#56 イメチェンします



 今日も今日とて元気にログイン。


「おはようございます」

「おはようっすー」


 私が体を起こすと、横にいたマナさんも起きた。今日はかなり寝起きが良い。早めに寝たからかな。



「新しい服に着替えましょう」

「っすねー」



 マナさんはクローゼットに入った服を取り出し、昨日貰った新品のパジャマから着替える。私もストレージから以前頂いた服を取り出す。

 白に金のアクセントのあるかっこいい軍服だ。

 帽子もあってよりかっこよさが出ている気がする。



「よし」

「かっこいいっすねー! マナのはどうっすか?」


「完璧です」

「いぇーいっすー」



 あまりの可愛さに、食い気味で即答してしまった。だって仕方ないじゃない、ただでさえ可憐なマナさんが、黒ベースのお洒落な服を着ているのだから。

 イメージカラーっぽい白とは真逆なのに、めちゃくちゃ似合ってる。その上、おまけで貰った金属の胸当てや肘当てが素晴らしい。


 私の白と金、マナさんの黒と銀で実質ペアルックだ。これはもう露骨な匂わせ。キンモクさんに感謝でしかない。



「それにしても何か大量に貰っちゃいましたよね……」

「っすねー」



 マナさんと私の服は私が収納してあるが、今回のだけでなく、水着やドレスがあった。私のドレスは以前貰ったから無かったけど。



「そろそろ――ん? どうかしましたか?」



 マナさんが、キラキラしたそのまなこで私の方をじっと見つめていた。何か付いてるのかな?



「折角っすから、髪型も変えないっすか?」

「なるほど、イメチェンですか。やりましょうか」



 そうなってくると、この服装に似合うのは……ポニテかな。でも縛る物が無いからなあ。



「あっ、そういえばキンモクさんがいっぱい髪留めとかくれたっすよ。そこの引き出しに入れてたっす」


「何て用意周到なんでしょう……」



 指された引き出しを開けてみると、中には色とりどりのゴムやカチューシャ、ピアスなど、一体いくらしたんだと聞きたくなるくらい大量のアクセサリー類が入っていた。


 星付きの白いゴムがいい感じそうなので、それで髪を留める。


「かっこいいっす!」

「ありがとうございます。お次はマナさんの番ですよ」


「おまかせするっす!」

「ふふふっ……私のセンスでより完璧な美少女に仕立て上げて見せましょう!」



 まずは髪型。マナさんの無邪気さと純白さをより表現したのを脳内でシミュレートしていく。


 ツインテ、何か違う。ポニテ、違う。団子、可愛らしさを抑え過ぎ。三つ編み、かなりアリ。いや、編み込みの方が良いかもしれない。


 裏編み込みで耳から耳の間に編み込みを作って、後ろ髪はそのまま流そうかな。マナさんの髪は真っ白で綺麗だからたなびかせるぐらいが丁度いい。



「膝に来てください」

「はーいっすー」



 ちょこんと私の膝に座るマナさんを後ろから抱き締めたくなる衝動を抑えつつ、髪をいじり始める。自分以外の髪の毛を触るなんて、小さい頃人形でやった時以来だ。

 慎重に丁寧に編んでいく。



「そういえば、マナさんは何かやりたいこととかあります?」

「急にどうしたっすか?」


「聞いてないなと思いまして」

「あー、う〜ん、やりたいこと…………」



 私的には色々マナさんがしたいことをしていきたい。記憶の手掛かりになるかもだし。それに、クランのリーダーとしてみんなのやりたいことは把握しておいて損は無いからね。



「あったっす!」

「お、何ですか? 聞かせてください」



 後ろから編んでいるので表情は分からないけど、元気なのは伝わってくる。



「お腹いっぱい食べて、皆でワイワイしながらのんびりずっと一緒に居たいっす!」

「……」


 な、なな――


「ミドリさん? 聞いてるっすか?」

「……え、ええ。聞いてますよ。ちょっと予想外の方向で驚いただけです」


「変っすか?」

「いえ変ではなく、もっと物理的なものを想像してまして」



「あー、そういうのも考えたんすけどね。やっぱり今の幸せがずっと続けばいいなって思ったんすよ」



「確かに、そうですね」

「そうっすよねー」



 なんて優しい子なんだろう。全人類がマナさんだったら争いなんて生まれなかったかもしれない。


「よし。できました」

「おー! 大人になったみたいっす!」


 完成した髪型を、宿屋に置かれた申し訳程度の大きさの手鏡で見せる。確かに大人っぽいかもしれないけど、その感想の言い方は子供っぽくて大変和む。かわいい。



「さて、そろそろ朝食もまだですし、行きましょうか」

「そうっすね。二人も驚くっすよ〜」



 荷物をストレージに収納して部屋を出ると、ドアの横にどらごんが座っていた。体が小さいから座ってるというよりかは置いてあるって感じだけれども。


 〈どらごん!〉


「おはようっすー」

「わざわざ待っていたんですね。こいつ、オスなんですか?」


「たぶん男の子っすね」

「たぶん?」


 言葉が通じるのだからどらごんに直接聞けば分かるのでは?



「本人……本草? もたぶん男の子って言ってたからっす」

「まあオスということにしておきましょうか」

「そうっすね」



 植物だからおしべ、めしべとかの可能性もあるし、そもそもどらごんは根の部分に近いから性別は無いのかもしれないけど、気分的にね。本人じゃなくて本草も言ってるみたいだし。

 ……本草って、何かそんな学問があるって日本史あたりで習ったなー。



 いつも通りマナさんの肩によじ登って定位置についたのを確認し、階段を下りていく。

 どらごんよ、そこ代われ。



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