#58 世界一贅沢な山頂キャンプ
「はぁ……ひぃ…………」
「ぜぇ、ひゅぅ……」
「あと少し…………」
「そう。あと少しだから気合いでいこう」
「賑やかだねぇ☆」
昼休憩を挟んで、絶賛山登り中。私だけ飛ぶのも申し訳ないから歩くと言ってしまった手前、引き下がれなくなってしまったのだ。
「む、頂上だ」
先頭のパナセアさんのその言葉に、体力に限界のある私たちは声も出さずに歓喜する。シフさんが何故か余裕なのは少し納得がいかない。
ようやく到着した山頂は、夕焼け色に染まっていた。
「ふへぇ〜」
「もう、無理っす……」
「……」
三人揃って勢いよく倒れ込む。サイレンさんは既に屍のようだ。
「今日はここで野営にしようか☆」
「まぁ、この惨状を見て尚強行させるのは悪魔ぐらいだろうさ」
「そんなこと言われたらわたしも強行させたくなるけど……ちょっと色々あるからここで泊まろう☆」
「胡散臭いな……」
元気な二人が喋りながらテントの準備を始めているのを視界の端で捉えながら、息抜きに、というか息を整えながらコメントを眺める。
[セナ::お疲れ様〜]
[無子::よく頑張った]
[天麩羅::絶景を写してくれー!]
[毎日シュウマイ::その山脈、日によっては雪降るから運良かったね……]
[味噌煮込みうどん::山を一日で踏破した根性凄]
[唐揚げ::おつ〜]
お腹空く名前の人ばかりだ。
「名前で、飯テロ……やめてくだ、さい」
息切れ全開でそこそこ理不尽な文句をぶつけてみる。
ご飯といえば、今日の夜ご飯どうするんだろう? 昼は運良くやっていた農村のBBQパーティーに混ぜてもらったけど……。まぁ、そこら辺をシフさんが考えていないとは思えないし、全部任せとこう。
「平和ですね〜」
「っすね〜」
「だね〜」
今から行く連合国は内部分裂してるらしいし、束の間の休息とかいうやつかもしれないけどね。
「元気ならこっちに来てみるといい!」
少しずつ体力が戻ってきて、動きたくなくて寝そべっていると、私たちを呼ぶパナセアさんの声が聞こえた。珍しく興奮している様子で……いや、定期的に知的な興奮はしてるからそうでもないか。ともかく、子供みたいな無邪気な
寝そべったまま三人で顔を見合わせ、ゆっくり、ノソノソと効果音が付きそうな具合で起き上がる。
マナさん、サイレンさんと順に声のする方へ歩き出したのに続く。
途中、完成しているテントを見かけるが、シフさんがいつの間にか居なくなっていた。どうせほっつき歩いているだけだし気にしても無駄か。
「うわぁ〜! 凄い綺麗っす……」
「おぉー!」
先行していた二人が感嘆の声を上げている。ちょっとした高台でいい景色なんだろう。私も上がって見てみる。
「…………綺麗ですね」
思わず言葉を失ってしまった。絶句するような景色で絶景なのかもしれない。
夕焼け色に染った帝国領や元聖王国が見渡せる。反対側に行けばこれから行く連合国の街並みも見えるかもしれないけど、それは明日のお楽しみにしよう。
[紅の園::うわあ!!]
[無子::うおー!]
