#55 第四回イベント“恐怖戦争”後編



「ふふふふふふふっ!」

「はあ……」


 湧き上がる狂気に身を任せ、構想を練っていると、パナセアさんが横に現れた。



「完全攻略したんだが……どういう状況だい?」

「お疲れ様です! 今、ダンジョンの構築を考えてるところですよ!」

「まあ、そうなんだけどね……」



 ハイテンションな私とは対称的に、サイレンさんは何か呆れている様子だ。どうしたんだろう?


「…………何故そんなに元気なのかな?」

「え? 私はいたっていつも通りですけど?」

「ゴキブリに精神をやられて、ゴキブリダンジョンを作るとかのたまってるんよ」


 精神をやられてるなんて、酷い言い草。私はただゴキブリが有効であると証明したいだけなのに。



「揃いましたし、作りますね」

「一人一階層ずつにしない?」

「名案だ」


 この二人、まさか――

「分かりますよ。オリジナルでゴキブリ様のマップを作りたいんですよね! それなら仕方ないです。順番に決めましよう!」


「「違う」よ」


「何故?」

「こっちのセリフなんだけどなー」

「私はもうおおかた決めてるからね」



 まあ、私が独占するのも良くないし、順番で決めようかな。タッチパネルを操作して、階層を追加する。


 現在所持ポイントは473。内訳は通常攻略報酬、完全攻略報酬、その他特別階級攻略報酬、リタイアでのマイナス。


「かなりガッツリ稼ぎましたね」

「ああ、おそらく最後の仕掛けが高得点だったのだろうね」



「どんなのでした?」


 早速一階層の配置を始めながら、尋ねてみる。


「妙な箱だった。開けたら水や雷雲などが出現するやつだったね」

「あー、特別階級のリストにあった、パンドラの箱ですね」

「うわ、有名なやつじゃん」


「ほう、これか。……高いな」


 パナセアさんがボヤいてるが、おそらく配置の際にかかるポイントのことだろう。


「災害を生み出すとかいうやつでしたし、それぐらいが順当かと」

「そうだがね……。あ、そういえば、ミドリくんが言っていた底なし沼が無かったのだが」


「あー、伝え忘れてました。後からリストで探してみたら、飛行してる獲物を叩きつけ、その場所に底なし沼を出現させ、直近の強い嫌な物を見せる幻術を放つコウモリだったみたいです」

「なるほど。飛行しなければ何も無かったのか。なかなかバリエーション豊富だ」

「かなりえぐいコウモリだねぇ」



「ですねー、…………できました! 題して、ゴキ様の魔窟です!」



 二人に画面を見せる。そう、ゴキブリ様を大量に詰め込んだ、この画面を。



「うわぁぁ…………」

「ポイント結構使い込んでるね」


「そういえば、私パナセアさんに貸しがありましたよね。今使います。貴方が稼いだポイントをゴキブリ様の出現費用に使わせていただきます」

「そ、そうか。了解した……」


 仲間にも認められたので、これで確定っと。

 あとは二人に作ってもらうだけ。



「――――変な宗教みたくなってない?」

「――――ああ、あの目をしている知り合いを見たことがあるが、ろくな結末にならなかったよ」




「お二人も手早く作ってくださいね」


「はい!」

「もちろんだ!」



 コソコソとしているが、仲がいいようで私も嬉しい。



「今日もゴキブリ様のおかげで幸せですね……」


「ヒェッ!?」

「手遅れかもしれないな…………」



 何をそんなに慌てているのだろう?




