#57 【AWO】新たな旅路with変質者【オデッセイ】
一階に行くと、サイレンさんとパナセアさんが仲良く食パンを頬張っていた。パナセアさんは変わらず白衣とお団子の髪だけど、その隣のサイレンさんは服装が変わっている。
「お〜」
「かわいい服っすね〜」
セーラー服だったのが、街中でよく見かける町娘的な衣装になっている。
「おはようございます」
「おはようっす〜」
〈どらごん〉
「おはよー。お、イメチェンしたんだ?」
「来たか、おはよう。なかなか似合っているね」
私たちを見て、あまり驚くことなく褒めてくれる。もしかしたら服に合わせて髪型も変えるのも察していたのかも。
「サイレンさんのそれ、町娘コスプレですか?」
「いや、たぶん赤ずきんの青バージョンだと思う。青多めだし、頭巾あるから」
本当だ。被っていなかったから気付かなかった。
「可愛いですね。お似合いですよ」
「そうっすよ!」
「うーん、ぼくも似合ってるとは思うんだけどね……」
どこか不服そうな表情をしている。一体何が不満なのやら。空いたパナセアさんの向かいの席に腰をかける。私の横にマナさんも座る。
「毎朝、受け取ってくれてありがとうございます」
「助かるっす」
「ついでだからー」
「その通り。大して手間でもないからね」
二人が起きる早朝は空いていて、私たちが起きる時間帯だと朝食を受け取る所がそこそこ混んでいるから本当に助かっている。
「それでもありがとうございます。いただきます」
「いただくっすー」
食パンを口に入れ、咀嚼。いい具合にホカホカで、食感もモチモチとサクサクの中間で噛むごとに違う物を食べているようで楽しい。
食パン本来の味を楽しんだので、お次はジャム有りでいただく。
「んぅ……ゴクッ、美味しいですね」
「っすね〜」
この苺のジャムは濃すぎず、薄すぎず、食パンの味を最大限引き出す立ち位置にある。その甘さと香ばしさが口の中で氾濫して、食べている最中なのにも関わらず、より食欲が掻き立たされる。
これが食の永久機関か!
私が苺ジャムの食パンを味わっている横で、マナさんも同じように食べているが、マナさんのはバターだ。
朝のパンに塗る物問題で別れる夫婦の話もあったりなかったりするし、触れないでおこう。よくインターネットでは無駄な論争とかしているが、各々好きなのを楽しめばいいのにって思う。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまっす〜」
お皿を重ねて返却する所へ持っていくと、マナさんが後ろをついてきていた。
サイレンさんとパナセアさんが、二人で新聞を読んでいたから入りづらかったのかもしれない。順調に距離が縮まっているようでなにより。
「顔洗いに行きましょうか」
「そうっすね」
宿屋の裏口から出て、路地裏の井戸で水を引き上げて顔に掛ける。もう数日も使ってるから慣れたもので、初日とは違って服に全く掛からなくなった。今思うと、浄水技術も気になる。どうせ魔道具とかだろうけどね。
再び宿屋の中に戻り、元々居た席へ。
「準備完了です。おまたせしました」
「完了っすー」
「はいよー。これ、待ち合わせ場所だって」
「本当に神出鬼没な人だったな……いや、あの異様な雰囲気からして人間でもない気がするが」
サイレンさんから渡された小さな紙切れを見てみると、シフさんとの集合場所が書かれてあった。私たちが席を外している間に現れたのかな。
「北門っすか」
「行き先的にも順当ですね。わざわざこれを渡した理由は分かりませんが」
「ぼくも要らないって言ったんだけど、それはミドっさんが持ってて一人迷子になったら取り出してくれればいいってさ」
「そうですか……」
この紙切れが私の迷子癖を何とかしてくれるとは到底思えないんだけど。まぁ、あの変な人が言ったことだし気にしても仕方が無い。無視無視。ストレージに放り込む。
「何にせよ、そろそろ集合場所に向かいましょうか」
「そうっすねー」
「おー」
「そうだね」
朝から受付を利用してる客は居ない。スムーズに手続きを終わらせて宿屋を去る。
「新聞読んでましたけど、今日は何か面白い記事ありました?」
サイレンさんに道すがら尋ねてみる。
「面白いのは無いけど、何かエルフの集落から手配書が出されたとか」
「手配書っすか?」
「一体何のですか?」
「エルフの王族らしいよ。確か名前は……」