[カレン::絶景!]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::山登りの醍醐味よな……]
今日はここら辺で終わろうかな。あとは寝泊まりするだけだし。絶景を見せてあげたから皆満足だろうし。
「今日の配信はここらで終わります。お疲れ様でした」
「バイバイっすー」
「唐突に終わるね、また明日ー」
「お疲れ様」
挨拶を済ませ、配信を切る。
「さて、私が呼んだ理由はこの景色では無いんだよ。静かについてきてくれ」
三人無言で頷いてパナセアさんの後を追う。パナセアさんの表情がいつにも増して真剣だったからだ。ここに私たちを呼んだのは、ここから先に何か危険なものでもあったのだろうと
至る所にある岩場の影にコソコソと移動していると、大気が唸るような重々しい音が響いてきた。
「あれだ」
パナセアさんの示した指の先を、岩陰から覗き込む。
そこに居たのは――巨大な鶏だった。
〈どらごん!〉
「こら、振り回しちゃメッすよ」
〈どらごん……〉
どらごんが蔦を振り回し始めたのをマナさんが制止させた。でも、そうなるのも分かる。あの巨大な鶏は青い雷を四方八方にばら撒きながらいびきをかいているが――。
その威圧感は、最初に遭遇した時のどらごん鹿形態にも劣らないのだ。
「
できるだけ声量を抑えて、鶏を起こさないように指示を出して立ち去る。
隠密行動でキャンプ地まで戻ると、シフさんと見覚えのある人が私たちを待っていた。
「貴方は確か、クリスさんでしたっけ?」
「そそそ、そうですぅ。あ、あの時はお世話になりましたぁ、今回もだけどぉ……」
野生のどらごんと交戦した時に出会った眼帯が特徴的な、常に挙動不審な人だ。こんな所で再会するとは驚いた。
「シフさん、どういう経緯で?」
「行き先が同じだから、どうせなら一緒にどうだいってね☆ 偶然この山に登っているのを見つけて誘ったんだよ☆」
「なるほど。見かけによらず良い事もするんですね」
「酷い言い草だね☆」
「お久しぶりっす!」
〈どらごん〉
「こんばんはー」
「……ふむ、まあ旅は道連れ世は情けと言うし、よろしく頼むよ」
意外な人物の登場に驚いていた面々も、元気に絡みに行っている。パナセアさんは少し距離を置いているようだけど。もしかしたらクリスさんみたいな人が苦手なのかもしれないなー。
「おっと、忘れるところでした。シフさん」
「ん、何かな☆」
「あっちに雷を放つ大きな鶏が居たんですけど、あれは何か知ってます?」
「あー、その鶏は“
どらごんと同格のやつだったのね。道理で凄い威圧感だと思ったわけだよ。
「もしものことがありますし……」
「ちょっかい出さない限り平気平気☆ そんなことより夜ご飯にしよう☆」
「えぇ……」
この人の危機感大丈夫? 近くで化け物が居るのにそこで寝れるわけない。どうかしてる。
「それにあの鶏は、我らが皇帝陛下のペット的な存在だからね☆ 放ち飼いでたまにここに来ては、肩こりをほぐしてくれてるんだよ☆」
肩こり? あの明らかに感電死しそうな雷で?
……この世界なら雷耐性とかがあるのかもしれないよね。きっとそのはず。
「ペットなら先に言ってくださいよ」
「ペットではないけどね☆ 刺激して雷を打ってもらってるだけの鶏だから☆」
それならもう、最近では廃れた電気屋さんのマッサージ機を勝手に使ってる迷惑な客じゃん。ペット的な要素欠片も無いじゃん。
「シフさんもマッサージしてもらっては?」
「何か恨みでもあるのかな☆ 今のわたしではあんなの食らったらひとたまりもないよ☆ ジェニーだからこその話☆」
そう言いながら、どこからか現れた謎の黒い立方体から大きな鳥の死体やら、既に火のついたBBQセットを取り出した。
「!?」
「あー、これはわたしのスキルで君達異界人が全員持ってるような代物だよ☆」
呆気にとられていると、説明してくれた。私たちで言うところのストレージをスキルとして獲得しているのか。本当にびっくり箱みたいな人。
「ご飯にしよう☆」
「その前に、一応聞いておきますけど、あの鶏は皇帝陛下さんみたいに雷の耐性とかが無いと戦うのも難しい感じですか?」
対抗手段を聞いておくのに越したことはない。それが身近に眠っているなら尚更だ。
「ん? 雷耐性なんて持ってたかな……☆ 普通に素のステータスであの雷を苦にしてなかったと思うよ☆」
「はい?」
いやいや、さっき見た限りでも近くの大岩を寝ながら砕いてたよ?
「だってジェニーのレベルは確か……あ、最近200を超えたとか言ってたね☆」
「にひゃくっ!?」
それ、絶対私たち要らないよね!
一人で何でもできるレベルだと思うよ!?
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