇者みたいな存在がいるのなら、ああいう人達も救おうとするのだろうか。
「無彩色状態のデメリットって何なんや?」
「さあ、そこまでは調べきれていない。そもそも私は発明家であって呪いなんて専門外なんだ」
「あの状態になると寿命は半減、生命の活力は激減、他所の町へ行くと白い目で見られる、ってとこかナ」
二人が話している横から、ホウキに乗ったおばあさんが登場した。先程囮になってくれたエスタさんである。
「そういえば機械の君にはまだ自己紹介していなかったネ。あたくしはエスタ。――しがない魔女だよ」
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