 ◇ ◇ ◇ ◇



「やあ゛あ゛あぁぁぁぁ…………」




 いつの間にかイベントが終わっていて、宿屋の自室に居た。うずくまって先程までの醜態を反省する。



「大丈夫っすよ! 元気に生きてるだけで偉いっす!」

「マ゛ナ゛ざぁん゛!!」

「おわっ!? よしよーし、大変だったっすねー」

「大変でしたぁ……」


 マナさんに抱きついて慰めてもらう。

 マナさんの体温、ポカポカしてて落ち着く〜。



「大変だったのはぼくらだし、ミドっさんは大変というか大いに変だったんよ…………」

「その分無敵だったからよしとしてやりなよ、サイレンくん」


「パナセアさんが良いならぼくは別に良いんだけどね」

「あれはあれで楽しかったから構わないよ」


「そういうもんかねー」

「そういうものだよー」



 後ろで何やらぶつくさと話しているが、さっき終わった後謝ったじゃん。土下座で。

 テンションが壊れて記憶が曖昧だけど、変な宗教にハマってホラーが平気になって無双したのは何となく覚えてる。しかも私の作った例の気色悪い階層は突破されなかったから、全勝だ。

 あとは結果を待つだけ。



「マナしゃぁ〜ん」

「よしよし〜」


「変な方向に疲れたし、そろそろ部屋に戻る」

「私も戻ろうかな」


 マナさんとじゃれついていると、二人が席を立つ。席と言っても床だけど。



「あ、そういえば、キンモクさんが来て服をまとめて置いてったっすよ。そこのクローゼットに詰めといたっす。用事があるから見送りはできないけど行ってらっしゃい、って言ってたっす」


「受け取りありがとうございます」

「このセーラー服とも一度お別れか」

「私は何でも良いのだけどね」



 二人はクローゼットの所に行き、開けて自分の服を探し始める。もちろん私はこの極上の席を立つ訳が無い。



「嘘やん……」

「白衣が大量だ! 分かってるじゃないか!」



 落ち込むサイレンさんと、目を輝かせているパナセアさんを横目に、マナさんの柑橘系の爽やかな香りマナニウムを吸引する。



「すぅぅぅぅ」

「ちょっ、こしょぐったいっすよー」


「えへへ。良い匂いでつい……結果出たみたいです」

「おっ! どうっすか?」


「ホントだ」

「順位どうだろうね」


 タイミングが悪いけど、どうしようもない。

 オデッセイの文字を探す。



「おー、四位ですね」

「個別ランキングで二人とも入賞してるねー」

「ほう、特別階級攻略のか。パンドラの箱が大きいのかもしれない」



「すごいっす! 今日はお祝いでお肉にするっすか?」

「ステーキにしましょう!」

「……そろそろ金欠にならない?」

「祝いごと続きで、良い事だ」



 金欠なんて気にしてはいけない。

 最近めでたいことが多くて、出費がかさむが気のせいだろう。マナさんの喜ぶ姿のためなら借金を負う覚悟だってある。




「明日に備えて、今日は豪勢に食べて、早めに寝ましょう!」


「やったーっす!」

「最近そればっかりなんだけどね」

「私は少しイベントで酷使したから体のメンテナンスもしなければ……」



 かくして、第四回イベント“恐怖戦争”は、私が二人を恐怖させるという謎な展開で幕を閉じた。そして私の中で地雷、あるいは禁句として「G」が設定された――。第一部、完!


 なんてね。





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《第四回イベント“恐怖戦争”》


〈総合ランキング〉


1.フロントライン

2.Bright Bravers

3.剣&竜

4.オデッセイ

5.夜踏会

6.大連合

7.プラチナハート

8.じょんすみす

9.魔法研究所

10.あいうえお




〈特別階級攻略ランキング〉


1.匿名

2.ハク

3.パナセア



〈防衛貢献ランキング〉


1.タケ

2.ミドリ

3.匿名



〈完全攻略速度ランキング〉


1.匿名

2.仙老

3.ハク




 ランキングに応じて報酬を配布しました。メッセージからご確認ください。


 プレイヤーの皆様、お疲れ様でした。今までとは一風変わったイベントでしたが、楽しんでいただけたら幸いです。今後ともより良い異世界ライフを。


 怪異は、あなたのすぐ近くに――――


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