思い出せないようで、パナセアさんに目線でパスを出した。私の目は誤魔化せないよ〜。
「ストロア・アルクス・スティファノス、とかだったはずだ」
「へぇ〜、しりとりみたいですね。意味とかも分かったりします?」
「すと??」
長い名前を必死に聞き取ろうとしていたマナさんが困惑する中、深堀りしてみる。興味はあまり無いけど、今絶賛金欠だから手掛かりが掴めるならあわよくばという気持ちがある。
「私も別に外国語に精通している方ではないから確かな事は言えないが、アルクスは弓の意味を持っていたはず。ラテン語だったか……? その辺りでアーチェリーとかの語源だった記憶がある。他の心当たりは無い」
「ほぇ〜」
「よく分からないっすけど、物知りっすねー」
「流石パナセアさん。天才」
〈どらごん〉
「GIGI……テンサイテンサイ」
「ふふん♪ まあね」
アーチェリー経験者なのかな? まぁ、弓だと分かっただけでは何の手掛かりにもならない。名前だけで特定できたら手配書なんて出されないし、当たり前なんだけどね。
「あ、そろそろ配信始めますね。そいっ!」
褒められてご機嫌になったパナセアさんを横目に、世情を聞きながら準備していた配信開始ボタンを元気よく押す。
「おはようございます、ミドリです」
「世界のアイドル、マナっす!」
oh……!!
「素晴らしい挨拶ですね。まさにマナさんを体現した決めゼリフかと。ずっとそれでいきましょう」
「え、何か照れるっすよ……」
マナさんが赤面して顔を逸らしている。何この可愛い生き物。お持ち帰りでお願いします。
「ぼくらのターンが一生来ないじゃん」
「パナセアだ」
〈どらごん!〉
「GIGIGI……オハヨゴザマス」
「無理矢理ぶっこむのか……ぼくはサイレンです。ども」
[ベルルル::開幕からカオスだ……]
[壁::おはデッセイ〜]
[紅の園::マナちゃんカワワワ]
[芋けんぴ::一日ぶり]
[燻製肉::イベントランクイン乙でした!]
[階段::タイトル回収]
自分で言って照れてるマナさんに抱きつきながら、コメントを一瞥した後、軽くお礼を述べる。
「イベントランクイン、乙ありです。あまりその話はしないでください。あと、タイトルの変質者は今から会う人ですので、この場には居ませんよ。何を言ってるんですか?」
「変質者……誰のことっすかねー」
「イベントランクイン、オツアリー」
「傍目にはミドリくんは変質者というより変態だから確かに変質者ではないかもしれないな」
「……」
冷たい目で見られるいわれはないのになー。マナさんのジト目は世界遺産だから嬉しいけど。
とりあえずマナさんの頬をムニムニしておく。
[死体蹴りされたい::イベント風景のCM楽しみ]
[あ::美少女の皮を被ったロリコン、確かに変態]
[蜂蜜穏健派下っ端::てぇてえ]
[カレン::ほっぺたモチモチかあいい]
[天変地異::懲りてなくて草]
[病み病み病み病み::こうなると本物の変質者が気になる]
「あ、イベント報酬確認してませんでした」
「クランのはリーダーに配ったってメッセージが来てたよ」
「私は個人のでスキルスクロールを貰った」
「ちょっと待ってくださいね……」
名残惜しいけど、一度マナさんから離れてメッセージを確認。内容は読み飛ばして報酬だけ受け取る。新たにストレージに入ったのを見てみる。
「クランフラッグとスキルスクロールが貰えました。クランフラッグが何かは分かりませんが」
「アイテム鑑定のスキルを持ってるから、見せてくれれば何か分かるかもしれない」
「じゃあお願いします」
ストレージから出して、パナセアさんに真っ白な旗を差し出す。
「【アイテム鑑定】、ほう、クランハウスとやらに置いておくとクランメンバーのステータスが上昇するようだ」
クランハウスなんて聞いたことがない。そこら辺の用語は基本的に公式サイトに載ってるから、追加予定の要素なのかもしれない。
パナセアさんから返された旗を仕舞うと、丁度検問の列が見えてきた。
「やあ☆」
「うわぁ……出ましたか、変質者」
「ぴゃっ!?」
「っ!! びっくりしたー。毎度毎度心臓に悪すぎるんよ……」
「…………私の
〈どらごん!〉
私たちの背後取って声を掛けてきた人物は、ニヒルに微笑むシフさんだった。
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